<8> 主役は【悪役令嬢】
「オリアンヌ様、王城より使者が参りました」
執事が訪いを告げ、私は二度と戻らない自室のテーブルにグラスを置く。
廊下の開いた窓から、鎮魂の鐘が低く聞こえる。
常春の国トルネラの穏やかで温かな風に、街のそこかしこで焚かれている香の匂いも乗る。
国中が沈んでいる。
ふたりの王子の死に。
そして、世継ぎをすべて奪われた王は、怒りに狂う。
「お迎えに上がりました」
「そう……」
使者は他に何も云わず、ただ馬車へと導く。
私はひとり、深々と頭を下げる執事に見送られて邸を後にする。
*
ふふふっ。
あははははっ。
馬車の中、護衛という名の監視は、
大笑いにも反応せず、隣に座って耳朶を食んでも可愛らしい吐息を漏らすだけ。
楽しかった。
いや、途中からは作業ゲー、
誰と対戦しても同じ制約なら、同じ操作で
量産した私兵で何を遣ったか。
正解は——
馬車は王城へ到着し、騎士に先導されて王の間へ案内される。
窶れ顔の王と、
あぁ、いよいよ。
この時のために。
私、フォンテーヌ公爵令嬢オリアンヌは、華やかで艶やかで嫋やかな声を凛と張る。
「
王太子と第二王子を葬ったこの私を」
常春の国には似合わぬ寒さの
同日、
血を継ぐ者すべて失った王は、暗殺を主導した公爵令嬢を断罪する。
憎しみに正気を失い、うら若き女性に対して考え得る最も残酷で冷徹な私刑ともいえる罰を与える。
「さぁ、」
ブルーダイヤの腕輪がキラリ光る右手を胸の前で伸ばして蠱惑的に指をくねらせて。
三十もの大粒ルビーを配した豪奢なネックレスが飾る真っ赤なドレスの胸元を逸らして。
「
世界を睥睨するこの翡翠の瞳を、魔女と罵り、悪魔と呼んで、まさに生贄の如く嬲り続けるがいい」
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