第52話 交渉
「もしそうであるならば、
「つまり今度は俺に譲歩しろってか?」
「
「当然だろ」
「だったらなおのこと、腕相撲という遊びに少々付き合うくらいはたいしたことではないと思うがのう? 本気の殺し合いはまた後日、然るべき場所で思う存分しようではないか」
「……」
「さぁさぁ、腕相撲とやらで
ドラグレリアにとっては自分の気分を満たしてくれさえすれば、腕相撲でも殺し合いでも本当にどっちでもいいんだろう。
となればもはや、俺の取りうる選択肢は1つしかないのだった。
「……分かった。腕相撲で相手をしてやる。だがそれ以上は無しだ。それだけは絶対に約束してくれ」
「よいよい、今日のところは腕相撲だけで構わぬのじゃよ」
「今日のところは、な」
こうなったらもう先のことは考えても仕方がないか。
最悪の事態をまずは先延ばしできただけでも良しとしよう。
そんな風に、ドラグレリアとなんとか交渉を続けていると。
「ええっと、ドラグレリアさんが飛び入り参加ってことでいいのかな……? えっと、参加の人は力量を見極めるためにまず最初に僕と対戦することになってるんだけど――」
受付の生徒がおそるおそる口を挟んできた。
俺が最初にランクを決めるために腕試しの対戦をした生徒だ。
けど今はちょっと口を挟んで欲しくなかったかなぁ。
さっきリエナに使ってもらった『メンタルアッパー』のおかげで、ドラグレリアから受ける恐怖心は大きく軽減されている。
だから本来なら俺以外の人間はドラゴンの放つ凶悪なプレッシャーで金縛りにあっていてもおかしくないはずなのに、動けてしまうのだ。
そして動ける以上は自分の役目を律義に果たそうとするその姿は、勤勉な日本人らしい美徳をまさに体現していたんだけど。
この場面ではもうちょっとだけ空気を読んで欲しかったぞ。
「まぁまぁ、今はそういう話はちょっとだけ置いておきませんか先輩――」
俺は場を取りなそうとしたんだけど、
「ああっ?
案の定イラつき具合マックスな不機嫌顔と声になったドラグレリアは、受付の生徒の首を右手で掴むと軽々と持ち上げやがった。
65kgぐらいはあるだろう、運動部のそれなりに体格のいい生徒の足が、完全に宙に浮いてしまっている。
「うっ、あぐ――」
「ドラグレリア、その手を放せ、すぐにだ!」
俺はドラグレリアの手首を即座に掴むと強引に引き下ろす。
「大丈夫だったか?」
「けほっ、こほっ、ああ……うん。短い時間だったからたいしたことはなかったよ」
「ならよかった。あとドラグレリア、お前もいきなり力に訴えるような真似はやめろ。何度も言うがここは平和な学校なんだ」
「ふん、こやつが
ああもう、価値観がマジで違い過ぎて会話が通じるようでイマイチ通じねぇ……!
「でもこれでドラグレリアが異常な怪力持ちだってのは分かっただろ? ってわけで申し訳ないんだけど、今からちょっとだけ腕相撲で対戦させてもらうな?」
「あ、ああうん。分かった」
ふぅ、とりあえずは事なきをえたか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます