第51話 勇者と竜
ドラグレリアが無茶なことはしないと一応のところは約束してくれたことに、俺が少しだけホッとしていると。
「さようなことより勇者シュウヘイ=オダよ。何ゆえ先ほどの腕相撲とやら、『本気』でやらなかったのじゃ?」
ドラグレリアが突然そんなことを聞いてきた。
「なに言ってんだ、本気でやってたっつーの。見てなかったのか? ギリギリの大ピンチからの渾身の一発大逆転劇だっただろ」
おかげで右腕の筋肉はまだへとへとだ。
「そのようなことは聞いておらぬ。何ゆえ『勇者の力』をなぜ使わなんだのかと聞いておるのじゃ。お主が『本気』を出せばあの程度の相手、圧倒するのはたやすいじゃろうて」
「あのな、ここは平和な日本の学校なんだ。こんなところで勇者の力なんて使わないっての」
あとここは俺が普段通っている学校なんで、勇者とかそういう単語を出すのはもうちょっとだけ遠慮してもらえませんかね?
知り合いに見られたら面倒なことになるんだけど?
「突発の創作劇」と「織田勇者」で押し通すにしても、物には限度ってもんがあるからな?
「ふむ。では今から
「なにがどう『では』なんだよ? ドラゴン様の高度な言語展開はちょっと意味が分かんないんだが?」
「せっかく祭に来ておるのじゃからの。
「まさか腕相撲でか?」
「うむ。勇者シュウヘイ=オダとの純粋なる力比べ、実に興が乗るではないか」
「いやぁどうだろう……? 意外とそうでもないんじゃないか?」
俺のさりげない一言は、しかし。
「なにせこの世界で
ドラグレリアにまったく興味ない様子でスルーされた。
もう、やだなぁ。
こんなことなら腕相撲チャレンジに参加しなきゃ良かったよ。
などと後悔してももちろん後の祭りだ。
……はぁ。
「もし俺が断ると言ったら?」
「それは許さぬ。
「まぁ、そういうことみたいだな」
「しかしだからと言って、
まるで暗がりにいる猫のようにドラグレリアの瞳が妖しく煌めく。
それと同時に凶悪な気配がさらに増し始めた。
くそっ、まだここから凶悪さを増していくのかよ?
本気でヤバい相手だぞ、こいつ。
下手したら皇竜ドラグローエンよりも強いんじゃないか?
「リエナ、周囲の人間の恐怖心を低減させる神術があっただろ。すぐに使ってくれ」
俺が小声でリエナに指示を飛ばすと、
「分かりました。いと尊きアテナイよ、
頷いたリエナが『メンタルアッパー』と呼ばれる精神攻撃への耐性を強化する神術を、即座に広範囲に発動した。
さすがリエナは頼りになるな。
後はドラグレリアの意識を俺にさえ向けさせ続けていれば、凶悪な気配の余波による狂乱の伝播はある程度は抑えられるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます