第240話 攻略の帰り道


 リンカが石版を斬ると、壊れた石版に変わって、帰還用の青スイッチが現れた。

 そして――。


「ラーシェスの血を引く者よ。よくぞ、第一の試練を突破した。ここから先は第二の試練。命の危険は格段に跳ね上がる。覚悟して臨むが良い」


 声が終わると、部屋の中央が赤く光り、床に直径1メートルほどの魔法陣が現れた。


「やっと第一試練をクリアか……」

「いくつあるんでしょうか?」

「先は長そうだね」


 巨大なピラミッド。

 何階層まであるか分からない。

 いったい、試練をクリアするのにどれくらいの時間がかかるんだろうか……。


「これは転移陣でしょうか?」

「アンガー、この先はどうなってる?」

「ヤバいッス。とんでもないッス。モンスターがあふれてるッス」


 今までとは比べ物にならないほど、切迫した表情で答える。


「頭も使いすぎたし、今日はここまでにしておこうか」

「そうですね」


 慣れない疲労感がドッと押し寄せる。

 リンカも疲れ切った顔だ。

 一人元気なのは、ラーシェスだけだ。


 俺が青いスイッチを押すと、視界が暗転する――。

 目を開くと、そこは砂漠の入り口だった。


「へえ、こうなるのか」

「便利ですね」

「ご先祖様は気が利くね」

「毎回、砂漠マラソンしなくて良かったよ」


 敵が出るわけでもなく、砂漠を走るだけ。

 疲労はたいしたことないが、面倒であるし、時間も無駄だ。


「よし、街に戻ろう」


 そこで俺は思い出した。


「エルティア、もうしゃべっても良いよ」

「どうだ。偉かっただろ」


 エルティアは腰に手を当てて、胸を張る。

 ずっと黙っているのは普通の人でも嫌なものだ。

 それを出来たのだから、彼女にとっては大快挙だ。

 これも全て、プレスティトさんのおかげだ。


 俺たちは夕暮れの中、今日を振り返る話をしながら街へ戻る。

 饒舌になったエルティアは、ここぞとばかり、アホな話が止まらない。

 緊張したダンジョン攻略の帰りには、中身のない会話がもってこいだった。


 ――街に戻り、夕食を終えた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


 宿への帰り道のことだ。

 賑やかなメインストリートから離れ宿屋へ向かう途中。

 人通りが少なくなったところで――。


「レントの兄貴――」

「ああ、分かってる」

「つけられてますね」

「えっ、そうなの?」

「ああ」


 数人の冒険者らしき者たちが俺たちの後ろをついて来ている。

 偶然ではない、明らかに俺たちをターゲットにしていると、気配で分かる。

 【魔蔵庫貸与】のこともあり、この街で俺たちは好意的に受け入れられている。

 となれば、相手とその動機はだいたい想像がつく。


「エムピー、アイツらは?」

「はい、悪質債務者です~」

「やっぱりね」


 いずれ、こういう奴らが出てくることは想定していた。

 想定していたのと違うのは、思ったより早かったことと、人数が多かったことくらいだ。


「なら、遠慮は無用だ」


 俺の言葉に、リンカは腰のカタナに手を伸ばす。

 ラーシェスも身構えるが――。


「二人は手出ししないで」


 前方からも数人の者が距離を詰めている


「俺から離れてて」


 俺は横にそれる小道を指差す。


「分かりました」

「そうするね」


 二人はそっと、横道に身を隠した。

 これで安心だ。

 心配なのは二人の安全ではなく、奴らの命だ。

 リンカもラーシェスも手加減が出来なそうだから。

 いくら悪質債務者だからといって、いや、悪質債務者だからこそ――殺すわけにはいかない。


 自然と口角が上がり――ハッとする。

 いや、一番危険なのは俺かも知れない。

 内なる獣を押さえつけるように深呼吸をする。


 そうしているうちに奴らは俺を前後から取り囲む。


「よお、レントさん」


 リーダーらしき男が抜き身の剣を手に、話しかけてきた。


「おめえのせいで、こっちは散々な目にあったぜ」

「自業自得だろ」


 俺の言葉に男たちが激高する。


「なんだ、その舐めた態度はッ!」

「ギフトが良いからって調子に乗んじゃねえッ!」

「『流星群』と『双頭の銀狼』の金魚の糞のくせにッ!」

「もう、奴らはこの街にいねえんだよッ!」

「女に守られてるだけの野郎がッ!」


 ああ、そっか。

 メルバの街ではガイたちとの決闘で強さを示した。

 だが、この街では俺の戦い振りは知られていない。

 だから、勘違いさせてしまったようだな。


「そう思ってるんなら、かかって来い」

「舐めんじゃねえ。ブチ殺せッ‼」


 リーダーの言葉に男たちは獲物を抜き、俺に斬りかかってきた――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『悪質債務者の襲撃』



楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る