第64話 皇竜姫、襲来。

「勇者様――!」


「ああ、分かってる。隠す気ゼロの闘気をビシビシ感じてるよ。ついに来やがったな」

「はい、皇竜姫ドラグレリアです……!」


 ドラグレリアの気配がしたのは、中間テストの回答が返却された直後の土曜日だった。

 そして俺とリエナはというと、準備万端でドラグレリアの襲来を待ち構えていた。


 と言うのも。

 この世界では上手く神託を受けられないと嘆いていたリエナが、珍しく神託を授かり、ドラグレリアの襲来をバッチリ予測してくれていたからだ。


「さすがリエナの神託だな」


「久しぶりだったので外れたらどうしようかと思っていましたが、当たってくれてよかったです」


謙遜けんそんするなってば。ほんと、ここぞという時にこれほど頼りになるものはないんだから」


 俺とリエナはそろって玄関を出た。

 するとそこには――、


「文化祭以来じゃの、勇者シュウヘイ=オダ。それと小娘。呼びもせぬうちに2人そろって出迎えとは、なかなか気が利くではないか。まずはその心意気、褒めてつかわすのじゃ」


 腕を組んだドラグレリアが悠然とたたずんでいた。


「お前こそえらく機嫌が良さそうじゃないか? なにかいいことでもあったのか?」


「それはもちろん今日という日を心待ちにしておったからのぅ。浮かれずにはいられぬのじゃよ」


「はいはいそうですか。それでどこでやるんだ?」


 ドラグレリアと長々と無駄な話をしても益はない。

 俺は単刀直入に問いただした。


「ふむ、勇者殿はせっかちじゃのぅ。それとも勇者殿も、そんなにわらわと戦いたくてしょうがないのかの?」


「別に世間話するような関係でもないだろ。なら早く始めて早く終わった方がいい。とっとと始めようぜ」


わらわはこんなにも焦がれておるというのに、つれないのぅ」


 俺と戦えることがよほど嬉しいのか。

 やけに芝居がかった態度でこれみよがしに嘆いてみせるドラグレリア。


「あのな。文化祭でも行ったが、俺はこの世界に戻ってきてからこっち、学校生活のやり直しリスクールに忙しいんだっての。で、どこでやるんだ?」


「ここじゃよ」


 戦うための場所を2度問いただした俺に、しかしドラグレリアは妙な答えを返してくる。


「は? どこだって?」

「だからここじゃよ」


「あのな、ふざけるのもいい加減にしろよ? 俺の家の前でドラゴンと戦えるわけないだろうが。お前が場所を用意するって話だっただろ。あの話はどうなったんだ?」


「そうではないのじゃよ。ふむ、百聞は一見にしかずというしの……では案内あないするとしよう――開け、時空の門よ」


 ドラグレリアがその言葉とともに開いた右手の平を正面に突き出す。

 その瞬間だった。

 周囲の景色が一瞬ぐにゃりと歪んだかと思うと、次の瞬間には俺たちの周囲はもう別の空間へと様変わりしていた。


「……おいおい、冗談だろ? これってまさか――」


 そして俺はその空間にとても見覚えがあった。

 つい先日も引き込まれたその空間は――。


「これはまさか異相次元空間ですか!? 魔王カナンの固有奥義とも言える秘術を、再現しただなんて!?」

 リエナが驚愕の表情を見せ、


「まさかこう来るとはな……さすがにこれは想定の範囲外だ」

 さすがの鋼メンタルの俺も、これには驚かざるを得なかった。


 そう。

 俺たちの周囲に広がるのは、この世界とは別に作り出された特殊な異空間――魔王カナンが得意とした異相次元空間だったのだ――!


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