レッツゴー! ぼくらのチチェレンジャー!

中田もな

助けて! チチェレンジャー!

 ……ぼくはもしかして、頭がおかしくなっちゃったのかな。試しにほっぺたをつねってみて、ぼくは目をぱちぱちさせた。

 目の前で羽をパタパタさせているのは、とんでもなく大きなガだ。こんなの、今まで見たことない。

「う……、ごご……」

 太陽みたいに真っ赤な羽と、もこもことした真っ白なお腹。ぎらぎらとした真っ黒な目は、ビルの三階ぐらいの位置にある。ガはぼくの顔をギロリとにらむと、ぱっくり割れた口をもごもごと動かした。

「ご……、が……」

 手足を生やした大きなガは、何かをぶつぶつとつぶやいている。……やっぱり、こんなのおかしいよ。筋肉もりもりのマッチョのガなんて、博物館でも見たことないもん。

「あ……、が……、がが……」

 ガはのそのそと歩きながら、ぼくの方に近づいてくる。のそのそ、のんびり。だけどしっかり。……近づいてきて、ぼくのことを、食べようとしている!


「う……、うわぁぁぁぁぁ!!」

 ――心臓がバクバクと音を立てて、ぼくは一目散に走り出した。今まで全然動かなかった足が、やっとやっと動いたんだ。

「助けてぇぇぇぇぇ!! 怪獣だぁぁぁぁぁ!!」

 ぼくはランドセルを放り出して、思いっきり道路に飛び出した。三時のおやつの時間なのに、車も人もだれもいない。いつもは友だちだらけの通学路に、ぼくと怪獣の二人っきりだ!

「だれか!! だれかいないの!?」

 鬼ごっこは得意な方だけど、ガの怪獣との勝負なんて、絶対ぜったいしたくないよ! 飛行機みたいに大きな羽が、ずっとパタパタ動いてるもん! 一回ぴゅうって飛んできたら、あっという間に追いつかれちゃう!

「だれかぁぁぁぁぁ!! 助けてよぉぉぉぉぉ!!」

 ぼくは顔がぐちゃぐちゃになって、服のそでで汗をぬぐった。交番にもスーパーにも、どこにも人が見当たらない! このままじゃ、ぼく……!

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 怪獣の腕が飛んできて、ぼくの首をガシッとつかむ。ぼくっ、ぼく、食べられちゃうよっ!! だれかっ、だれか助けて――!!


「そこまでだ!! 悪しき怪獣!!」

 ――怪獣がぱっくりと口を開けたとき、図書館の屋根の上から、だれかが「とうっ!」と飛んできた。ものすごい力で怪獣をけり飛ばし、ぼくのことを助けてくれる。

「遅くなってすまない! 後のことは、俺に任せろ!」

 真っ赤なヒーロースーツに、かっこいいグリーンのマント。……怪獣をやっつけてくれる、ぼくらの正義のヒーローだ!

「迷える子どもを連れ去る、おぞましい怪獣め!! この俺、ローズレッドが相手だ!!」

 ローズレッドは「やぁっ!」と地面をけると、ブンブンと両腕をふる怪獣に、力いっぱいパンチをした。パンチが怪獣の胸に直撃すると、風がびゅうびゅうとふいて、怪獣は「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」と鳴く。ぼくも思わず飛ばされそうになって、ガードレールを必死につかんだ。

「これでトドメだ!! ローザフラーッシュ!!」

 ――ローズレッドが怪獣につっこむと、辺りがピカーッとまぶしくなって、ドドドドドッとものすごい音が聞こえた。……怪獣がたおれ込んで、周りのビルを壊したんだ。ぴくりともしなくなった怪獣を見て、ぼくはほっと一安心。よかった、食べられずにすんだ!

「君、大丈夫? 怪我はないかい?」

「うん、大丈夫! ありがとう、ローズレッド!」

 ぼくがお礼を言うと、ローズレッドはグッと親指を立てた。強くて優しいローズレッド、ぼくの正義のヒーローだ!


「おい! ちょっと待ちやがれ!」

 ――ぼくがローズレッドに飛びつこうとした、そのとき。レッドが倒したビルの向こうから、別のレンジャーがやって来た。ぷんぷんと顔を真っ赤にしながら、マントをひらひらとさせている。

「おまえばっかり活躍して、ずるいじゃねぇかよ! 俺の出番もつくりやがれ!」

「あっはっはっ! 悪いな、ネモフィラブルー! 悪の組織・ワルワル団の怪獣は、俺一人で十分さ!」

「はぁぁぁ!? それじゃあ、戦隊ものの意味がねぇじゃねぇかよ!!」

 ブルーがそう言うと、周りの街なみが一瞬で変化して、いつもの公園になった。ぼくたちが、毎日チチェレンジャーごっこをして遊ぶ、いつもの団地に。レッドとブルーのかっこうも、ヒーロースーツとマントじゃなくて、ジャージとタオルに戻っちゃった。

「もう、レッドにブルーったら! ケンカばっかりして、ホントに仲がいいのねぇ」

 レッドとブルーがやいやい言い合っていると、ブランコをこいでいたアナベルグリーンが、やれやれと肩をすくめた。ヒーロースーツ代わりの緑のジャージを着て、紙パックのオレンジジュースを飲んでいる。

「すみれちゃん、もうレンジャーごっこは終わりにしましょ。近くのコンビニで、肉まん買って食べない?」

 グリーンはとっても優しいお兄……、お姉ちゃんで、ぼくのことを弟みたいにかわいがってくれる。だけど、怒るととっても怖くて、ブルーに「おかま」って呼ばれた日には、ワルワル団の怪獣みたいな顔をして、ものすごいタックルをかましてた。

「ねぇ、グリーン。ぼくはいつになったら、ラベンダーパープルになれるのかな?」

「うーん、そうねぇ……。もっともっと特訓すれば、立派なパープルになれると思うわ」

「そっか、もっとすれば……」

 ぼくはまだまだ弱いから、みんなに認められるまで、チチェレンジャーにはなれない。だからぼくは、毎日毎日してる。かっこいいパンチの練習や、ズバッと決まるキックの練習をしてるんだ。

「……ぼく、もっともっと頑張る! もっともっと頑張って、かっこいいパープルになるんだ!」

「うふふ、そうね。頑張って」

 グリーンがぼくの頭をなでてくれる。ぼくはとってもうれしい。チチェレンジャーと出会えて、本当によかった。

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