第66話「だが、それでも勝つのはこの俺だ」
「おいおい。まさか『オーフェルマウス』の女神に加護をもらっている俺が、わざわざ有利になる設定にしてお膳立てしてくれたってことか? そこまでされたら、もうサービス精神旺盛ってレベルじゃねーぞ?」
「なにせ
「なるほどなぁ」
「ただ噂に聞く愛用の聖剣とやらがないことだけは、さすがの
ここまでしてくれたっていうのに、ドラグレリアは申し訳なさそうに小さく肩をすくめた。
「いいや、これでも十分すぎるよ。悪い、正直言うとさっきまでお前のことを侮っていた」
「ふむ、それはなんとも心外じゃのぅ」
「ただただ自分が最強であることを証明したいだけの、どうしようもない戦闘狂だって思っていた。ごめん」
「否定はせんがの。しかし
「今はもう分かってるさ。ドラグレリア、お前の戦うことへの真摯な情熱は、心から称賛に値するよ。さすが皇竜姫と呼ばれるだけのことはある。心から納得したよ」
「むふふ、勇者殿にそうまで褒められると悪い気はせんのぅ」
ご満悦のドラグレリアに、しかし俺は世間話はここまでとばかりに鋭く宣言した。
「だがそれでも勝つのはこの俺だ。すぐに地べたを這わせてやる」
「ほほぅ……言ってくれるのぅ」
「『絶対不敗の最強勇者』と呼ばれた勇者シュウヘイ=オダの力を、今からお前にとくと見せてやるさ。リエナ、離れていてくれ」
俺はリエナに安全圏まで避難するように指示をした。
俺と真っ向勝負がしたいドラグレリアは、基本的にリエナを狙うようなことはしないはずだ。
そもそもリエナはドラグレリアの眼中にはないだろうから。
そこの心配はいらないはず。
だけど俺とドラグレリアの戦闘の余波は相当の規模になるだろう。
リエナが安全な場所にいていてくれた方が、俺としては安心できるのだ。
「あの、勇者様……」
しかしリエナはその場に立ち尽くしたまま、何ごとか伝えようとしてくる。
「どうしたんだ? なにか言い忘れたことでもあったのか?」
今日という日を迎えるにあたって、対ドラグレリア戦の準備と対策は事前にやりきっている。
今さらこの場で言うことなんてないはずなんだけどな?
「この極めて特別な状況下でなら、あるいはもしかしたら……。2つの世界で時間の流れが同じと仮定すれば、『オーフェルマウス』は今もっとも女神アテナイの力が満ちやすい『女神アテナイの祝い月』のはず……。それでも足りないなら最悪私の……」
俺の問いかけに、思案するような素振りを見せたリエナが小さくつぶやき始めた。
こういう時のリエナは、往々にして頭の中で猛スピードで考えを巡らせている。
『オーフェルマウス』で5年間、一緒に旅をする中で何度かこういうリエナの姿を見たことがあった。
そしてその後には決まって最高の答えを用意してくれるのだ。
「つまりなんの話なんだ?」
「あの、少し試してみたいことがあるんです」
「試したいことか」
「成功率は決して高くありません。ですが、もし成功すれば必ずや勇者様のお役にたつはずです」
リエナの真剣な瞳が俺を見上げていた。
ならもう俺の答えは決まってる。
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