第60話「……勝てますか?」

「うーん、俺もそこは少し気になったけど、そもそも俺と真っ向勝負で戦いたがってるんだから変なことはしてこないだろ?」


「そうですよね、その可能性は高そうですよね。卑怯な手を使うのは最強種たるドラゴンのプライドが許さないでしょうし」


「しかもドラグレリアはその中でも特にプライドが高そうなタイプに見えたもんな。ってわけでそれも大丈夫だろ」


「ということは、文字通り正面からの力比べということですね?」

「ああ。十中八九、最初からフルパワーで殴り合うことになる」


「そうなるとやはり一番注意すべきは、強力な物理破壊光線であるドラゴンブレスですね」


「なるべく撃たせたくないけど、かと言ってブレスを撃たせないように接近戦を挑んでも、ドラゴンは近距離でも強いんだよなぁ。しかも防御が異様に硬いし」


「ドラゴンの身体を覆う竜鱗は世界最強クラスの硬度を誇り、並の武器では文字通り歯が立ちませんからね……」


「とりあえず一撃で破壊するのは無理だろうから、何発か同じところにピンポイントで打ち込んで撃ち抜くイメージだな。ま、それも含めて対策はこれからじっくり考えるさ」


 そこまで話したところでリエナが少し沈黙した後に、ためらうような口調で尋ねてきた。

「……勝てますか?」


 リエナのためらいの元はきっと不安と心配だ。


 勝てると言って安心させてあげたいところだけど、今は対策を話し合っている以上嘘を言うわけにもいかない。

 なによりも俺はリエナをパートナーとして信頼しているから、ここは正直に伝えようと俺は思った。


「戦う前から負ける気はもちろんないんだけど、正直言うとかなり微妙なところだ」

「やはりそうですか……」


「なにせこの世界には聖剣『ストレルカ』がないんだ。素手でドラゴンと戦うのはさすがに俺も初めてだからさ」


 俺の愛剣として5年間ともに戦い続けた聖剣『ストレルカ』は、今は『オーフェルマウス』の女神アテナイ神殿の最奥にある『聖剣の間』に安置され、再びの世界の危機に備えて力を蓄えながら眠りについている。


 別にこっちの世界の危機だからって理由でその強大な力を貸してくれないことはないんだろうけど、そもそもの話取りに行けないんだからどうしようもない。


「聖剣『ストレルカ』、勇者様の最強の愛剣をなんとかこっちの世界でも使えればいいんですけど……。せめてこの世界が『オーフェルマウス』と同じくらいに女神アテナイの加護が濃ければ、何か手は打てたかもなんですが」


「ないものをねだっても仕方ないさ。ある物でやるしかない。幸い勇者スキルは全部そのまま使えるんだ。しんどいなりに何とかしてみせるよ。なにせ俺は『絶対不敗の最強勇者』シュウヘイ=オダなんだ、そう簡単に負けはしないさ」


 髪を梳くように優しくリエナの頭を撫でながら、努めて明るい声で言った俺に、


「勇者様、一生のお願いがあります」

 リエナが真剣な声色で言った。


「なんだ? 急にかしこまってどうしたんだよ?」


 頭を撫でる手を止めと、俺はリエナの瞳をじっと見つめる。

 宝石のような綺麗な瞳と大きなまつげが魅力的なリエナが、俺を真剣な顔で見つめていた。

 最近よく見る平和な毎日を楽しむ可愛い女子高生の顔ではなく、それは神託の神官として共に戦っていた頃の凛々しい聖女の顔だった。


「ドラゴンとの一対一での戦いともなると、私の力程度は多分何も助力はできません。逆に足手まといになるでしょう。それでも……それでも私を戦いの場に連れていって欲しいんです」


 その言葉にはリエナの真摯な想いが込められていた。

 もちろん人の心を完全に分かることは不可能だけど、少なくとも俺にはそう確信をもって感じられた。


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