第12話 リエナ、初めてのコーラにビックリ仰天する。

 始業式やホームルームを終えて、放課後にクラスメイト達から質問攻めにあっていたリエナをキリのいいところで救出してからの帰り道。


 俺は自動販売機でコーラ2本購入した。

 リエナにボタンを押してみるように言うと、


「わわっ、ボタンを押したら勝手に商品が出てきましたよ!? これは中に人が入っているってことですか!?」


 俺の予想通り、初めての自動販売機にリエナは興奮しきりだ。


「これは自動販売機って言って、人の代わりに機械が売買をやってくれるんだ」


「そ、そんなことが……!?」


「この世界は女神アテナイの加護やスキルがない代わりに、こうやって科学技術が発達していて、人の代わりに機械が色んなことをやってくれるんだよ」


「にわかには信じられませんが、こんな凄いものを見せられたら信じないわけにはいきませんね……!」


 自動販売機をして「こんな凄いもの」と言って鼻息を荒くしちゃうリエナは、とても微笑ましかった。


「人間の考え方や善悪のルールは割と近いから、後はそこだけ頭の中でそういうもんだと書き換えてくれたら、多分割と楽にこの世界にもなじめると思うぞ」


「色々と教えてくれてありがとうございます勇者様」


「俺も向こうに行った時はリエナに色々と教えてもらったからな。そのお礼だよ。これで貸し借りなしだな」


「ふふっ、そんなこともありましたね」


「じゃあこの世界の大まかなことを理解したうえで、早速コーラを飲んでみな? この世界で、水以外で一番飲まれてる飲み物だからな。多分ビックリするぞ?」


「はい、では頂きますね……!」


 リエナが神妙な顔でペットボトルを開けるとえいやと気合を入れて一口、口に入れた。


「ふわっ!? なんですかこれ!? 甘くて、すごくシュワシュワしていて、尋常ならざるほどに美味しいです!」


 そしてこれまた俺の予想通りにビックリ仰天してくれる。

 

「だろ? 『オーフェルマウス』にはビールはあったけど、ノンアルコールの炭酸飲料がなかったからな。俺も5年ぶりに飲んで美味しさを実感してるところだし」


「本当に美味しいです! 癖になっちゃいそうです!」


 ビールは一度だけ興味本位でちょろっと飲んでみたら死ぬほど苦くて泣きそうになったので、それ以降一度も飲むことはなかった。


 だから実に5年ぶりとなる恋い焦れた炭酸飲料ののど越しは実に爽快で。

 平和な日本に戻ってきたんだと俺は改めて実感したのだった。


 そんな始業式の帰り道は、9月の昼間ということもあって日差しはまだまだ強烈だ。


 しかし勇者スキル『絶対定温管理マ・リネラ』によって俺の体温は適切な温度で保たれるため、「少し暑いかな?」くらいにしか感じていなかった。


 これは『オーフェルマウス』では、「炎の魔精」や「氷結の魔獣」なんかと戦うための必須の防御スキルだったんだけど。

 この世界ではただひたすらに快適に過ごすためだけのスキルになってくれている。


「いいのかな俺。こんな無敵スキルを本当にこの世界に持ち込んじゃって」


「いいんじゃないでしょうか。なにせ勇者様は『オーフェルマウス』を救った勇者なんですから。偉大なる女神アテナイからの、世界救済のご褒美ですよ、きっと」


「お、さすがリエナ。いいこと言うじゃないか。勇者に神託を与える神官がそう言うんだから、ここはありがたく使わせてもらうとするか」

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