第67話 レッドアイズ・ブラックドラゴン

「オッケー、分かった。期待してるぞリエナ」

「何をするか聞かないんですね?」


「リエナのことだから、俺にぬか喜びさせないように成功させるまでは言わないでおこうとか思っているんだろ?」


「えへへ、さすが勇者様は全部お見通しなんですね」

「リエナとも長い付き合いだからなぁ」


 なにせリエナとはもう5年以上も、ほとんどずっと一緒にいるのだ。

 性格や考え方は家族よりも深く理解していると言っても過言ではない。


「全力でトライします。もし可能ならこの命に代えてでも成してみせます」


 悲壮なる決意をあらわにするリエナに、しかし俺は優しい声でダメ出しをした。


「いいやそれはダメだ。あくまでリエナの命が優先だからな? そこだけはちゃんと守るんだ」


「皇竜姫ドラグレリアと戦う勇者様は、それこそ命がけになるはずです。勇者様が命をかけるのなら、私も命をかけます。それが勇者を助ける神託の神官の役目ですから」


「だからダメだってば。2人で生きて勝つ、それが絶対にして唯一の条件だ」


「ですが……」


「言っておくが、リエナのサポートがなくたって俺は負けるつもりなんてさらさらないからな。だからリエナも無茶だけはしないでくれ……な?」


「……分かりました」


「約束だからな? 女神アテナイに誓って破るんじゃないぞ?」


 念押しするように言うと、リエナは真剣な表情でコクンと頷いた。

 そして一転、笑顔になると俺を送り出す時の慣れ親しんだ決まり文句をかけてくれる。


「御身に偉大なる女神アテナイのご加護がありますように」

 女神アテナイに祈りを捧げ、俺に高位の防御加護を授けてくれるリエナ。


 いつものルーティーンを終えると、リエナは少し離れた場所へと避難していった。

 そしてすぐさま何ごとか儀式の準備をし始めた。


「サンキューな、リエナ。お前がいれば俺は身体も心も百人力だから」


 距離のあるリエナにはもう聞こえていないだろうけど、心からの感謝の気持ちを口にしてから。

 俺はドラグレリアへと向き直った。


「戦う準備は整ったのかの?」


「ああ、オッケーだ。待たせて悪かったな」


「なぁに。勇者殿にならこうして焦らされるのも、なかなか悪くないのじゃよ」


「「………‥」」


 互いに無言で視線をぶつけ合った後。


「じゃあいくぞ――! 女神アテナイよ、俺に邪悪を退けし勇者の力を――『女神の祝福ゴッデス・ブレス』!」


 言霊を紡いだ俺の身体を白銀のオーラがうっすらと覆っていくとともに。

 勇者だけが扱える強大な力が俺の全身を駆け巡っていく──!


「くくっ、よいのぅ! 実によいのぅ! 文化祭で腕相撲とやらをした時とは違って、猛烈な戦意と敵意がビシバシと向かってくるのじゃ! なるほど、これが『絶対不敗の最強勇者』の本気の闘気なのじゃな!!」


「御託はいいから、お前も早く戦う準備をしろよ?」


「くくくっ、分かっておるのじゃよ! では本気の勇者殿には、わらわも最初から全力の本気で応えるとしようぞ!」


 ドラグレリアの身体を漆黒の闇が取り巻いたかと思うと。

 次の瞬間にはもう妖艶な女性の身体から、高さ7、8メートルはあろう巨大なドラゴンへと変身していた。


 いや、今まで「人化変身」によって人の姿になっていただけだから、元の姿に戻っただけか。


 ドラグレリアは全身から禍々しい闇のオーラを放つ、夜より暗い漆黒のドラゴンだった。

 全身が暗闇色に覆われる中で、両のまなこだけがらんらんと真紅に輝いている。


 レッドアイズ・ブラックドラゴン――ドラゴンの中でも特に強大な力を持った希少種だ。


「なるほど。サイズは少し小さいが、竜族を統べた皇竜ドラグローエンと見た目がそっくりだな。皇竜ドラグローエンの娘ってのにも納得いったよ」


「矮小な人間ども相手に暴れ回った末に、無様ブザマにも討ち滅ぼされた愚かな父と同類扱いにされるのは、わらわあまり好きでないのじゃ。今はただただわらわだけを見るがよいぞ」


「そりゃ悪かったな、気を付けよう。さぁ来いよ、俺はいつでもいいぜ」


 俺は右半身を後ろに引いて半身はんみになると、得意の高機動・格闘戦の構えをとる。


「来い、こい、恋……うむ、さあデートを始めるのじゃ!」


「なにがデートだ。いきなり意味不明なこと言ってんじゃねぇよ!」



 こうして

 『絶対不敗の最強勇者』vs最強の竜の姫。


 互いに世界最強を自負する両者の戦いが今、幕を開けた――!

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