第31話 偵察
フガクとも無事合流したあと、寝た振りをしてこっそりと首都の宿から抜け出した。まだまだ科学文明が発展途上のイルダの夜空は、スモッグに汚染されることなく星の瞬きを明瞭に映している。
月光と星の光を頼りに、俺はマグマガントレットのもとに向かっていた。
首都からおおよそ百キロ離れた地点まで向かうと、地平線が紅蓮に染まっている。
ここが現時点でのマグマガントレット戦の最前線なのは一目瞭然だ。
その時、正体不明の信号弾が目の前を横切った。
「そこの男! 今すぐ降りて来い!」
「……」
どうして? と、声の主にジェスチャーを送ると、一発の弾丸が顔の横をかすめる。
「聞こえないのか!? 今すぐ降りて来い!」
今の一発が威嚇射撃の一環だったんなら、向こうの腕は確かなようだ。
声に従い、地面に降りると三人組のパーティーがいた。
「どこの国のものだ? 名前は? 年齢は? 何が目的だ」
「名前はシレト、出自に関することは言えないけど、マグマガントレットを見学しに来た」
そう言うと、三人の内の左脇に佇んでいた男が俺の左頬を殴りつけた。
「失せろ!! お前みたいな遊び半分の馬鹿がまだいたんだな」
「おい、ちょっと待てよ」
「何か?」
殴られると、ライフル銃を手にした一人が制止するような素振りを取る。
「シレトって言ったな、フガクっていうリザードマン種と知り合いだったりしないか?」
「フガクは俺の級友で、現在も同士として行動を一緒にしてる」
「つまり、お前は隊長が言ってた唯一の希望か」
フガクは俺を過大評価しているようだな。元々Sランククラスに同席し、その中でも首席だった俺を以前から怪物呼ばわりしていたけど、今度は唯一の希望という仰々しい肩書をつけてくれたのか。
「失礼しました、我々はフォウに雇われている傭兵団のものです。今はマグマガントレットの偵察任務を遂行している最中であり、千人長のフガク殿からの命により、何人だろうとマグマガントレットとの接近を許すなと言い付かっております。先ほどからの非礼の数々についてはご容赦くださると助かります」
三人組の偵察隊は、一転して俺に敬礼をし始めた。
俺に威嚇射撃をした奴も、俺を殴りつけた奴も、特にぶるってる感じはない。
「敬礼はいいよ、それよりもマグマガントレットの様子を肉眼で確かめたいんだけど、駄目か?」
「でしたら、私のライフルに付いている望遠レンズにて確認して頂けるのがいいかと」
肉眼で、って言ってるのに、融通が利かないな。
とりあえずライフルを借りて、望遠レンズを紅蓮に燃え盛る地平線に向けてみた。
「マグマガントレットは現在、真東より時速4キロでゆっくりと首都に接近中であります。推測されている限りの情報だと、マグマガントレットの弱点は呪われた足にあるとされております」
説明を受けつつ、望遠レンズで奴がいないか探し回っていると、狙撃兵が手を添えて教えてくれた。
「奴のために亡くなった犠牲者はもう百万人に上ると言われ、奴の討伐として決行された五十万の兵士を伴った大作戦もまるで意味をなしておりません。体格およそ全長およそ二メートルの黒い甲冑姿をしたモンスターがこれほど凶悪だとは誰が考えておりましたでしょうか」
説明された通り、黒い甲冑姿の化け物が悠然とこちらに接近している。
恐らくこの感じだと、今俺達が立っている場所も奴の射程圏内なんだろう。
左腕に握りしめられた火炎剣レーヴァテインは摂氏二千度を超えるとされ、白く輝いている。レーヴァテインを握っているマグマガントレットの左腕の黒い甲冑が熱によって赤く染め上げられていた。
とすると、あの黒い甲冑は摂氏二千度の熱を耐えきることができる優れものと考えて良さそうだ。問題は甲冑の中身、恐らく中には死神ジャックのような角を所持した怪物がいるのだろうが、能力が計り知れない。
「あれは、やばそうだな」
「おっしゃられる通りかと」
今、マグマガントレットに近寄って能力を奪取するのは不可能なようだ。
「三人の中に、マグマガントレットが火炎剣を使ってる光景を見た人は?」
尋ねると、先ほど俺を殴りつけた男が片手をあげた。
「俺は見ましたよ、あいつが火炎剣を使ってる所を」
「どんな感じだった?」
「わかりません」
「と言うと?」
「黒曜の剣士の名前は伊達じゃないということです、俺はあいつを討伐するために、五十万という戦力を一挙に投入した戦線に居たのですが、黒曜の剣士がピカッと光ったら、その次には戦力の一割は持っていかれました。俺が助かったのは名誉を求め、前に群がった他の人間が盾となってくれたからです。酷いもんでしたよ、人間の肉が焼きただれる臭いって奴は」
一振りで一キロ先まで紅蓮に燃え盛ると言うレーヴァテイン、あれも出来れば手に入れたいものだ。そうこう話してる間にも、マグマガントレットは着実にフォウの首都へと進行している。
「マグマガントレットの剣捌きは、一振りで人間を溶かすほどの熱を放ち、衝撃波も生み出すほどでした。奴が剣を振り下ろすたび、花火のような炸裂音が際立つんですよ、ドーン、ドーンって。俺が知っているのはこのぐらいです」
「……ありがとう、その情報だけでも助かる。俺がここに来た意味があったと思う」
「もったいないお言葉であります!」
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