スマホの気持ちも知らないで

サムライ・ビジョン

第1話 こいつのルーティーン

(きったねぇ手で触るなよ!)

俺の叫びはいつも届かない。いや…

「届かなくてもいいから叫ばせろ」

というスタンスなのだが…


「この男」はとにかく手がきたねぇ。

ポテチを食って油やらなんやらでデロデロになったその指で。ティッシュ1枚じゃ決して拭いきれないその指で!

なぜこの俺を触れる?スクロールするたびに指の軌跡ができるんだぜ?少しでいいから嫌がれよ!

買ったばかりの頃はあんなに指紋を気にしてたんだぜ?フィルムを貼るときだって、履歴書を書いてるときぐらい緊張感が走ってたのに…結局うまいこと貼れずに、端っこにできた空気を爪で押し出してたけど…


あの頃のぎこちないジェントルさでいいからマジで戻ってくれ!なっ?


「ふーっ…ふーっ…」

またか…


いや、別にいいんだ。彼は25歳だしまだまだ現役だ。今日はシフトも入ってない。

おまけに友人も恋人もいないときた。

結婚適齢期に突入しつつある独り身の男が、ただひとり狭いアパートであり余ってる。


(あーあ…なんだこいつ…まともな頭で考えりゃ怪しいサイトを平気で開いてやがる…)

タイムラインに上がってきた1枚の画像が「火付け役」となったようだ。

彼はいま目にも留まらぬ指さばきで、変なサイトに飛ばされては消し飛ばされては消し…

一瞬のイタチごっこに慣れた頃、すなわち「どこからともなく現れる広告」をうまくけられるようになった頃…


彼のスクロールする指がふと止まり、数々の「メニュー」からとある名目に釘付けになった。


(巨乳人妻、夫の上司に…あーもう!広告が邪魔でよく見えない!)

読もうとしたタイトルを隠すように横長の広告が現れたが、俺は改めて理解した。


(やっぱりこいつ…ネトネトされる系が好きなんだ!)

こうも長い付き合いになってくると、彼の嗜好はおのずと分かってくる。

いつもそうだ。野生に還ったかと思えば…


ネトネト…ネトネト…ネトネト寝取寝取…!


(どうやら今回は当たりだったらしいな)

彼の片手はこの瞬間のためにある。


あらかじめ用意された、絹のように滑らかなそれを…

取っても取っても出てくるそれを1枚取ったかと思うと、「取られる」様子を観ていまにもロケットは飛びそうだ。


ああ…宇宙センターよ…

どうか彼の「種子島」を有効活用させてやってください…

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