16 検証開始

 さて、そんなわけで再びのスキル上げである。


 その前に今のステータスを確認しておこう。

 ドン。


 エドガー・キュレベル


 レベル 31

  HP 63/63

  MP 1442/1442

 

 スキル

  ・神話級

   【不易不労】-

   【インスタント通訳】-


  ・伝説級

   【鑑定】9(MAX)

   【データベース】-


  ・達人級

   【物理魔法】6

   【付加魔法】2

   【魔力制御】5

   【無文字発動】5


  ・汎用

   【投槍技】1

   【火魔法】2

   【水魔法】2

   【風魔法】4

   【地魔法】2

   【光魔法】2

   【念動魔法】9(MAX)

   【魔力操作】9(MAX)

   【同時発動】9(MAX)


 《善神の加護+1》


 ランズラック砦から屋敷までの10日間で最大MPを690上げることができた。


 暇な時の空中浮遊のおかげで【物理魔法】はレベルが1上がり、【魔力制御】も1上がっている。


 【付加魔法】は、母さんから予備の杖を借りて杖に【付加魔法】をかけては解除するという作業を繰り返したのだが、上昇幅は1に留まった。

 【付加魔法】は、その名の通り《武器や防具に一時的に魔法を付加する魔法》(by【鑑定】のヘルプ情報)らしいのだが、当然のことながら付加できる魔法は既に習得済みの魔法に限られる。

 【付加魔法】のスキルレベルの成長速度は、【物理魔法】と比べても遅い感じなのだが、その原因は付加する魔法のレベルが低いからじゃないかと思っている。

 だから、【付加魔法】はいったんお預けにして、汎用スキルの魔法関連スキルのレベル上げをしてみようと思っている。


 その汎用魔法スキルのレベルがちょっとずつ上がっているのは、帰り道でジュリア母さんから魔法のレクチャーを受けていたからだ。

 ちなみに、【風魔法】だけ4に上がっているのは、移動中にこっそり発動してスキルレベルを稼いでいたおかげ。


 で、今後のことだ。

 まず、MP最大値の拡張は当然やっていく。

 そして、ランズラック砦での活躍によって、父さんからも許可が下り、晴れてジュリア母さんから魔法を教わることができるようになった。


 ジュリア母さんの教え方はシンプルだった。

 バスケットボールを抱えるような感じで両手を向かい合わせにして、その間に小さな火を魔法で生む。

 その火を絶やさないように意識を集中し続ける。

 もちろんその間、脳内ではフレイムの魔法文字をひたすら念じ続けている必要があるし、最初に空中に書いたフレイムも維持しなければならない。


 単純なようだが奥が深く、駆け出しの【火魔法】使いの火と上級者の火とでは安定度も持続時間も段違いなのだという。


 実際、俺の生み出した火とジュリア母さんの生み出した火とを比べると、微妙ながらはっきりとした差があるのがわかる。

 母さんはその気になれば1刻ほど(この世界の1刻は元の世界の1時間くらい)この火を維持することができるらしい。


 今の俺にはそんなことは到底無理で、火に集中すれば念が散り、念に集中すれば文字が消えるというように、3つの要素の間にうまく意識を分散させることがなかなかできない。

 もちろん、【無文字発動】のスキルを使えば楽にできることはわかっているが、それじゃ練習にならないからな。


 そうだな、倒立しながら頭の上にリンゴを載せてバランスを取るような感じ……というと伝わるだろうか。

 昔、サーカスだか雑伎団だかで、逆立ちして後頭部にリンゴを載せたまま歩く芸を見たことがある。

 器用なことをするもんだと思ったが、あれに近いかもしれない。

 なんというか、常にもどかしさがつきまとう感じで、前世だったらすぐに諦めてただろうな。


「……うーん? あれ? エドガーくん、意外と才能ない?」


 とジュリア母さんがポロッと口を滑らせたくらいだ。


 くっ。泣き顔になんてなってないんだからね!


 しかし、たとえ俺に魔法の才能がなかろうと、俺には女神様から与えられたスキルがある。


 【不易不労】。


 もはや説明も不要だろうそれのおかげで、俺はこういう精神的にキツい作業に人間離れした集中力を発揮することができる。


 1時間。2時間。

 俺は手の間に火を生み出し、それを維持しようとすることを続ける。

 最初はあれこれアドバイスをくれながら見守っていた母さんも、しまいには付き合いきれなくなったらしく、後のことをステフに頼んで屋敷へと戻ってしまう。


 そこからさらに1時間、2時間。

 だんだんそばで待っているステフの目がうつろになってきた気がするが、あとちょっとで何かつかめそうな感じがするため、俺は手の中の火に没頭してしまう。


 そして、なんとか5分ほどなら火を維持できるようになったところで、


「――エドガーくん? まさか、まだやってるの?」


 いつのまにか暗くなっていた中庭に、ジュリア母さんがやってきて驚いた。

 ……ちなみにステフは、庭に積んである薪の山にもたれかかって眠っていた。


 俺は母さんに本日の成果を披露した。


「わっ、すごい。上達したねぇ」


 母さんによれば、ここまでに何ヶ月もかかるのが普通だとのこと。


 たしかに、【不易不労】がなければここまでぶっ続けで練習はできないだろうな。

 いや、それ以前にMPが足りなくなるか。


 ちなみに母さんは、ここまでを3日の修行でできるようになって、不世出の天才児だと騒がれたのだそうだ。


「エドガーくんは変わってるねぇ? すごくセンスがあるってわけじゃないのに、センスをつかむのが早いというか?」


 ジュリア母さんは天然でしかも天才肌の人なので、こうして無邪気に人の心をえぐってくる。


 砦を出発する前、ジュリア母さんに魔法を教わった生徒は、たいてい一ヶ月と持たずに辞めていくと、父さんが言っていた。

 その時は、なんでこんな優しい人に教えてもらってそうなるのだろうと不思議に思ったのだが、今なら心の底からよくわかる。

 俺はセンスのなさを集中できる時間の長さで補えるからいいが、普通だったら心が折れるよこりゃ。


 しかも、


「うーん、エドガーくんはお母さん似だと思ったんだけど、違うのかなぁ?」

「あれぇ? わたしはすぐだったんだけどなぁ……?」


 などなど、折を見て降り注ぐ、無邪気な言葉の刃たち。


 肝心の魔法の説明も、


「ん~、なんかこう、ぐぅっとやってぱって感じ」

「ちがうちがう、それじゃあぐううっ、でパッ、だよ、ぐぅっで抑えて、ぱって放すの」


 こんな感じで一向に要領を得ない。


 ――くそっ、天才め。


 こっちの世界で意識が芽生えてから初めてジュリア母さんのことを呪ったぞ。


 作業の単調さは【不易不労】でどうとでもなるのだが、母さんの精神攻撃にはさしもの【不易不労】も無力だった。


 が、負けてたまるか。

 こちとら、元格闘ゲーマーだぞ。

 この程度の煽りをいちいち気にしていたら、いつまで経ってもうまくはなれない。


 俺は必死で心を静めつつ、【火魔法】の特訓に励むのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 そして、それと並行するようにして、俺はゴレス戦以来気になっていたことを検証することにした。


 【投槍技とうそうぎ】のことだ。


 ゴレス戦で俺は、ゴレスの槍を【物理魔法】でつかんで投げ返すという戦い方をし、そのおかげで汎用スキル【投槍技】を手に入れていた。


 しかし、これは疑惑の判定である。


 だって俺、槍に直接触ってすらいないんだぜ?

 加えて、いまだに実物の槍を持ったことすらない。

 

 あれが「槍投げ」なのだとしたら、「投げ」という言葉の範囲は相当にアバウトだってことになる。


 となると、である。


 ――残りの「槍」の部分も、それなりにアバウトなのではないか?


 俺は成長眠から目覚めた辺りから、ずっとそのことを検証したいと思っていたのだ。


 で、具体的にどう検証するかだが、やることとしてはシンプルだ。


 1.いろいろな槍や棒を家中から集める。

 2.それらを一つずつ【物理魔法】で「槍投げ」する。

 3.2.を繰り返し、【投槍技】のスキルが上がったら、その槍?は槍である。

  5時間やっても【投槍技】のスキルが上がらなかったら、その槍?は槍ではない。


 5時間というのは、これまでスキル上げをしてきた経験から割り出した、スキルレベルが1から2に上がるのに要する時間である。正確には4時間くらいだと思うが、1時間程度余裕を見て5時間とした。


 1.のためにステフに頼んで集めたものは多岐にわたる。


 まずは槍。

 長いものと短いもの、投槍用と取り回し用、馬に乗って使うもの等、屋敷においてある槍と名のつくものはすべてかき集めた。

 アルフレッド父さんが槍の使い手なのでキュレベル子爵邸には結構な数の槍があって助かった。


 次に槍以外の武器。

 剣、ハルバード、斧、ナイフ、そして弓矢の矢。

 斧はハルバードが槍にカウントされていた場合の対照試験に使おうと思って持ってきてもらった。

 矢は形状としては極小の投槍と言えないこともないと思うので、念のために用意した。


 最後に、武器でないもの。

 ただの棒、物干し竿、箒、薪、太い針、木の枝。

 槍と形状が似ているものを基準に大小取りそろえた。

 たぶん無理だと思うが、確認のために最初にチェックしていこうと思う。


 さて、槍?の準備が整ったら、ステフに持ってきてもらったノートを開き、いよいよ実験開始である。



 ――はてさて、どんな結果になるのやら?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る