第40話 鬼山達海 ~広まる動画~
<ホテル
「やあ、待っていたよ。ミスターナナツミ」
「お待たせ致しました」
部屋に入ってきた七摘にソファーに腰掛け男は砕けた調子で話しかけた。
だが、七摘は堅苦しい態度を崩さず応じる。
「それで……進捗は?」
同じく硬い態度でマグリアが七摘を促した。
「はい。まずこちらを……」
七摘の差し出したタブレット。
そこには人気動画アプリが立ち上がり、【対決! 陰陽師同士の術比べ】などと題が振られた動画が一時停止されていた。
訝しげにタブレットを見る二人に構わず、七摘動画を再生する。
すると、マスクをつけた男が両手から青い炎を射出した。
「……これは、なんです?」
「マスクで分かりにくくいですが、ほぼ間違いなくこの者は久留井歌舞人であると判断します」
「久留井……あの生存した? いえ、ですが……これは?……」
「まだ詳細は不明ですが、久留井はどうやら炎を操ることができるようです。
解析した結果、合成ではないという結論が出ています」
「な……」
普通に聞けば何を言っているのか? と笑って追い返す様な話だが、マグリアにはそうできない理由があった。
彼等の組織がこの久留井を青い炎で焼殺した筈なのだから。
彼等が装置と呼ぶ、特殊な電磁波によって体内のミトコンドリアを暴走させて人体を遠方から発火させる殺人兵器。炎自体はすぐに消えるような温度までしか上がらないが、身体の中のエネルギーを発火という形で急激に消費し尽くされ、受けたものは必ず死亡する。
電磁波の影響か、何かしらの幻覚を見るという報告もあるが、定かではない。
彼等はある目的のために、その装置を使って人を無作為に殺害していた。
だが、その装置から生還した人物がいる。
これは彼等にとって至急対応が必要な案件であった。
装置が無効化された。もしその方法が何者かによって解明され、その為に歌舞人が生き残ったのであれば、彼等の活動に支障を来す。
だから七摘は命を受け、歌舞人の調査を進めていた。
そして先日行われた術比べの動画を見つけ、そこでまるで装置が発生させるような青い炎を久留井が吹き出す映像を見ることになったのだ。
彼等であれば久留井の青い炎から誰もが装置を連想する。
その為マグリアも動画を唖然とした表情で見ることしか出来なかった。
「プルガトリオから生還するどころか使いこなしている……か。面白いね」
一方余裕の表情を崩さない男はこの部屋の主だ。
「サー、サタネウス」
「なんだい?」
「それとこのようなものを」
惚けたマグリアよりもと判断し、七摘はサタネウスと呼んだ部屋の主にタブレットを切り替え、一つの写真を見せる。
「それは!?」
「久留井歌舞人の追跡過程で見つけたものです」
写真には丸い円盤に赤い球体が嵌った、歌舞人がダンジョンの入り口と呼ぶものが映っていた。
今まで決して動じなかったサタネウスがその写真を見ると驚愕の表情を浮かべたことに七摘は事態の核心を得たことを理解した。
「先に調査を始めようかと思いましたが、まずはお知らせしてからがよいかと」
「……いや。ああ、ありがとう。それでいいよ。
暫くこれについては触らぬよう、他の同士にも伝えてくれ」
「? ……はっ」
「マグリア」
「はっ」
「NASAの友人に連絡を取りたい」
<自衛隊 NE-WS特殊作戦拠点>
「失礼します!
鬼山はNE-WSに臨時で建設された拠点で入室した自身の部下を若干疲れた顔で迎えた。
「なにか調査に進捗があったか?
かつて最新の人口海上都市であった場所に墜ちた謎の飛来物。
その調査の為に派遣された鬼山達であったが、進捗は芳しくなかった。
海底まで届く巨大物質は金属製の明らかな人工物。
更にそれは海上より少し手前から落下速度を落とした。
明らかにまだ機能している。
すぐに他国の衛星などを調査したが、該当するものはなかった。
ではこの飛来物は誰の手によって建造されたものか?
誰もがとある可能性を頭に浮かべたが、当然ながらそのような突飛な推測を結論とするなど、よしとするわけにはいかない。
ウィルス、細菌等を検査し、少なくとも表面上は問題なし。
であれば当然内部調査ということになるのだが、一体どのような物質で出来ているのか。飛来物の表面には傷一つつけられず、内部への通路も発見できなかった。
降下写真から飛来物の先端に穴があることは解ったが、それも今は海底の更に地の下に潜っている。
他国からも調査をさせるよう要求がひっきりなしに来ていて急がねばならないと言う状況で、更に鬼山達に更なる問題が降りかかった。
海中から突如現われた化物が襲いかかって来たのだ。
その姿は歌舞人が鬼とよんだ妖怪ととてもよく似ていた。
銃撃をもって撃退し、その遺体を解剖調査した結果分かったのは、身体構造がほぼ人間と同じであること。
遺伝子解析も行いったが、出て来た結果は同じく人間であった。
時を同じくして、NE-WSの残骸からあるものが見つかる。
フルダイブゲームの装置の中で廃人と化し、今もNE-WSの中に眠っていたはずの人が眠る水槽のような装置。
それが割れて見つかった。
しかしそこに眠っていたはずの人間はいなかった。
この飛来物との関係性を疑わぬ方が無理であろう。
であればこの飛来物はとてつもなく危険なものという事になる。
だが調査は進まない。
頭を抱えていた鬼山に秋赤が差し出したのは、一台のノートパソコンだった。
「それが……民間のたわいもない映像ということで、お伝えするべきか迷ったのですが」
「うん?」
「まずはご覧頂いた方がよいかと」
そう言って秋朱の再生した動画の題は【山登ったら妖怪と戦う本物の陰陽師を見つけたから隠し撮りした】であった。
<あとがき>
体調不良の為お休みを頂きます。
次回更新は6/13を予定しています。
よろしくお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます