<5> 【追放エンド】はナレ死

開始ゲームスタートから一ヶ月、無事に王太子クリストフほか攻略者に取り入った主人公クラリスは、今日も甘い鈴の音で彼らを魅了する。


「殿下、わたしの作法はいかがでしょう」

「あぁクラリス、愛らしさに加えて気品まで……私をどうしようというのだ」


睦言のような戯れ言を臆面なく晒すふたりに、端のお付きジャンとカミユも呆れかえれば良いものを、賞賛賛美のお追従。


庭園四阿あずまや宿敵主人公に奪われた私、フォンテーヌ公爵令嬢オリアンヌは詩集片手に踵を返す。


「兄貴っそろそろ説明しろよっ」


と、ころころからから中身の萎んだ木の実の談笑に闖入者。

この深い低音バスはジャンの弟、騎士団長三男バジル・バルサン。木陰から見守る。


「騒々しい。ご令嬢が怯えるだろ?」

「公爵令嬢なんて聞いてない。生意気な女を倒してこいなんて」

「負けてりゃ世話ないな」


騎士団長令息ジャンは鼻で笑うと振り返り、皆に向かって肩を竦める。

クスクスと庶民娘クラリスにまで笑われた少年バジルは頭に血が上って詰め寄り——


どぅんっ、どかっ。


吹き飛ばされ、私のすぐ側の木にぶつかり倒れる。

宰相令息カミユの魔法。


「殿下にもクラリス様にも近づかないでいただきたい……」

「興が削がれた。場所を変えよう」


冷えた高音を鳴らして、王太子は主人公をエスコートする。

攻略者三人に先導されるクラリスは、去り際に茶色の長髪を揺らして顎の形だけで解る優美と醜悪の混ざる微笑ハーフハーフを残した。


「うぅ……」

「バルサン様、」


呻き声。打つけ処が悪ければ命に関わる。

医務室にて回復魔法を受けさせるか、誰か連れてくるか——


近づいて、その姿に息を呑む。

どくどく頭から流れるラインに。


記憶が、喚起される。


真っ黒な画面に白抜きの文字。


「クラリスは涙ながらに断罪しなくてはならなかった……」


漏れ出る悪役令嬢自分自身の最期。


主人公が攻略者全員を籠絡する逆ハーレムルートでは、悪役令嬢も友人に連なる。

その実、最後まで王太子妃の座を諦めず、裏でクラリスを貶める噂を流し、宝飾品泥棒の濡れ衣を着せ、遂には暗殺者を雇う。

クラリスは、攻略者たちの協力により策謀を暴き、証拠を突きつけ、自ら断罪する。


「大悪女、フォンテーヌ公爵令嬢は王都追放処分となり……」


常春の島国トルネラでは珍しい、雪が降る山岳の村へ追放される道中で山賊に襲われて殺される。


黒い画面が吹雪を表す一面の白に変わり、真っ赤なが上から流れ落ちる。

一枚絵さえ用意されず、オリアンヌは尽きて。

後顧の憂いを断ったクラリスは王妃となり、実質的に王宮を掌握する——


宝冠を頂いた王妃の艶麗な笑みが、私の意識を奪った。

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