第45話 悲しい結末だね

 シーガルたちが下げられて、そして複数のエルフたちによって何重にも拘束を施され、自力では歩けない男が台車に載せられて運ばれてくる。


「筆頭守護者ミルドルド。この者はその地位にありながら、あろうことかこの里の滅亡に加担しようとしたのです。また、里の幹部1名を殺害し、さらには私とラナテュールを手にかけようとしました。よってこの者にはこの場での即時極刑を言い渡します。異論のある者は挙手を」


 それに対しても、挙手はなかった。そして、使うのは何百年ぶりになるのだろうか、恐らく里の古い倉庫から持ち出されたのであろうギロチンが議事堂前へと運ばれてくる。


「ンー--ッ! ンー--ッ!」


 口をふさがれたままのミルドルドが騒ぎ、暴れようとする。しかし、何重もの拘束がそれを許さない。結局、少しも身体を動かせないままにミルドルドの首と手が、ギロチンへとはめ込まれた。


「さて、最期になにか言い残すことはありますか」


 アウロラがミルドルドの口枷くちかせを解いた。ミルドルドはヨダレを垂らしながら、私の方を向いてにらみつけてくる。


「これで満足か、ラナテュールッ!」


「は?」


「貴様を追放した俺のみっともない末路をその目に焼き付けられて満足なんだろうッ⁉ だがなぁ、覚えておけ! この結末はきっと貴様にも必ず訪れる未来だ!」


 ヒヒッ、と涙をボロボロとこぼしながらひきつったように笑って、ミルドルドが続ける。


「貴様が里長になれば、里の民は貴様に期待するだろう! そしてその期待は次第に大きなものへ変わっていき、その期待を裏切れば即座にいま貴様の目の前に映るギロチンの結末だ! 辿る未来は結局、俺もお前も同じなんだよッ! ヒヒヒッヒヒッヒッ……!」


「ミルドルド……君は勘違いしているよ。いや、違うな。誤魔化そうとしているのか」


「ヒヒヒッ……あ?」


 なんとも哀れだ。追い詰められたそのミルドルドの歪んだ姿に、たぶん過去最大級の憐れみを抱いてしまう。


「期待を裏切られたのはさ、たぶん君の方だろう?」


「……な……んだと……?」


「私が思うに、君は期待していたんだ。君自身の筆頭守護者としての未来に。誰からも敬われて、そして自分の指示のもと里は発展し、すべてが上手く運ぶ未来を思い描いていた。でも、それは叶わなかったんだ。君はそれにたまらなく傷ついて、傷つき続けて、そして最終的にはその傷を覆い隠すように大きな傷を重ねた」


「なにを言っている……やめろ……!」


「上に立つ才覚が自分には無いと気づいてしまったことが辛かったんだろう。だからその事実から目を背けるためにそれ以上の痛みを求めた。里を滅ぼし、自らも死のうとした。でもそれすらも叶わず、いまこうして無意味な死が訪れようとしている。それが辛すぎるから、だからせめて道連れに私の未来を汚そうとしているんだ」


「やめろ、やめろっ! 俺を理解しようとするな……っ! 俺を理解するなぁッ!」


「でもさ、君がずっと欲しかったことってきっとそうじゃない。少なくとも死の間際に私を呪うことじゃないでしょ?」


「やめてくれ……ッ!」


「『できなかったね。残念だったね』ってそう言われて、無理やりにでも諦めさせてほしかったんじゃないかな?」


「……ッ!」


 ミルドルドが、ギュッと目をつむる。目を逸らしたい事実を見えなくするように。


「きっとアウロラは君を諭し続けていたはずさ。だけど、君は差し伸べられたその諦めるための手を上手く取ることができなかったんだね。変にプライドが高かったから」


 私はギロチンに挟まれるミルドルドの前へ行き、その頭に手を載せる。


「ミルドルド、残念だったね。最期くらい私のことは忘れて、自分のために時間を使いなよ。『ああ、できなかったんだな』って、素直に悲しんで逝きなさい」


「……俺は」


 ミルドルドはそれっきり口をつぐんだままだった。ただただ涙を流し続けて、そうして彼はいよいよ自分と向き合うことができたのだろうか。それは分からない。


 その首はトンッという軽快な音と共に切り落とされた。

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