第27話 運命の選択

 死神ジャックの授業を終えた後、なんとなく街道を歩き、最寄りの街に向かった。


 俺と一緒に逃げたベルとレイ、ルリは今頃何をやっているのか知りたかったから。


 ペインタイガーの姿だったため、以前は入れなかった街に入ると。


「……なんだろう、お祭りか?」


 街は活気づき、町民達の顔はにこやかだった。


「今日は何かあるのか?」


 近くを歩いていたもうろくした爺さんに声を掛けると。


「……おお、今日はほら、若い連中が一斉に挙式をあげるんじゃよ」

「へぇ、教えてくれてありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」


 若い連中が一斉に挙式をあげる、か……ちょっと覗いてみるか。

 街の入り口からでも見えていた、教会を目指すと。


「兄さん、どこから来たの? お名前は? これ、どうぞ」


 見ず知らずのご婦人から木の杯を渡され、酒を並々と注がれる。


「俺はカシード様が治める村から来ました、シレトと申します。たまの休暇旅行ですよ」

「いい時に来たもんだね、今日は数年に一度あるかないかって日だよ」

「村の入り口で聞きました、どんなカップルが結婚するんです?」

「誠実な組み合わせもいれば、そうじゃない馬鹿な連中もいるんだよ」


 誠実じゃない馬鹿な連中って、ライオネルのような〇ッチのことかな?


「まぁあたしの娘のことなんだけどさ、ハッハッハッハ!」


 こんな時、どんな顔をしたらいいのだろう? 中々反応に困るジョークだ。


「それでも、今日の花嫁はみんなお綺麗なんでしょうね」

「うんうん、そうであって欲しいもんだね、そろそろ結婚式が始まるよ」


 彼女がそう言うと、教会の鐘が空に鳴り響き、教会から伸びる赤い絨毯の上を、カップル達が白い衣装に身を包み、知っている顔などに手を掲げ、ゆっくりと教会の中に入っていく。


「イソップ、娘を頼んだよー!」


 俺に杯をくれたご婦人が娘の花婿に向かってそう言うと。

 次に視界に飛び込んで来たカップルの姿に、俺は数瞬見惚れていた。


「あの人達も、結婚するのですか?」


「ああ、そうだね。ここだけの話、あの二人は元は奴隷の身分だったらしいけど、この村に住むようになってから、誰よりも誠実に生きて来たんだ。もし領主様がお咎めでも与えようものなら、あたしは反発するけどね」


 ベルとレイの二人は、共に生きていく道を選択したんだな。


 五組のカップルが教会の中に入ると、外では人々が花吹雪の用意をし始めた。


「さぁ、兄さんも、兄さん力ありそうだし、ちょっと多めに渡そうかね」

「俺は街の人間じゃないし、このくらいで」


 名も知らない赤い花の花びらを持って、カップルが出て来るのを待っていると――カーン、カーン、カーンと、教会の鐘が七回鳴る。そしたらベルとレイの二人を筆頭に、カップル達が教会前に並んでいた。


 集ったギャラリーは自分の好きなタイミングで手にした花びらを空に放っている。


 そこに、見覚えのある少女がカップル分のブーケを手にし、渡していた。


「あの子は何て名前なんです?」

「ルリって言うんだ、宝石のような娘って意味さ」


 ご婦人にも確認をとったけど、あの子は間違いなくルリだった。

 今でも、俺が吹き込んだ嘘を信じているみたいだな。


「……っ」


 三人の生まれ変わった姿を見て、無償に何かしてあげたくなる。けど今の俺は無一文に近い状態だし、それに今の俺はあの三人が知っている銀毛の虎のシレトじゃない。今の俺は――


「ん? 兄さんトイレかい?」

「今日はもうこれで帰ります、宿泊先が少し遠いもので」

「それは残念、今日は来てくれてありがとう」


 三人に別れを告げるように、街道を沿って歩き、どこにも行くあてがなかったので近場で焚火を起こした。枯れ木を燃料として燃え盛る焔を見詰めながら、今日の出来事を反芻していると、ライオネルの台詞をふと思い出す。


 ――復讐なんて真似はやめて、人生謳歌した方がいいんじゃないかって。


 もし、俺が復讐をやめるとしたら、あの三人と共にある人生もいいと思う。

 しかし、あの時のライオネルはこうとも言っていた。


 復讐を諦めていたら、俺達は会うことはなかった。

 諦めたくはない。

 マリアやライオネル、フガクやロージャンと言った仲間を。


「シレトー! いないのか、シレト!」


 その時、俺に運命の選択が訪れた。


 一つは俺を呼ぶ、レイモンドの声に従って生きるか。

 もう一つは、今はこの場にいない仲間を探すよう旅に出るか。


「ねぇ、シレトいそうだった?」

「駄目だいない……あ、でもあれ見ろよ、焚火があるぞ」

「じゃあここに居たことは間違いないのね」


 今俺の目の前には、ベルやレイ、奴隷の少女だったルリが居て。

 三人は俺のことを探しているみたいだった。


 俺はステルス化する能力を使い、姿を隠し、三人の顔を網膜に焼き付け。

 その場を立ち去った。


 俺は、諦めない。


 例え目指しているものが、真っ当な復讐に繋がらなくても。

 復讐の先に、報いがなくても、俺は――諦められない。


 向かう所に仲間がいる以上、諦めることは出来そうになかった。

 だからもう一度、仲間を探そう。


 復讐の名の下に結束させられた仲間を。

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