第14話 同盟
ライオネルから飛空挺を強奪し、主要な戦闘員を船におきざりにした。
ここまで計画が上手くいくと、さすがに口元が緩んでしまう。
「お頭は?」
「船首で物憂げに、るーるるるーって口ずさんでた」
「ここ最近そればっかりじゃん」
ライオネルは以前あったように船首に縛りつけ、他数名の空賊も俺の手足としてろかくした。威厳をなくしたライオネルは最近だとるーるるるーと口ずさむのが癖になっているみたいだ。
「マリア」
「何でしょうか?」
「一つ聞くが、イングラム王国への進路は合ってるのか? 若干ずれているみたいだけど」
マリアはライオネルの腹心であり、何でも実の妹らしい。
ライオネルほどの戦闘能力はないが、腹心に据えられるほどの重要人物で。
「シレト様、一直線にイングラム王国に向かうのは無謀です。あの王国はこういった飛空挺対策も優秀であり、首都に辿り着く前に撃ち落とされますよ。ですから王国に向かうのであれば」
と、彼女は広げた地図を覗くために、顔を接近させる。
警戒した面持ちで彼女を見詰めると。
「っ、そんなに、見詰めないでくれませんか」
見詰め……?
「違う、ちょっと、綺麗だなって見惚れてただけだ」
貴方を警戒してます。とおおやけにする訳にもいかず、うそぶいておいた。
「恥ずかしいので、やめてください」
思えば、飛空挺を奪取した後、何の問題もなく進行できたのはマリアが協力的だったからだ。口では姉のライオネルの加勢をしても、彼女は俺の言う事に淡々としたがって、今も王国への安全なルートを教えてくれる。
「シレト様、いつになったら姉を解放してくださるので?」
「妹の目から見てライオネルは使えるか?」
「姉は……姉さんは今でこそ落ちこぼれていますが、昔は憧れるものも多くいました」
俺は内心ではこう思っている。
ライオネルを従えることが出来れば、一石二鳥なのになと。
そうすれば、彼女に羨望している部下や、マリアも俺の味方に付けられそうだ。
「マリア、今しばらく操縦を任せてもいいか?」
「よろしいですが、どちらへ?」
「ライオネルと話して来るよ」
飛空挺の中二階部分に取り付けられた操舵室から出て、表甲板へと続く階段を上がる。甲板に出ると、前方から吹き付ける冷たい風がいい塩梅に頭を冷やしてくれた。
「うううう、寒い……るーるるるー」
「ライオネル、俺と話さないか?」
「この声はシレトか? 話があるのなら聞くぞ、ベッドの中でなら」
「貴方と交渉したいんだ、そのためには貴方の目的を聞いておく必要がありそうだ」
「……お前の目的は、復讐だったな。自分を罠に嵌めた連中への」
そうだ、と端的に返答すると、ライオネルは大声で笑う。
「私の目的も復讐だよ、私から左腕を奪った
この世の勢力図には、こういう見方がある。
人間か人外か。
この世界に数多に生息するモンスターは、とどのつまり人間以外の動植物を差す。
俺にそれを教えてくれたのは、Sランククラスの担任レクザムだった。
レクザムはモンスターの力を畏怖すると同時に、尊敬していると言っていた。
「貴方の左腕を奪ったモンスターはまだ生きてるのか?」
「方々を捜索した結果、奴はまだ生きているとの噂を入手している」
……出来れば、そのモンスターの力も俺の物にしておきたい。
エンペラー級の魔物とは、一国を滅亡させるほどの脅威を持ったモンスターの異称だ。
王国でも悪名高かった死神ジャックの正体も、エンペラー級と謂われている。
「貴方の復讐に手を貸すよ、だから」
「だから?」
「俺達――同盟を結ばないか?」
そう言うと、ライオネルは数瞬沈黙した。
「じゃあこうしようシレト、お前と私の復讐相手を、交換しないか? 相手をぶっ殺すことが出来るのなら手段方法は問わないんだろ?」
「そうだ、だがお前にそれが出来るのか?」
「物は試しに言ってみただけだが、悪くないな。私もモンスターより人間の方が遥かに相手し易い」
「俺に制圧されている時点で、信用ならないけどな」
「問題ない、こと、その相手が男であればなおさら」
「俺の性別も男だぞ」
「だよな……まぁこうなった以上隠していてもしょうがないが、私は男を対象にした魅了の魔法を会得している。魔法名はロストリーズン、Sランクの魔法だからもはや固有魔法に近いな。だがこの魔法が何故か、お前には効かない」
たぶん、今の俺は人間の皮を被ったモンスターだからだろうけど。
今はまだ、彼女に正体を教えないでおこう。
その後、ライオネルの捕縛を解き、彼女を連れて表甲板の後部にある船長室に向かった。落ち着いた深紅色を基調としたアンティーク調の部屋の中央の席に座ると、ライオネルは部下にオニオンスープを持ってこさせる。
「まずは俺が知る限りの相手の情報を提供する、俺の復讐相手はイングラム王国の王立学校のSランククラス全員が対象だ。中には数名女子もいる」
「その女子生徒も殺せばいいのか? 最終的に」
「可能なら、殺す前に聞いて欲しいことがある――俺を罠に嵌めた動機とその背景を」
不仲だったとはいえ、俺達は苦楽を共にしたクラスメイトだ。
ことさら言えば俺やミラノの生家はそれなりに権力がある。
個人的な感情で処理されるような背景はないものと推測していた。
「ライオネルの左腕を奪ったエンペラー級のモンスターは、何て言うんだ?」
「通称、黒曜の剣士――マグマガントレット」
「主な能力は?」
「摂氏二千度を超えるとされる火炎剣レーヴァテインの遣いてで、私がお前に見せたものより遥かに熱い。一振りで前方一キロに及ぶ平原が燃え盛るとされている」
つまり、火炎系のモンスターか。
対峙する前に、それなりに準備しておく必要がありそうだ。
「外見的特徴は黒々とした甲冑姿って所か――さぁ、シレト、一発ヤるぞ」
お互いに復讐したい相手の上っ面を教えると、ライオネルは勢いよく上着を脱いだ。白い麻で出来たコルセットが覗き、ライオネルの大きな胸の双丘がゆさゆさと揺れる。
「姉さん、シレトくんを穢すことは私が許しません」
「あ? 誰かと思えばマリアか、何でこいつに限って、お前の許可が必要なんだ?」
ライオネルが上着を脱ぐと同時に、船長室にいた乗組員は退室していたが、マリアだけはその場にとどまり、俺と彼女のセックスをはばむ。久しぶりのセックスを邪魔されたライオネルは不機嫌そうにマリアに理由を問い質すと。
「それは……私が彼を好きだから」
俺は彼女から好意を示されていた。
姉譲りの赤毛の短毛、姉譲りのオリーブの雫のような艶のある肌。近視用の四角い眼鏡の下には、やはり姉譲りの切れ長の目が映っている。しかし彼女の瞳はライオネルの野性的なものとは違い、友愛に満ちていたように優しいものだった。
「……本気か?」
「本気です、私は前世の時から、彼を知っていた」
前世……ということは――
「もしかして、君、神木瑠璃?」
「覚えていてくれて嬉しいよ、吾妻シレトくん」
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