ごく普通の女子高生『八月一日(ほずみ)美月(みづき)』は、家を出た直後に軽トラックに跳ねられてしまう。飛ばされた先は天国ではなく異世界で、自身が『聖女』として召喚されたことを知る。本来は国の危機の際に召喚されるべき存在だが、今は平穏な時代であり、単なる誤りで召喚されてしまったのだという。とはいえ元の世界に戻れないことを悲しむばかりではなく、召喚先で出逢った宮廷魔導士や騎士団長、そして先代騎士団長といった年上イケメン達と交流しながら、この世界で逞しく生きていこうと前を向く――。
聖女転生モノとしては王道な設定やテーマであり、しかし激しいバトルやドロドロした謀略・愛憎劇がメインというものではなく、常に前向きな美月が作品全体を明るく引っ張っている印象でした。
一人称で語られるストーリーは美月の内面や喜怒哀楽が分かりやすく、そして具体的かつコミカルに表現されており、ひとつひとつの言動や周囲の状況に対して、美月が何を思っているのか・今どう感じているのかが、ハッキリ伝わってきました。「主人公が何を考えているか、ちょっと分からないな……」と指摘されるような作品とは真逆です。
加えて、ぶっきらぼうながらも優しさや包容力を感じさせる先代の騎士団長にして美月の勤務先『炎の剣亭』の店主『ミヒャエル』も魅力的でした。彼の過去や背景には重みがあり、それが言葉の重みや行動の説得力にも繋がっていて、素晴らしいと思いました。
ただ、そんなミヒャエルと美月の関係を主軸に展開されるであろう作品だと思いますが、120話時点でラブコメや恋愛要素が薄めのが勿体ないとも感じました。もっとミヒャエルとの交流や触れ合いでドキドキしたり、彼の過去を知ってモヤモヤヤキモキする描写が今以上に多ければ、甘酸っぱいラブストーリーとして今後の展開が強く気になったと思います。
それと、美月の視点や内面描写に関しては非常に豊富なのですが、逆を言うとそれ以外のキャラの言動や描写の割合がどうしても少なくなってしまっている、とも感じました。『一人称小説』というスタイルを採用した時点で、全ての作者に付与されるメリット・デメリットではあるのですが……。一人称特有の表現の狭さを減らしつつ、主人公の掘り下げはより深く魅力的に……という感じでメリットの部分を伸ばしていけば、更に良くなると思います。
あらすじでは『最後はハッピーエンド』となっているので、ここからラブロマンス増し増しとなり、素敵なエンディングを迎えるのを期待します。