墜落迷宮 ~就活の為に俺だけが知っているダンジョンでスキルアップを頑張っています~
村人T
プロローグ 〜ダンジョン発見〜
第1話 見つけたモノ
<Stranger’s Record>
今、我々は窮地にある。
この窮地より脱する方法が理論上は存在はする。
だが、それは危険を伴う。
故に検証が必要だ。
同胞達は、来たるべきその日の為に眠りに就いた。
彼等のその日の為に、我々は旅立つ。
残された時間は決して多くない。
きっと困難な任務となる。それは解っている。
それでも我々は見つけなければならない。
今日我々は旅立つ。
そして帰ってくる。いや、帰らねばならない。
いつか来る我らが同胞の目覚めの日の為に。
◇◆◇◆◇◆
「はぁ……あ、クルイさん、ハチスカさん。
そういえば聞きました? またですって」
「ああ。というか俺が住んでいるアパートだ。確か吉備津さんだったかな?
勘弁して欲しいもんだ」
「うわー」
フォークリフトの技能講習。
何事もなければ四日で修了証をとれるから結構人気がある。
2030年。再度の就職氷河期。
学歴だけで就職できる時代は終わった。とっくに終わってたか。
AIがあらゆる企業で導入されたこの御時世、頭が良いなんてのは就職の上で大した武器にならない。俺の頭が良いと言ってるわけじゃないが。
そんいう時代だから、今では学業の傍らスキルアップの為にこういった教習所に学生が通う、なんていうのは普通のことだ。
理由が利権の問題か単純に技術的なものかは知らないが、こういった免許が必要な仕事はまだまだAIロボットによらず人の手が必要なものが多い。
で、まあ、俺もご多分に漏れずそういう多数の中の一人だ。
大学三年の講義のない日を利用して教習所通い、ってわけ。
そんな講習三日目の休み時間。ジュースで喉を潤していると、一人の女性が声をかけてきた。女性の名前は
対応したのは四十代~五十代のおっさん。失礼。ナイスガイ、
講習二日目に受講日程を偶然同じ予定で組んでいたことが分かってから、なんとなく休み時間は三人で過ごすようになった。
といってもまだ二日とちょっとの付き合い。特に関係が深いわけでもなく、共通する話題もない。だから自然と休み時間は、こういった皆が知ってそうな最近の事件なんかが話題の種になる。
仕事で過労死した男の事件。
地域放送で流れた、ありふれたニュース。
ありふれたものではあるが、身近で起きると話も変わってくる。
しかも昨日死んだ男は、どうやら八須賀さんと同じアパートに住んでいる人らしい。ウヘェ〜。
就職難のこの時代。
それだけで中々キツいというのに、就職してもやっぱりキツイ。
地獄かよ?
「いいところに就職したいもんですよね。高収入なんて贅沢言わないから、とにかくホワイトな企業で」
「それ、充分贅沢ですよ?」
場を和ませるため言ってみたものの、無理だと思っている自分がいる。
桑野さんの突っ込みを否定できない。
嫌な世の中になったものだ……
…………
教習所での講習を終えて、愛車(原チャリ)で一人トボトボ帰る道、ふと古びた鳥井が目に入った。
「そういえば……」
思い出した昔。
時代後れなのは重々承知だが……子供の頃見つけた、俺の秘密基地。
多分、俺以外の人は知らない。
というか俺の世代で秘密基地なんて遊びをしていた奴がいない。外で遊んでいる奴ら自体がレアだった。
この神社は結構な段数の階段を登った先、小高い山の頂上にどっちが本殿だか拝殿だか知らないが、木造の小さな建屋が二つある。余りに古い上、人がいるのを見たことがないから多分無人の神社だ。
その手前の建屋の下に潜ると、人がギリギリ入れる位の穴が地面に開いていて、そこへ入ると体感三畳位の空洞がある。そこが俺の秘密基地だ。
我ながらよく見つけたものだ。
ナイーブになっていたからなのか、何故かは分からない。
思い出した昔の光景に釣られるように、俺はその神社へと足を運んだ。
「……懐かしいな」
身体を土まみれにして入った久しぶりの秘密基地。
大きな一つの岩をくりぬいたような空洞で、壁の所々に大きな石が嵌っている。
昔は天井まで余裕があったが、今は屈んでまないと俺の身体は収まらない。
スマホで空洞内を照らしながら、その嵌っている一つの岩に、削って描かれた謎の四足動物の落書きを見つける。見て思いだしたが俺が描いたものだ。
「なんだったっけかな……」
自分で描いたのに、余りに下手くそ過ぎて、それが何の絵か思い出せない。
「てか、神社のある場所で……子供だったとはいえ、不謹慎すぎたかな」
折角だ。忘れていた昔の汚点を消していこうか。
そう思い立って足下に落ちていた石で、その絵をカツカツと叩く。
俺は何をやっているんだろうか?
若干虚しい自問自答をしながら岩を叩いていると、その岩がボロリと落ちた。
「おう!? イデッ!?」
危うく自分の足を直撃しそうだった岩に驚き跳びすさり、天井に頭をぶつけた。
「いっ
頭のてっぺんがじんじんする。
神社に落書きした罰がこの歳になって当たったかな?
そう思いながら岩の落ちた部分を見ると……
「なんだこれ?」
岩の落ちた部分にあった丸型の凹み。
その中央にある球状の赤い水晶のような何か。
「宝石? ……まさかね……ふむ」
これを売れば金持ち確定?
就職? 知らんがな。
一瞬頭に浮かんだ甘い考えを引き摺りながら、その赤い石を触ってみる。
「完全にガッチリ嵌ってんな。こんの……!!」
赤い水晶を盗ろうと弄っていると、赤い水晶を奥に押し込んでしまった。
そして……
『ブイイイイイイイン』
何かの駆動音。いや、何?
ビビって後ろへと下がる。この洞穴が崩れるかもしれない。
いつでもこの場所から逃げられる。そういう場所で、しかし僅かな好奇心から洞窟の中に残っていると、
『---ノ---カク---。----ヲキドウ---」
声?
空洞内に雑音だらけの声らしき音が鳴り響く。
『……フソク……カンシ……カイジョ……エイセイ……』
そして声が止まると
「ふお!?」
赤い水晶のあった場所に、まるで闇でつくったかのような、黒くて丸い渦が現われた。
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