第30話 川上賢太・六日目
変化のない毎日に、完全に考える力を失っていく。
川上はベッドに寝転がり、目覚めたら運び込まれていた朝食をぼんやりと眺めてしまう。
食べる気力さえ湧かないのだ。
それでも、何も食べないのはよくないかと手を伸ばすが、代わり映えのしない缶詰と乾パンというメニューに、やはり食べる気が起きない。
これではただ生かされるためだけの食事だ。
犯人は、何がしたいのだろう。
「せめてコーヒーを飲むか」
そんな中で唯一欲しいと思うのは、やはり毎日のように付いてくる缶コーヒーだ。この生活の唯一の楽しみともいえる。これがなかったら、川上はもっと早くに気持ちが参ってしまったことだろう。
「いつまでここに閉じ込められるのかな」
初めはあった犯人に対する気持ちも、川上の中であやふやになっていく。ただ、一日も早くここから解放されたい。それだけが願いになっていた。
どういう目的でここに閉じ込めたのかなんて、もうどうでもよくなっている。
ともかく一刻も早くこの淡々とした生活が終わることを望んでいる。
死ぬような恐怖はないが、楽しみも何もない毎日。それがこんなに苦痛だとは思わなかった。
「本当に患者になってしまったかのようだ」
コーヒーを飲みながら、川上は嘆くように呟く。
もしも食事が缶詰と乾パンでなければ、自分は本当に知らない間に入院させられてしまったのだろうと考えていたことだろう。
しかし、犯人はそんな気持ちの逃げを許してくれないのだ。
あくまでここに監禁している。そういう体を取っている。
「何がしたいんだろうなあ」
ぼんやりとしていても、出てくるのは何故だ。だが、思考停止に陥っている川上は、それ以上を考えることが出来なくなっている。
「もう一寝入りするか」
そして、ベッドに寝転んでいる以外にすることがないのだった。
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