<3> 【処刑エンド】はお断り

オープニング静止画スチルの一部分を私は、学園の正門前通路、薔薇の大通りの中央から見ている。


柔らかに笑みを浮かべる平民の少女クラリス。

クラリスに呼び掛けようとしている青年、王太子クリストフは、王族の証である豪奢な腕輪を見せつけるように上げる。

その半歩後ろには制服ブレザーでは隠せない体躯の男子生徒、騎士団長令息ジャンが少し威圧的な視線を寄こし、更にその隣を歩く、ジャンと比すれば細身である眼鏡の生徒、宰相令息カミユが皮肉げな笑みを浮かべる。

少し離れて植栽の側から彼女を見詰める片眼鏡モノクルの背広姿と正門に凭れてこちら側を向く召使いの少年の姿もある。


なるほど——


ゲームは今、始まった。

息を呑むほど美しい静止画を現実のものとして、私、フォンテーヌ公爵令嬢オリアンヌは生き抜かなければならない。


「きみぃ」


王太子クリストフの高めの男声テノールにクラリスは立ち止まり振り返る。

ジャンとカミユも近づき——


「無視するなよっ」


ずいと、視線が遮られる。

初めに声を掛けてきた男子生徒が、口角を下げて睨み付ける。

意識が逸れたからか、別の静止画スチルが脳裏に浮かぶ。


透かし彫りガラスを経た朱色の灯りを背負って座り込む金髪縦巻きロール女と侮蔑の表情で見下ろす王太子クリストフ、哀しみと怒りの合いの子ハーフハーフのクラリス。騎士団長令息ジャンが抜いた剣の切っ先は、派手なドレスから豊満な胸元を覗かせて慈悲に縋ろうとする憐れな女の首元へ向けられ、衛兵を呼ぶ宰相令息カミユの面は冷徹に光る。


「……お前が仕組んだと分かっているんだ」


呟きは眼前の男子生徒には聞こえた様で、表情が戸惑いに変わった。

オリアンヌは多重人格者のように、攻略対象者ルートによって異なる役割を演じさせられる。

【処刑エンド】は濡れ衣エンド。

オリアンヌは、何も遣っていない。何も行動しなかった事こそが罪だから。

無為に過ごして国母になれるほど甘い世界は存在しない。

制服の内側の腕輪を強く掴んで、ゆっくりと離す。


「お、お、お前、」

「お前……まさか、わたくしに仰っているので?」


震える童顔は、社交に疎い新入生か。

でなければ、最上級学年の公爵令嬢を見下す物言いなどできまい。


ふっと鼻で笑う誰かの息遣いが届く。

可哀想に、嵌められたか。


「お、おれ、オレと、勝負しろっ」


気付けばクラリスたちはおらず、生徒たちは横目でちらちらと、あるいは顔を伏せて急ぎ足で通り過ぎていき、童顔男子生徒の背景はもう、石畳の通路と正門が遠く見えるばかり。


チュートリアル模擬戦が始まる。

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