第8話「『幸運』が回復、つまりこんなラッキーもあり得るってこと!?」


「で? 今日の夕飯は何?」


「カレーライス」


「えー! 一昨日もカレーだったじゃん!」


「文句あるなら食べなくてもいいぞ」


「食べるけど」


「一人暮らし男子高校生の手料理に、豊富なバリエーションを求めるなよ」


 普段なら、バイトのまかないで済ませてるんだ。

 それを、二人がいるから!

 わざわざ帰ってきてから調理してるんだぞ!

 こっちの身にもなれよ。


「ま、いいわ。ここのカレーライスは美味しいしね」


「日本のカレールーは世界に誇れる美食だ」


 俺が胸を張ることじゃないけど、本当にそう。

 誰が作っても美味しくできる。

 これを開発した人は偉大だ。





「あのさ、一つ疑問があるんだけど」


 3人で食卓を囲む。


「なあに?」


 最初の頃は部屋着・・・の女子二人に挟まれて食事なんて、って緊張もしたけど。


 なんで、女子の部屋着って、あんなに……その……露出が多いんだ?

 長ズボンじゃダメなのか?


 ってドギマギもしたけど。

 慣れるもんだな。


「二人は異世界から来たわりに、最初からここの文化とかよく知ってるみたいだったけど」


 薄っすらとした記憶ではあるが、初対面の夜にラフィーは『関西弁』を話していた。


「私のスキル【異世界旅行トラベリング】の、『おまけボーナス』ね」


「ボーナス?」


「スキルの中には、使うことで副次的な効果を発揮するものがあるの。【異世界旅行トラベリング】を使うと、渡る先の世界についての情報が更新アップデートされるのよ」


「なんで?」


「そもそも世界の原則が違うんだもの。身体ごと作り替えないと、世界は渡れないでしょ?」


「そうなのか?」


「別の世界では物質の大元となる原子の在り方から違うんだから。そのままの身体じゃ渡ってこれない」


「はあ、確かに」


「身体を作り替える過程で、この世界に関する情報も更新アップデートされるってわけ。それが『おまけボーナス』」


「ほえ〜」


「例えば、これ」


 ラフィーが指差したのはカレーライスだ。


「この世界では『カレーライス』って名前だけど、元いた世界だと別の言語の別の言葉で表されていたはず・・よ」


はず・・ってどういうことだ? 元いた世界なんだから、その言葉だって知ってるんだろ?」


「世界の情報は更新アップデートされると、上書きされちゃうのよ。人のメモリには限界があるからね。今の私たちは、前いた世界のことはこの世界の原則で把握することになる」


「なるほど?」


 わかったような、わからんような。

 異世界転移って、けっこう複雑なんだな。


「じゃあ、リアンのスキルにも『おまけボーナス』があるのか?」


「ある。僕の【MODモッド】はプログラム改変のスキルだ。そもそも、相手のプログラムが見えなきゃ改変できない」


「つまり、見えるってことか? 相手のプログラムが」


「そうだ」


「すげぇ」


「そのプログラムをちゃんと読めるようになるまで1年かかった」


「ほえー」


「相手のステータスが分かるから、それだけでも戦闘を有利に進められる」


「最強じゃん!」


「ただし、プログラムをのぞき見するだけで『幸運』を消費する」


「下手に使えないってことか」


「使わずに勝てるなら、その方がいいな」


「なるほど」


「それなら、俺の【セーブ】にも『おまけボーナス』があるのか?」


「本当なら、あるはずなんだけどね」


「そうですね。対象の名前を宣言することで発動するスキルだから、『対象の名前が見える』っていう『おまけボーナス』があっても良さそうなもんですけどね」


「うん」


「なんで俺にはないんだ?」


「さあ」


「さあって」


「私の【付与能力グランティド・スキル】は、あくまでも『神』の代理でスキルを与えているだけなの。詳細は『神』任せよ」


「そういうもんなのか」


「そういうもんなのよ」


 そうこう話している間に、食事を食べ終わった。


「ん」


 ラフィーが手を差し出す。

 ぶっきらぼう、という表現がぴったりの表情だ。


「さんきゅ」


 その手に皿を乗せれば、渋々といった様子でキッチンに入っていった。


「自分で出した条件なんだから、別にあんな顔しなくてもいいのにな」


「だよね」


 食事は俺が作る。

 代わりに、ラフィーとリアンが交代で片付けをする。

 そう提案してきたのはラフィーの方だ。


 性悪なんだけど、たまーに、こういう律儀なところを見せるんだよな。


「喋ってないで、さっさと続き・・やってきなさいよ!」


 台所から、怒りの声。

 食事を食べたら、俺とリアンは再び訓練だ。

 リアンとスパーリングを朝まで・・・、だ。


 ラフィーの【回復ヒール】は寝不足を解消することもできる。

 だから、俺はこの1週間、実は眠っていない。

 だけど疲れはない。


 ほんとに、スキルって便利だ。

 これで『幸運』の消費さえなければな。

 ちなみに、ラフィーはこのまま朝まで眠る。

 『幸運』を回復させるためだ。


「気張ってきなさいよ!」


「おう」


 女子二人との共同生活。

 最初に想像したような、ちょっとアレな展開は、微塵もない。

 とにかく訓練、訓練、学校、バイト、訓練、実践、訓練……の生活なのだ。


 よく続いてるよ、ほんと。





「すごい。外出中、一度も犬のふんを踏まなかった……!」


 これが、『幸運:99』か!

 すごい!


「そんなことでありがたがるなよ。普通は外出るたびに犬の糞を踏んだりしないんだぞ」


「そうだけど。俺にとっては、劇的な変化だ……!」


「ははは。僕らに協力してよかっただろ?」


「う……」


 リアンと連れ立ってアパートに帰るところだ。

 朝の6時。

 ラフィーに【回復ヒール】してもらって、シャワーと準備、朝食を済ませて登校だ。


「まあ、悪くはない」


 なし崩し的に協力することに同意した感じだったけど、確かにその選択は悪くなかったと思っている。

 『幸運:27』のままでいるよりは、普通の生活に近づいているという実感があるからだ。


「最初は、あんなに嫌がってたのにな」


「まあ」


「俺を巻き込むな! って」


 俺の口真似をしながら、リアンが笑っている。

 ふと、その表情が変わった。


「……本当に、よかったのか?」


 チリッと、空気がひりついた。


「『幸運』についてもお前が言った通り、別に『27』のままでもお前は死なないんだ。これじゃあ、収支が合わないだろう?」


 確かに。

 『魔物』に殺される危険がある上に、とんでもない訓練を受けることになった。

 普通に俺の損のとリスクの方が多いように見える。


 リアンは、たぶん疑っているんだ。

 あれだけ嫌がっていた俺が、協力するって言い出したことを。


「僕らをあわれんで協力を申し出てくれたことはわかってる。ありがたいのは事実だ。だけど……」


 どうして心変わりしたのか。

 それを知りたいんだろう。


 リアンの言う通り、二人を助けたくて俺は協力を申し出た。

 でも、理由はそれだけじゃない。


「……俺さ、小さい頃からめっちゃ不幸なんだ」


「まあ、そうだろうな」


「母親は蒸発したし、父親は過労のうえリストラされて数年後に首を吊って死んだ」


 絵に描いたような不幸だ。

 それが、俺。


「俺のせいなんだ」


 『幸運』の話を聞いて、納得した。

 俺が、俺の不幸・・・・に、大切な人たちを巻き込んでいたんだ。


「俺のせいで、大切な人がいなくなる。……それが嫌なんだ」


 だから、俺に巻き込ませないため・・・・・・・・・・・に、二人とは近づきたくなかった。


「でも二人の話を聞いてさ、思ったんだ。……俺自身が強くなればいいんじゃないかって」


 赤い剣で、怪物相手に大立ち回りをやってみせた女の子。

 俺も、彼女みたいに強くなれれば。

 俺が大切な人を守ることができる。


「だから俺は協力するよ。お前らのためじゃない。俺のためだ」


「……そうか」


 リアンの少し吊り上がった目尻が、キュッと下がった。


「うん」


「それじゃあ、もっと厳しくしないとな!」


「……勘弁してください」


 と、俺が項垂れたところでアパートに到着した。


「朝食の準備は僕がする」


「俺、シャワーしてくるわ。頼む」


 ちなみに、俺のアパートは1LDK。つまり、リビングと寝室の間にはちゃんと壁があるタイプの部屋だ。ワンルームじゃなくてよかった。ほんとによかった。

 寝室とベッドは二人に取られたけど、俺はリビングで寝れる。

 そうじゃなかったら、性悪に『ベランダで寝ろ』って言われるところだった。


 服を脱ぐと、俺のムキムキの体があらわになる。

 すごいな。

 ちょっと笑えるレベルだ。

 これ、『魔王』を倒した後で元に戻してもらえるかな?


「あ、ラフィーさん! ダメです!」


「何が?」


「ちょっと! 脱がないで!」


 ん?

 浴室のドアの向こうから、騒々そうぞうしい声が聞こえてきた。

 さてはラフィーめ、寝ぼけてるな?


 ──ガラっ!


 浴室のドアが開いた。

 その向こうには……。





 桃?





 桃が二つ?



 ……。



 …………。



 なわけねーだろうが!



 青い瞳と、バチッと目が合った。

 その瞬間、寝ぼけてトロンとしていた眉が一気に吊り上がった。


「サイテー!!!!!!!!」



 ──バチーン!!!!!!!!!!



 なんっでだよ!


 俺、悪くないよな!?


 『幸運』が回復したからって、別にこんなラッキーは望んでなかった!



 ……嘘だ。


 ちょっと、得した、かも……。




 ──バターン!




「おい! 明智! しっかりしろ!」


 遠のく意識の中で、リアンの声が響く。


「ヘンタイ! ヘンタイ! ヘンターイ!」


 ラフィーはドタバタと音を立てながら寝室に逃げ込んだらしい。


 その前に、【回復ヒール】してくれませんかね?









===============


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次回からは新章が始まります。

ご期待ください!!


ここまで呼んで面白かったなあと思っていただけましたなら!

★評価を、どうぞよろしくお願いいたします!!!!

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