第20話 智哉の極秘ミッション(2)

「へへっ、ありがと。実は最近はずっともうこれにかかりっきりでさ。特に頭部は納得いかなくて何度も作り直したんだ」


 頭部をカポっと外して素顔を晒した智哉が、お気に入りのオモチャを紹介する男の子みたいに誇らしげな顔で言った。


「その成果は間違いなく出てるぞ」

「ですね!」


「ちなみにあごの所にレバーが仕込んであって、こうやってレバーを動かすとモノアイが左右に動くんだ。って言ってもちょっとだけどな」


「動くだけですごいだろ」

「ほんと凝ってますよね」


「しかもだ! 実際にパーフェクトグレードのプラモを買ってきて、細かいところまで見比べて再現してるんだぜ? 寝る前に作業進めるかって思って作り始めて、気付いたら朝だったりしてさ。おかげで未消化の今期アニメがレコーダーに溜まりに溜まってるから、これからしばらくはそっちに全集中しないとだよ」


 実にアニオタらしい悩みを言いながら笑う智哉。


 チラリと本棚に視線を向けると――智哉はプラモデルは作らないはずなのに――そこには1体の大きなシ〇ア専用ザ〇が、両手でマシンガンを構えるカッコいいポーズで飾ってあった。


「本当はさ、冬コミデビュー用にって思ってたんだけど。修平に言われて文化祭に間に合うように気合入れて頑張ってみて良かったよ」


「そっか、うん」


「期間が短かったから無理かなって思ってたんだけど、逆にすごいやる気が出てさ。ありがとな修平」


「なに言ってんだよ。俺は軽く提案しただけで、その後は全部智哉が一人でやり遂げたんじゃないか」


「そうですよ、ここは智哉さんが一人で誇っていいところです!」


「修平、リエナさん……」


「文化祭当日は楽しみにしてるからな? このコスプレで客引きしたら、お父さん世代はもうついてこずにはいられないぞ? クラス出し物のホットケーキ喫茶店もすぐに完売するだろうな」


「おうよ、当日は任せとけ! これなら顔を晒さなくていいし視線も合わせなくていいから、人前に出ても割と気楽にいられるだろうし」


「なるほど、そこまで考えてたのか。用意周到だな」


「人の目を見て話すのが苦手な自分のことは、自分が一番よく分かってるからさ」


 そんな智哉の気持ちが、かつて同じく陰キャだった俺にはどうしようもなく分かってしまう。

 俺もずっと人の目を見て話すのが苦手で、視線が合ってしまうとそれだけでキョドってしまうことが多かったから。


 そしてだからこそ、俺はこの提案を智哉にしたわけなんだけど。


 俺はある日突然、異世界『オーフェルマウス』に召喚されて勇者になったことで、変わることができた。

 『オーフェルマウス』では魔王の脅威にみんなが苦しんでいて、勇者適性が極めて高い俺に最後の望みを託していた。


 だから変わらざるを得なかった。

 リエナたちを守るために、俺は陰キャを辞めてみんなの求める最強の勇者にならざるを得なかった。


 でも変わって良かったって思っているんだ。


 智哉だって別に社会や人間が嫌いなわけじゃない。

 俺以外の友達が増えたらいいなと思ってるし、可愛い彼女が欲しいとも思ってるんだ。


 でも自分に自信がなくて、自分を否定されるのが怖くて、最初の一歩が踏み出せないだけなんだ。

 かつての俺がそうだったように。


 だから今回の件を切っ掛けに智哉も少し変われたらいいなと。

 俺は変わることができた先輩として、文化祭にかこつけて少しだけ智哉にお節介をしたのだった。

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