第11話 人生、捨てる神あれば、
聖女だよ。聖女。わたしが聖女ってガラか? はっはっは。笑うしかない。
だがしかし、呼ばれたからには精一杯頑張りたい所存。そして頑張って御役目を果たしたその暁には、懐かしの元いた世界に帰るのだ
そんな風に思っていた時代が、わたしにもありました。
だがだがしかーし、元いた世界には戻れないことが発覚。この異世界で、わたしは一人ぼっちだ。と絶望したのも、浮き世の夢。
なんと、マティアスくんという友達ができたのでした。
しかも、ルドルフさんという、騎士団長を勤めている方とまでお知り合いに。
世間に吹く風は、思ったよりも暖かい。
わたしの異世界ライフは、今始まったばかり!
今日の朝まで、そう思っていたわたしがここにいます。
「この世界でも、就職難かー」
お世話になったネーナさんと、何度も振り返っては手を振って別れを告げ、わたしは無事に若手の騎士・魔導士宿舎に引っ越した。
引っ越しって言っても、荷物なんて、一緒に飛ばされた学校指定のバッグとその中身、着ていた制服だけだったから簡単なものさ。
それにしても、この世界。意外なことに、随分と暮らしやすい。
電気なんかは使われていないみたいだけど、いろいろなものが元いた世界に近いのです。
話でよく聞く中世ではなく、せいぜい近代、100年とか150年とか、そのくらい前の生活様式のような気がします。
だから、現代知識で無双! なんてコトはできそうにはないけれど、代わりに異世界新参なわたしでも生きていけそうなのです。
そして、実は今、わたしは朝から就職活動をしているのだ。
と言っても、お城の近くにある雇用相談所にいって、求人情報を確認してきたってだけなんだけどさ。
さすがは王都、大都会。求人数も半端ない。
貴族の家のお坊ちゃんに剣術の指南とか、お嬢様にダンスを教えるとか、わたしにできる訳ないじゃん。
実質、高校中退の状態だよ、わたし。
もうちょっと庶民的な喫茶店とか、居酒屋の給仕なんかはないのか?
この世界では、お茶は家で飲むものであって、喫茶店という概念自体がないのかな。
酒場の給仕だったら下町にいけばあるかもしれないが、そんなイカガワシイ職場は勧められないという。
ならば商店の店番なんかはどうかな。品物を確認しながらお金を受け取ったり、引き渡したりくらいはできるよ。
しかし商人とか職人の世界は、徒弟制度が一般的で子どもの頃から就職しないといけないらしい。
元いた世界の
こういう時に、この異世界は不便だね。元の世界だったらスマホやパソコンで、バイト先くらいすぐに探せるのに。
「気長に探しましょう、ミヅキ様」
わたしの就職活動に付き合ってくれたマティアスくんは、のんびりとした調子で答える。
彼は、この世界のことは右も左も分からないわたしの案内役を買って出てくれたのだ。
付き合ってくれるのはうれしいが、様はやめようよ、様は。なんだか気恥ずかしい。
だからといって呼び捨てというのも、よけいに照れくさい。
「では、ミヅキさん」
おー、そのくらいが、ちょうどいい。
同級生くらいのキミに、ちゃん付けされるっていうのもなんだしね。
ときにキミは、こんな時間からわたしに付き合って、ぶらぶらしていて良いのかね。
宮廷魔導士といったら、禁断の古代魔法を蘇らせたりするので忙しかったりするものじゃないか。
今時の宮廷魔導士の仕事と言えば、そんな物騒なこととは縁遠い。
国内に出回っている魔法と収集と整理。国外から入ってきた魔法の収集と整理。この二つがメインだそうである。
あとは、国内にいる魔導士の方々の管理。宮廷魔導士の運営する魔導士協会に登録されていない闇営業の魔導士の取り締まり等、一見地味に見える地道な仕事らしい。
もちろん古い魔法の掘り起こしもやってはいるものの、古い魔法というのは術式が面倒なわりに効果が薄かったりするそうで、皆さんその作業には熱心ではない。
やはり職場の花形は、最新式の独創的な魔法の開発であるとか、既存の魔法のブラッシュアップだそうで、その辺を担当するのは名家出身のエリートの方々らしい。
わたしの世界ではお馴染みの、的に向かって火の玉をぶち込む訓練なんかはしないのかな。あと広範囲に渡る治癒魔法の発動とかさ。
「そういった攻撃的な魔法や治癒魔法を使うのは、騎士団の中の魔導士部隊の方々ですね」
魔力を高める訓練とかは? わたしも頑張れば魔法って使えるの?
「おそらく使えますよ。ミヅキさんのいた世界の方々、つまりはかつての聖人様たちは、例外なく魔力の値が高かったと記録されています」
ほうほう、それはそれは。わたしも魔導士を目指そうかな。
「それは大歓迎です。僕も教えてあげられることが多いと思いますし。ただ、就職先は限られてきますね」
まずは宮廷魔導士団、そして騎士団魔導士部隊。これは人気の職業で、座学・実技を交えた試験は非常に難しく、狭き門であるという。
宮廷魔導士団の下部組織にあたる魔導士協会もあるけれど、こちらは、魔法を使えなくても、むしろ法律や魔法理論に詳しい方が入るところらしい。
そして民間の魔導研究所。ここは、魔法の素養があれば、比較的簡単に入ることができるそうなのだが、お勧めはしない。変人が多いからだそうだ。
「あと、なれるとしたら冒険者ですか」
冒険者?!
マティアスくんの言葉に、缶を空けた時の「ぷしゅっ」という音に反応するネコのように食いつくわたしでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます