第17話 ギルド

 偶然の産物とはこのことだと思う。


 元々この街には王国の情報を入手することと、あと飛行能力を持つモンスターの情報を得るために先んじて訪れた。俺達は街に出入りするために、警備兵が差し出した魔法紙に署名して、ステータスウィンドウを入手してしまった。


「それで、確か中立国のイシッドに向かってるんだったな。しかもカタルーシャなどという辺境からわざわざ……一体何しに?」


 警備兵からイシッドに向かう理由を尋ねられ、事前に用意していた回答を口にする。


「俺達はカタルーシャの領主、カシード様の遣いで、成人の儀式を受けている最中なんだ。俺達の地元では年頃になると、世界各地を回って見識を広め、各国とのパイプを作る習慣がある。今回、俺達はカシード様からイシッドの代表、ナラク様との面会を言いつけられているんだ。わざわざ遠出してまでこの街に立ち寄ったのは、今言った習慣の見識を広めるためだ」


 半ば即興と実在する人物名をおりまぜた回答は自分評価では及第点ぐらいは与えてもいい。


「この街の冒険者ギルドはどこにある? 俺達、身銭がそろそろ尽きそうなんだよ」


「冒険者ギルドだったら、ここから大通りに出て、左折した左側にあるぞ。古びた建物だが、大きな看板がかかってるからすぐにわかるはずだ」


「ありがとう、早速向かうよ」


「君達に未知なる可能性があらんことを祈ってるよ」


 警備兵と別れ、言われた通り大通りに向かう。


 大通りは一面石畳で舗装されていて、多種多様な人種が行き交っている。


「おっと、退いてくれ」

「ああ、悪い」


 ある一人のリザードマン種とすれ違った。リザードマン種は荷車を巨大なトカゲ型のモンスターに運ばせ、まだ勝手のない俺に道を空けるよう申し出る。リザードマン種を見ると、犠牲となった級友のフガクを思い出すな。


 警備兵の話だと、冒険者ギルドは大通りに出た後は左折し。

 直進して、左手側に古びた大きな建物と目立つ看板が見えるはずだ。


「……シレト、ちょっと油売って来ていいか?」


 少し歩くと、ライオネルが寄り道をして来ると言い出すが。


「駄目だ」

「今そこに私のタイプが居たんだぞ? この責任はどう取ってくれるんだ」

「今は駄目だ、けど、機会が訪れたら好きにすればいい」

「チ」


 今はまだ、この街で騒ぎにつながるようなリスクを冒したくない。


 ライオネルが油を売りたくなるように、マリアもこの街には目移りしているようだった。大通りの軒並みにある店という店を観察し、二人ともどこかぎこちない。


「冒険者ギルドで話を聞いた後は、少しのあいだ自由時間儲けようか?」

「賛成、それがいいと思う」


 即座に賛同するのはいいが、ライオネルには釘を打っておかないと駄目そうだ。


「騒ぎを起こしたら、ライオネルだろうとマリアだろうと置いて行くからな?」

「そんな、姉さんと私を同じ問題児扱いしないでよ、シレトくん」


 神木瑠璃さん、俺はまだ貴方のこと、よく理解してないんだよ。

 同じ地球人として共通の記憶があるのはいいけど、ただそれだけだ。


 事前に案内されたとおり、大通りの左手側に目立つ看板を掲げた建物があった。他の店とは違い、年季がはいり、見るからに高級そうな魔法銀を削られて作られた看板は人目を惹く。


 二人と特に打ち合わせすることもなく、冒険者ギルドの門を開くと。


「いらっしゃい」

「猫? 猫が喋ってるぞマリア」

「姉さん、はしゃがないでください」


 入ってすぐの右手カウンターの上に、喋る黒猫がいて、俺達を迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、三人は見掛けない顔だけど、新入りさん?」

「そうです、今日街に着いたばかりで、証明書となるステータスウィンドウも街の入り口で貰ってます」


 入り口の右手カウンターにいた赤と黒が目立つゴシック衣装を着た俺と同い年ぐらいの見掛けの少女の髪は頭の横で二つ結いにされていた。どうやらこの子が黒猫の飼い主らしい。


「そしたら、貴方達のステータスウィンドウを拝見させてもらうね? 貴方達の能力が一定の水準に達してないばあい、家での仕事は引き受けられないんだ。その時はごめんなさいってことで」


 入り口にいた受付嬢と話している俺のすぐ横で、マリア達は猫と戯れていた。

 のんきなことで、拍子抜けだ。


「……嘘、新入りさん、貴方このレベルならSランクレベルの依頼も受注可能だよ。凄いですね、ってどうしたの?」


「すみません、何か失礼な所がありましたか?」


 Sランクという格付けを耳にして、ちょっと顔をしかめさせたかもしれない。


「いや、ううん、なんでもないです。他の二人も能力も素晴らしいですね」

「当たり前だろ?」

「姉さん、この人とは初対面なんですから」


 と、受付嬢が俺達の能力査定を終えると、なにやらステータスウィンドウの情報を更新しているみたいだ。俺であれば左かどの一番目立つ真四角の空欄に、Sの表記文字が入り、ライオネルはAAA、マリアはAAのランクを書き込まれる。


「お待たせしました、貴方達の実力であれば当ギルドのどんな依頼でも受注出来ます。細かい説明はあとにして、先ずはこちらの依頼などどうでしょうか?」


 受付嬢から一枚のクエスト紙を受け取り、内容を確かめさせてもらった。


「引き受けます」

「決断早っ!」


 内容に目を通し、他の奴らにこの依頼を取られないよう即決で引き受けると、ライオネルが驚く。


「ありがとうございまーす! いやー、最近になってユニーク種のこのオークが確認されて、結構大きな損害が出ちゃってるんですよねぇ~、ここだけの話、このオークに十数名の冒険者が挑んで、内二名は帰らぬ人に」


「一つ聞きたい」


「は、はい、なんでしょう?」


 受付嬢に、クエストの内容に不備がないか問おうとすると、ちょっとどもっている。


「シレトくん、怖い顔になってるよ」


 隣にいたマリアからそう言われるも、今回ばかりはどうしようもないと思えた。


「このユニーク種のオークなんですが、仲間とか、いたりしませんか?」


「えっと、詳細は保障できませんねー。もしかしたら貴方の言う通り仲間がいるかもですが、現在確認されている限り、このオークは群れからはぐれて動いているとのことです」


 白黒だけど、クエスト紙にはご丁寧にそのオークの写真が貼られている。

 一見にして思い当たったよ、こいつは――ミラノを殺ったあのオークだと。

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