第29話 検証の結果
「くっ、馬鹿な……私の式神が効かないなんて……」
むしろ見飽きてきた展開の何処に驚く要素があったのか解らんが、桑野さんは目の前の結果が信じられないらしい。
「ヴァアアアア!」
「くっ……ツェイッ! サアッ!」
立ち上がり、足下が若干おぼつかなくとも飛び掛かる河童の爪を再度躱しながら、肩での体当たりでカウンターを取る。
その勢いで、またも浮き上がった河童の頭を両手で挟み込んだかと思ったら、そのまま頭から地面に叩き付けた。
つーか、マジに強えなこの人型ゴリラ……
初戦だったからかもしれないが、前に鬼から逃げたのは何だったのか? と思ってしまう。
「今度こそ! 出ませい! 霊鬼!」
結果は当然……
「馬鹿な……」
お前がな。
なんか河童に同情する気持ちすら湧いてくる。
「私の霊気では抑えられぬというか……ならばそのキサマの妖気、我が身固めにて削り落としてくれる!
桑野家護身法身固め、奥義!
傍から見てると動物虐待というかなんというか。
コレを動画で流して良いものか疑問に思うが、桑野さんの顔が真剣だからとても言いにくい。まあ流れてヘイト買うのは俺じゃないからいいっちゃいいんだが……
ボコボコに嬲られる河童と、大して余裕でボコりながら顔に恐怖の表情を浮かべる桑野さん。見てるとこっちの精神がどうになりそうだ。
ふと視界の隅に桑野さんの投げ捨てたリュックサックが映る。
当然そこからはみ出す網も。
コイツでくるっと丸めて終わりにするのはどうだろう?
RPGのアイテムじゃあるまいし使っても消えるわけじゃない。
ちょっと拝借するのは構わないだろう。
ビデオカメラが桑野さんと河童を取り逃がさないよう気をつけながら、リュックサックを開けて網を取り出す。
折角だ。投網の練習をさせて貰おう。
相手は亀じゃないが、投網が効かない相手じゃない。
幸いなことにここは山奥。
縛り付けるものには困らない。
桑野さんも亀相手に俺と同じ事を考えたのか、投網の手綱にはリーチを延ばすために別のロープがドッキングされていた。
近くに手頃な木を見つけたので、そのロープを縛りつける。
「クルイさん!」
「へ? お、ヤベッ!?」
いつの間にかターゲットが俺に変わっていたらしい。
河童の凶爪が完全に俺を間合いに捉えていた。
振り下ろされる鋭利な爪を腕でガードする。
ラバースーツを服の下に来ていたおかげで大したダメージはない。
明らかガツンという不自然な音がしただけだ。
「ッブねえな!」
河童をサイドキックで蹴り飛ばし、桑野さんに返す。
やはりレベルアップの恩恵は凄い。巨体である河童が浮くほどの強烈な蹴りの威力に自分でビックリする。
「な……まさか金剛力まで……」
おかげで桑野さん俺はまた変な能力を身につけた人になってしまったようだが。
「それより桑野さん!」
「了解!」
桑野さんは俺のやろうとしていることをすぐに理解したらしい。
戸惑うこともなく投網に向かって走ってくる。
「ヴァアアアア……」
体中アザで、ある意味本当の河童っぽく変色した河童……日本語が崩壊してるな。
とにかく河童がもう飛び掛かる力もなく、しかし足を引き摺って近寄ってくる。
もはや脅威を全く感じない。
「えっと……こうかな。ほっ」
意外と上手くいくものだ。
ふわっと広がった網は河童を上からファサッと包み込むように捉えた。
「ヴァッ、ヴァア」
何をされたかは解らないが、何かをされたのは解る。
そんな仕草で網を振り払おうともがき、故に指を網に絡めて立ち往生する河童。
「もう一つだ!」
さらにもう一つの網を桑野さんがリュックから取り出し、別の木に縛りつけて投擲する。
絡みつく網。相手が人間なら簡単に抜け出られるだろうが、知能の低い河童はただ力ずくで網を振り払おうとするせいで、ドンドンどつぼに嵌っている。
「ふん。身動きがとれぬか? だが動けぬだけでは終わらんぞ。
内に眠る怨霊祓うが我らが使命。観念して
網にくるまった河童に更なる暴行。
予定と違う。どうしよう。
「武をもって制し、具をもって封じ、術をもって祓う。
これぞ陰陽道の極意」
網にくるまってうつぶせに倒れ、ピクピクしている河童を見下ろしながら、そう語るのは桑野さん。
肝心の術で祓う部分が未完なのだが……
「それで、どうします? これ?」
「実体を持てば妖怪とて生物。何かを喰らわねばその身を保てはしません。
放って置けば餓死するでしょうが……しかしとてつもない妖気ですね。
この状態になっても私の式神をはね除けるとは」
札を河童にピシッと投げつけ、落ちた札を見つめて真剣に悩む桑野さん。
ふざけているわけではなさそうだ。
幼少期から真剣に訓練を受けさせられた桑野さんにとって、俺には当たり前のことが当たり前ではないのかもしれない。
「相手が河童なれば水に沈めるわけにもいきませんし……」
意外といけると思うよ。うん。
「仕方ないですね。クルイさん」
「はい?」
「焼きましょう」
「へ?」
え……ウッソ。いや、マジで?
まあ、今更人間以外の生物
「河童の属性は水。大いなる火をもってすれば祓うことも可能です」
「で、どうやって燃やすんです?」
「木の枝を集めて来ますので、クルイさん。鬼火で点火をお願いします」
そういって薪の材料集めに桑野さんは歩き出した。
まだピクピクとギリギリ生きてそうな河童。
ちゃんと留め刺して上げてからの方がいいんじゃないかな?
生きたまま焼くとか魔女じゃあるまいに。
パチパチと若干食欲をそそる臭いを漂わせ、河童を焼く焚き火を見つめる。
暫く経つと河童の肉体が急激にしぼんでいく。
いつぞやの鬼の遺体を連想する。
「漸く怨霊も祓われたようですね」
よくこんな清々しい表情が出来るものだ。
俺はなんか知らんが罪悪感で一杯だよ。
今日寝たとき悪夢を見ないか心配だ。
まあ、これで八須賀さんの無念を晴らしたことに違いはない。
喜ぶべきことなのかもな。一応河童退治のお手伝いとしてバイト代も貰えるらしいし。
よし!
今日帰ったら酒飲んで寝よう。
変な夢を見ないように泥酔するまで。
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