第59話 リエナを腕枕をしながら作戦会議

 文化祭が終わった日の夜。


 ゆるめのTシャツにハーフパンツと、寝る準備をした俺は、当たり前のように俺のベッドにインしてきたリエナに腕枕をしながら、今日のことを振り返りつつ今後のことを話し合っていた。


 いわゆる作戦会議だ。


「皇竜姫ドラグレリアとの戦いは、もう避けられないんですよね?」


 お風呂上りの石鹸のいい匂いをさせる身体を俺にぎゅっとくっ付けながら、俺の左腕に頭を乗せたリエナが、少し見上げるような角度で聞いてくる。


「向こうは完全にその気だから回避はまず無理だな。こうなったらもうやるしかない。強い者が偉い、殴って分からせるしかないのがドラゴンって種族みたいだからさ」


 敢えて言おう、脳筋であると。


「戦う場所はどうなるんでしょうか?」


「俺が想定しているのは大きな砂漠のど真ん中だな。そこなら人目に付かないし」

「ふへぇ、この世界にはそんなに大きな砂漠があるんですね」


「サハラ砂漠とかアラビア砂漠とか、国が2つも3つも入るようなとてつもなく大きな砂漠がいくつかあるんだよ。そこでなら俺とドラグレリアが戦っても、まぁ誰かに迷惑をかけたり周囲に影響を与えることはないはずだから」


「なるほどですね」

 俺の腕の中でリエナがうんうんと頷く。


 『オーフェルマウス』は広大な荒野はあってもそこまで大きな砂漠はなかった。

 明日にでも世界地図を見せてあげれば、きっとリエナはその大きさに驚くことだろう。


「ただまぁ、な」

「どうしたんですか?」


「普通に考えたら砂漠くらいしか考えられないんだけど、なにせドラゴンの考えることだろ? どんな想像の斜め上をいきまくった奇想天外な場所を用意してくるか、少し怖くはあるかな」


「あはは……それはたしかにですね」

 リエナが苦笑する。


「今日ドラグレリアと話してみてよくよく分かったよ。会話が通じているようでも、微妙に意図がずれてるんだ。しかも俺に敬意を払って譲歩したとか言っても、結局核心的な部分では絶対に譲ってくれなかったからな」


「人間とはどうにも価値観が違い過ぎましたよね……」


「生まれながらの最強種たるドラゴン様にとっちゃ、人間なんて道端の石ころと同じなんだろうなぁ。最初から聞く耳なんて持ってなさそうだ」


 勇者になるまでずっと陰キャで、目立たないように隠れるように生きていた俺とは大違いだ。

 そしてそんなドラゴンの中でもさらに上位の個体ともなれば、それはもう好戦的で偉そうでいても当然だろう。


「ですが、ただ強いだけじゃなくてあんな風に完全に気配を消せることもできるだなんて、思ってもみませんでした」


「あれには俺も驚いた。俺なんて最初は目の前にいても気付けなかったからな。正直、力を発露されるまでただの人間にしか見えてなかったよ」


「ドラゴンが不意打ちを好む種族じゃなかったのが、不幸中の幸いですね」


「まったくだな。ってわけでそんなドラゴンを相手に、人間の持っている物差しで考えるだけもう時間の無駄だろ? 場所についてはドラグレリアを信じて待つとしよう」


 この際、考えても無駄なことを考えるのはやめるべきだ。

 戦いに適した場所を用意してくれると言ったんだから、そこはもう信じるしかない。

 なにせプライドの高いドラゴンの姫なのだ。

 約束した以上は約束をたがえることはないはずだ。


「了解しました……それとなんですけど、皇竜姫ドラグレリアは場所の当てはあるけど準備に少し手間どる、みたいなことを言ってましたよね?」


「言ってたな」


「あれはどういう意味なんでしょうか? 戦いが有利に進むように、なにか策を用意してくるとか?」

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