第71話セイクリッド・インパクトvsドラゴニック・スケイル

 本格的な接近戦でもやはり、攻勢に出るのはドラグレリアだった。


 一発でもクリーンヒットを貰えば命が危うい俺が、どうしても防御と回避を優先せざるを得ないのとは対照的に。

 ドラグレリアは、俺の必殺技『セイクリッド・インパクト』を受けても全くダメージがない。


 そのためドラグレリアは完全に防御そっちのけで、攻撃一本槍でゴリゴリ攻め立ててくるのだ。


「ぬふふっ! どうじゃどうじゃ! わらわのこの圧倒的な強さは! 見惚れてしまうであろう!」


 大きな牙が並んだアギトで噛みつき、凶悪な鋭い爪を突き立てようとするドラグレリア。

 さらに丸太のような尻尾を振り回し、わずかに距離が離れると巨大な身体をぶつける突進で俺を跳ね飛ばしにくる。


「くぅ――っ!」


「くくっ、楽しいのぅ! ほんに楽しいのぅ!!」


 猛攻を仕掛けるドラグレリアに対し。

 俺は回避と防御に意識をきながら、しかし隙あらば鋭いカウンターを狙っていく。


「おおおぉっ!! 聖光解放! 『セイクリッド・インパクト』!!」


 俺の聖なる拳が再びドラグレリアのボディを捉えた。

 だが、


「それはわらわには効かぬと言ったじゃろう! 何度やってもムダじゃっ!」


 ドラグレリアはまったく意にも介さず、攻撃の手を緩めようとはしない。


「ムダかどうかは、終わってみなけりゃ分からないだろ? そういうセリフは最後に立っていられた時に言うんだな――! 聖光解放! 『セイクリッド・インパクト』!!」


 俺はドラゴニック・スケイルによってシャットアウトされても全く構わず、隙あらば必殺の『セイクリッド・インパクト』を打ち込んでいく。


 もうさっきのようにスピードで負けることはない。

 スピードでさえ負けていなければ、防御力に決定的な差があろうとも俺が負けることは、そうはない。

 5年間の勇者旅で実戦を通して身に着けた立ち回りで、十分に対応できる。


 まずはこの状況を維持しながら布石としつつ、次へと繋げる――!


「ほほぅ、なるほどのう。既にわらわのスピードに完全にアジャストしているのじゃ」


 休む間もなく多彩な攻撃を繰り出していたドラグレリアが、ほんのわずかの一瞬の合間に歓喜の声をあげた。


「言っただろ、ちょっとミスっただけだってな。お前こそさっきから俺にクリーンヒットを一発も当てれていないだろ? お前こそ『こんな程度』なのか? ほらそこだ、聖光解放! 『セイクリッド・インパクト』!!」


 何度目かの『セイクリッド・インパクト』がドラグレリアのボディを捉える。

 しっかりと捉えた感触はあるものの。

 やはりドラグレリアがダメージを受けた様子はわずかも見られない。


「くくっ、確かに速さは上がってるのう。じゃがその分、攻撃力は落ちているようじゃが?」


「……チッ」


「気づいておらぬと思ったか? その聖なる拳。最初にドラゴンブレスを打ち消した時と比べて、明らかに威力が落ちておるのじゃ。これはあれじゃな? 女神の加護によって得られるパワーアップの配分を、スピードに多く割り振り直したのじゃな?」


「ま、お前クラスなら俺が何をしたか見抜けて当然だよな」


 ドラグレリアは実にドラゴン族らしい自分勝手で荒っぽい性格だ。

 が、その反面。

 魔王の秘術を再現できるほどに繊細に術式を観察し、また自分のものとして操れるのだ。


 俺が何を変えたのかを見抜くくらいはたやすいことだろう。


「むふふふ。パワーよりもスピードを優先したのじゃろうが、しかし『こんな程度』ではいつまでたってもわらわのドラゴニック・スケイルは打ち抜けぬぞ?」


「うるせえ、イチイチ余計なお世話だっての。聖光解放! 『セイクリッド・インパクト』!!」


 俺は紙一重のギリギリのところでドラグレリアの攻撃をさばき、かわしながら、反撃の『セイクリッドインパクト』を打ち込み続ける。


 強大な威力を誇る『セイクリッド・インパクト』ですら、単発ではたいしたダメージにはなり得ない。

 しかも使えば使うほど俺は消耗していくのだ。


 なにせ『セイクリッドインパクト』は俺の必殺技だ。

 必殺技ってのは本来勝負を決める時に使うものであって、こんなにバンバン連打するような技じゃないからな。


 でもそれは全部、あらかじめ分かっていたことだ――!

 そんなことは今さら確認するまでもない。


 俺は『セイクリッド・インパクト』をしつこくしつこく打ち込んでいった。


 そしてついに狙っていた瞬間が訪れた――!

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