希望ある生活へ

シヨゥ

第1話

「そこにあるだけでいい。無理に取り繕わなくても、無理に機嫌を取ろうとしなくてもいい。ただただ自分らしくそこにあればいい」

 やってきたお屋敷の主人のはそんなことを言う。

「まずはやれることから。やれないことはまだやらなくていい。見様見真似が一番危ない。いきなりケガをされたら親御さんに申し訳ないからね」

 白髪を後ろで束ね、丸眼鏡をかけた主人が今日から私の雇い主ということになる。

「あの、ありがとうございます」

「感謝されることはなにもしていないけどね。君の両親がお金に困っていた。だから古馴染みの僕が援助した。その見返りとして君を預かることにした。お金に変わりに人質を取ったようなもんだよ」

「それでもです」

「加えて言うなら、僕は君の両親の返済能力を当てにしていない。だから君がここから自由になるにはここで自分で稼いで返済するしかない。そうなると僕と君とのパワーバランスは大きく僕に傾くことになる」

「それでも、あの家から連れ出してくれありがとうございます。自分らしくそこあれ、なんて親は言わないしさせてくれないんです。言葉だけだとしてもここでの在り方を示してくれて安心したんです。だからありがとうございます」

 そう礼を言って深く頭を下げた。

「不思議な子だ」

 するとそんな声が聞こえた。

「そこまでしっかりと物が言えるのに、親には何も言えないのか」

「生んでくれた恩。育ててくれた恩。そして恐怖。理由はいろいろあります」

「そういうものか」

「そういうものです」

「自分が如何に自由人だったか思い知らされるな。まあいい。とりあえず仕事は明日からだ。まずは部屋で旅の疲れを取るといい」

「分かりました」

 一礼して下がる。部屋を出ると様々な人が忙しく働いている。この一員になるのか。そう思うだけで緊張してしまう。それでもこれまでの希望のない生活とは違って希望があるのだ。頑張っていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

希望ある生活へ シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る