<9> 【大団円】は突然に

私は聞きたい。

オリアンヌの声、鼓膜を揺する刹那に脳の奥まで浸透し、えもいわれぬ快楽を全身に導くこの声を。


知らず手指が動く快い律動リズム、ひとりから発されたとは思えぬ多層の揺れビブラート、音から喚起される映像イメージはある時は夏空の青のように鮮やかである時は雪解け水のように透明で、またある時は貧困街路地裏スラムの腐臭を思わせる汚濁ポリューションと単なる雑多な塵埃の混濁コンタミネーションを分け、わずか一音で自在に感情を表現する天性の才能、異能の顕現。


出会いは偶発的必然。

画面越しに目を瞠り、口はだらりと舌さえ緩み。

放心のち涙。

あぁ、出来うることなら、私の作品にその声を。


願いつつ描いた悪役令嬢は、無声にての登場で。

しかし懊悩の呟きツイートが望みの幾ばくかを叶え——


「さぁ、」


私、フォンテーヌ公爵令嬢オリアンヌを取り囲むみなに呼び掛ける。


呟き漏れツイート流出で声が付き、悪役令嬢主役の話アナザーストーリーも追加。

完璧な再現演技に喜び震え、一層求め、されど永遠に続くはずもなく。


異世界転生は、或いは僥倖。

私の意思で、彼女が喋る。

声を、その声を、夢にまで見た響きを、手に入れて。

ならばすべてを得なければ。

際限ない欲望、果てのない探求。

あらゆる様式の声。

自らの意識下で発せない声、悲鳴、嬌声、喘ぎ、それから、腹から肺から押し出された空気が漏れただけの、ただの息遣いすら。


新人女性声優推しぜんぶを、私は聞きたい手にする


「さぁ、みなで一斉にピーをピーしてピーピーするのよっ」


玉座を降りた王は、爛々とその時を待つ私に近づき、王冠を外して私の上に載せる。


「なに……を」


期待する罵声、暴力的な咆哮どころか、ただの一言もなく王は背を向け立ち去り、騎士や衛兵は跪いた。

王の間にて仰ぎ見られるは、悪役令嬢と主人公のみ。


「王は託されました。尊い血を引く姪御であるオリアンヌ様に」


クラリスは歌う。

元より器が違う、ふたりの王子の何れかを公爵令嬢オリアンヌが支えればとの考えさえも甘かった。


「でも、貴女は……」


攻略者全員の籠絡逆ハーエンドを目論んでいた主人公クラリスには耐え難い結末のはず。

クラリスは再び鈴を鳴らす。


「私の望みは貴女さま。

……御子をお産みください」

「王子を貰う、と」

「さすればこの国は安泰となりましょう。

貴女さまの望みも……例えば騎士団長三男バジル・バルサンなどは」

少年あの子?」

長男ジャン・バルサン弟の素質いろいろと大きくて丈夫に嫉妬して排除を図ったのです」


なんてこと……


形は違えど、望みが叶う。

快楽への期待に胸も腹も喉も熱くなり、我知らず身体を抱き。


主人公クラリス悪役令嬢オリアンヌの視線は交錯し、意識は溶け合い。

初めから、混在していたことハーフハーフに気付き——

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