第4話「学校襲撃!戦えって!?無理だ俺は普通の人間なんだよ!」


 ──ドゴーン!


 壁が壊れた。

 え、壊れた!?


「ボーッとするな!」


 リアンの声に続いて、『よくわからないモノ・・・・・・・・・』が室内に入り込んできた。黒い脚(仮)が破壊された壁の隙間からモゾモゾと侵入してきたのだ。


 俺たちを探している……!


「廊下だ!」


 リアンの声で、慌てて廊下に転がり出た。

 俺の後にリアンとラフィーも続く。


 ──ドゴーン! ドゴーン!


 ヤツは、壁を破壊しようとしているらしい。

 大きな音と揺れが俺たちを襲う。


「あれは何なんだ!」


「『魔王』の使い魔よ。土塊つちくれに魔力をこめて動かしているの」


「それそれ! 何なんだよ、『魔王』って!」


「邪悪なるものの王。大いなる災いをもたらすモノ」


「悠長に話してる場合じゃないですよ! ラフィーさん!」


「広いところに誘導しよう。ここじゃ、あんたが戦えないでしょ」


「ですね!」


 リアンがキョロキョロと周囲を見回して舌打ちした。

 どう見ても、校舎内に戦える広さのある場所などない。


「明智! 広い場所は!?」


「校舎の反対側は中庭だ!」


「よし! 行くぞ!」


 言うやいなや、リアンがラフィーさんを抱え上げた。

 お姫様抱っこ!?

 リアルで見たのは初めてだ。


 さらに、リアンは窓を飛び越えて外へヒラリと飛び降りていった。


「ここ3階だぞ!」


 慌てて窓から覗き込むと、リアンは見事に中庭に着地していた。

 すげぇ。


「急げ!」


「急げって言われても……」


 ──ドゴーン! ドゴーン!


 背後からは、ヤツが壁を叩く音。

 左右からは、すでに黒い脚(仮)が迫ってきている。

 階段は、その脚(仮)の向こうだ。


 選択の余地なしかよ!


「くっそぉ!!」


 飛んだ。

 俺は飛んだ。

 3階からだ。たぶん死ん





 ……でないわ。


 何か、暖かいクッションみたいなものに受け止められている。

 そのクッションは、あの白い光でできている。


「スキルもだけど、身体能力も訓練が必要ね」


「いや。訓練でどうにかなる問題じゃないから!」


「大丈夫。このくらい平気になるまで、きたえてあげるから」


 いや、無理だろ。


「ふふふ。大聖女様に任せておきなさい!」


「来ます!」


 リアンの声に顔を上げると、砂煙すなけむりの向こうに黒い巨体が見えた。

 ついに、ヤツが校舎の壁を破壊したんだ。

 昨夜のより、でかくない?


「こんな雑魚ざこ、さっさと斬っちゃって!」


「はい!」


 リアンが両手を突き出した。


「『炎帝の剣エウリリス』」


 すると、その掌から真っ赤な炎があふれ出して。

 炎が舞い上がって、メラメラと燃えながらその形を変えていく。


「剣?」


 形を変えた炎は、剣の形をしていた。

 昨夜見た、カッコいいやつだ。


「リアンの剣は、『大精霊』の『炎帝えんてい』が授けたものよ。唯一無二の『炎帝の剣・エウリリス』」


 またファンタジー用語きた。

 『炎帝の剣エウリリス』ってなんだよ。



 ……カッコいいじゃねえか!



「今日のところは僕がやる。次からは、ちゃんと手伝えよ」


 俺に向けられたセリフだ。


「無理だよ!」


 リアンは、俺の返事など無視してヤツに向かっていった。

 四歩目で大きく跳躍し、真っ赤な剣を振りかぶる。


 ──ザンッ!


 空振り。避けられたのだ。


「速いね」


 ラフィーの呟きの通り、黒い巨体はその図体ずうたいに似合わない素早い動きでリアンの斬撃を避けている。


「昨夜みたいに、動きを止めないのか?」


「【聖なる鎖ホーリー・チェーン】のことね」


 そう。そんな感じの技名だった。


「できない」


「なんで?」


「私は『幸運』を使いすぎた。【付与能力グランティド・スキル】は消費量が多いのよね。さっきあんたを受け止めたのでギリギリよ」


「その『幸運』って、何?」


 ごくりと息を飲んだ。

 さっきラフィーは『幸運を消費したから不運になった』って言ってた。

 だから、アイツに見つかったって。


 『幸運』それは、MPみたいに能力を使ったら減るってだけの話じゃないんだ。


「文字通りよ。『幸運』をたくさん持ってれば幸せになれる。逆なら不幸になる」


 まじかよ。



「……私もリアンも、自分の幸せ、犠牲にして戦ってるのよ」



 ぼそっと、小さな声で吐き出された言葉。


「それって……」


「ま! リアンなら私のサポートなんかなくても余裕よ。【MODモッド】があるんだから」


 どういう意味かと聞き返そうと思ったけど、ラフィーのやけに明るい声にかき消されてしまった。


「そろそろ出すわよ」


 ちょうど、リアンがヤツとの距離をとったタイミングだった。


「『リアン/ステータス/脚力/Lv46・・』」


 ……え?


「【MODモッド】『脚力/Lv99・・』!」


 リアンが言うと、その足が光った。

 次の瞬間には、リアンの姿は消えていた。


 いや、消えたんじゃない。

 とんでもない速さでヤツに襲いかかったんだ。


「なるほど。自分のステータスを改変したのか!」


 俺が感心している間に、リアンの一撃が入った。

 

「ギャー!」


 あとは昨夜と同じだ。


 ──シュパパパパパパパパパッ!


 小気味良い音と共に、黒い巨体が細切れにされる。


「【燃えろエルサフィ】」


 リアンが言うと、黒い巨体が燃え上がった。

 もちろん、あとには燃えカスだけが残される。


「ふう」


「これで、一件落着ね」


「そうだな」


 三人で肩を撫で下ろす。

 『魔王』だとかなんだとか、よくわからんが。

 とにかく襲い掛かってきた敵を退しりぞけたのだ。

 よかったよかった。


 ……なんか、忘れてる気はする。





「明智……。何があったんだ?」


 恐る恐る、といった感じで俺に声をかけてきたのは担任教師だった。


「あ」


 そうだ。

 ここ、学校……!


 時刻は午後4時をすこし回ったところ。

 授業を終えて部活にはげむ生徒が大勢いる。教師はもちろん就業時間内だ。


 ──ザワザワ。


 めちゃくちゃ見られてる……!


「えっと、これは、その……」


「ガス爆発です!」


「「は?」」


 ラフィーのセリフに、俺と教師の素っ頓狂な声が重なる。


「ガス爆発が起こったんです。ね、リアン」


「そうです。……『溝尾みぞお正宏まさひろ/ステータス/猜疑心さいぎしん/Lv23・・』」


 あ、また。


「【MODモッド】『猜疑心さいぎしん/Lv』」


 リアンの言葉に、先生の頭が光った。

 ハゲてるってことじゃないぞ。……ハゲてはいるけど。


「そうだな! ガス爆発だな!」


 『猜疑心さいぎしん/Lv0』つまり、疑うということを全くしない人になってしまった。

 ガス爆発なわけないだろ!


「そうです。それじゃあ、私たちはこれで帰りますね」


「気をつけて帰れよ!」


「はーい」


 俺はラフィーとリアンに両腕を掴まれて、そのまま引きずられるようにして学校を後にしたのだった。

 俺たちの後ろでは『ガス爆発だー! 今日は全員さっさと帰れよー!』という先生の声が聞こえる。

 あれで、誤魔化ごまかせるのか……?





「なんで俺んちなんだよ」


「何でって、私たち家ないし?」


 小首をかしげるな。

 こいつ、絶対に自分が可愛いって知っててこういう仕草してるよな。


「……んんっ」


 思わず咳払い。

 リアンがニヤリと笑っている。やめろ、見るな。


「で? 家がないって?」


「そりゃあ、つい昨夜この世界に来たばっかりだしね」


「この世界……?」


「そう。私たちは、世界から世界へ旅を続けて、『魔王』を探していたのよ」


「うん。わかんない」


「わかるでしょ、あんたバカ?」


 ラフィーが俺をさげずんだ目で見ている。

 違うぞ。

 俺がバカなんじゃない。

 そんなはずない。


 だって、こんな荒唐無稽こうとうむけいな話をどうやって信じろって言うんだよ!



 でも、現実だ。

 ぜんぶ現実に起こってて、俺は一度は死にかけた。




『……私もリアンも、自分の幸せ、犠牲にして戦ってるのよ』




 ラフィーがぼそりとこぼした言葉が頭に浮かぶ。

 この二人は、ずっとこんな非現実的な世界で戦ってきたのか。


 なんのために?




「……説明してくれ。ちゃんと聞くから」

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