第34話 ケーキセット無料券の行方
「もう勇者様ってば、それじゃ意味がないんですよ。全力でやってる勇者様が、予期せぬところでころっと負けちゃったらどうなるのかなってことなんですから」
「それはありえないな」
「ふふっ、ですよね♪ 勇者様の強さは、一緒に戦った私が誰よりもよく知っていますから」
そう言ったリエナはとても誇らしそうな顔をしていた。
俺のことをこんなにも誇らしく思ってくれるリエナに、俺はなんとも嬉しい気持ちにさせられてしまう。
その嬉しい気持ちにお返しするように、俺はリエナの頭をポンポンと優しく撫でてあげた。
「えへへー」
頭を撫でられたリエナは目を細めながらくすぐったそうに微笑んだ。
しばらく幸せそうな顔でナデナデをされた後、
「話はガラッと変わるんですけど、こんなにたくさん無料券を貰ってどうするんですか?」
俺が貰った無料券の束にリエナが視線を向けた。
「有効期限は当分先だったから、使い切れなくはないと思うぞ? 学校帰りにも寄れる場所だし。なんならケーキセット全メニュー制覇とかに挑戦してみようぜ」
「あはっ、いいですね。すごく楽しそうです♪」
「……っと、そんなこと言ってたら、ちょうどいいところにちょうどいい相手がいたな」
俺は偶然さっきのカレシ君を発見した。
例のカノジョさんと仲睦まじく手をつないで回っているところを見ると、無事に仲直りできたみたいだな。
よかったよかった。
俺はそんなカレシ君に近づくと話しかけた。
「よ、さっきぶりだな。カノジョと仲直りできたみたいで良かったよ」
「ああ、君はさっきの! おかげさまでね」
俺の顔を見た途端、ピュアな顔ではにかむカレシ君。
「約束した通りカタキは取ってきたぞ。ほら、これが証拠だ」
俺がニヤリと笑いながら大量のケーキセット無料券を見せると、カレシ君は驚いた顔を見せる。
「こんなにたくさん……! すごいんだね、君は」
「こう見えて輪投げは得意なんだ」
「これはもう得意ってレベルを超えているような……」
「まぁ俺のことはいいじゃないか。それより、はいどうぞ。これは俺からのプレゼントだ。カノジョと一緒に行ってきたらどうだ?」
俺は大量のケーキセット無料券から2枚を抜いてカレシ君に手渡そうとする。
「いやいや、いいよいいよ。そこまでしてもらうのは気が引けるし。そもそもこれは君が取ったものだろう?」
しかしカレシ君は手を胸の前で左右に振って、それをすぐには受け取ろうとしない。
「遠慮すんなって。こんなにたくさんあるんだぞ? 俺としてはむしろ貰ってくれたほうが嬉しいくらいで」
「そうですよ、きっとこれも何かの縁です。遠慮せずに貰ってくださいな♪」
「けど……」
「さっきだってリエナと使い切れるかなって話をしてたところなんだ。な、リエナ?」
「はい。ねっ、カノジョさんだってそう思いますよね?」
「あ、はい」
俺だけじゃなくてリエナとカノジョさんにまで言われてしまったカレシ君は、
「そうまで言ってくれるなら、ありがたく使わせてもらうよ。親切にしてくれて、ありがとう!」
ケーキセット無料券を両手で大事に受け取りながら、大きく頭を下げた。
「ははっ、いいってことよ。じゃあリエナ、俺たちは行こうか。これ以上、文化祭デートをしている2人の邪魔をするのは気が引けるからな」
「ですね♪ 私たちは退散しましょう♪」
お邪魔虫な俺とリエナはすぐにその場を退散した。
「本当に色々とありがとう!」
カレシ君の感謝の言葉を背中越しに受けながら――。
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