第3話 現状確認

「わわっ、勇者スキルもそっくりそのままこちらの世界でも使えるんですね! ということはこの世界に来ても、女神アテナイの加護はちゃんと繋がっているんですね」


 異世界『オーフェルマウス』での俺は女神アテナイから強力な加護を授かり、それを様々な勇者スキルとして使用することができた。


 『女神の祝福ゴッデス・ブレス』はその中でも最強のスキルで。

 身体能力を大幅に底上げするとともに、強大な聖なる力を使えるようになる、言わば勇者の力そのものと言ってもいい戦闘用のスキルだ。


 そして女神アテナイに与えられた勇者の力は、元の世界に戻ってきた今も使えるようだった。


 おそらくリエナも同じように神術を使えることだろう。


「でもこれって現実世界に異世界のスキルを持ち込む――いわゆるチートってやつだよな?」


 しかも俺の場合は世界を救った勇者の力という、文字通り最強のスキルだ。


 100メートルをわずか5秒で駆け、軽く20メートルを跳び、巨大な岩をワンパンで粉々に粉砕するその力は、チートの中でも最上級なのは間違いない。


「そうなりますね。女神アテナイの加護が薄いせいか少し神術の発動と効果が鈍い気はしますけど、私もほぼ問題なく神術が使えますし」


 リエナが光を発生させたり風を起こしたりと簡単な神術をいくつか適当に使ってみながら、その使用感を確かめている。


「そうか? 俺は特に性能が落ちてるとかそういう風には感じないんだけどな?」


 俺としてはスキルを使用した感覚は、異世界『オーフェルマウス』にいた時と全く同じだ。


「そこはやはり勇者様が特別なんでしょう。なにせ勇者様は、史上最も強く女神アテナイの加護を受けられる伝説級の人間なんですから」


 ちなみに俺が異世界召喚されたのもそれが理由だった。

 現地の人間より、女神アテナイとは縁もゆかりもない異世界の俺の方が勇者としての適正値が高いってのも、ちょっと不思議な感じだけど。


 まあその話は全て終わった今となっては今さらだな。


「それでもさすがに聖剣『ストレルカ』まではついてこなかったみたいだけどな」


 5年に渡って共に激闘を潜り抜けた俺の愛剣は、向こうの世界にいた時はたとえ手を放していても常に俺と繋がっている不思議な感覚があった。

 だけど今はもうその強大な存在感を、俺はほんの少しも感じることができないでいた。


「それは仕方ありませんよ。聖剣『ストレルカ』は女神アテナイの神力をそのまま分け与えられたと言い伝えられる、まさに神の力そのものなんですから」


「まぁ聖剣を持ってこれたとしても銃刀法違反とかで捕まるだけだしな。この世界には聖剣が必要になる強大な魔王がいるわけでもないし、いらないっちゃいらないか」


 魔王を倒すための聖剣とか、日本じゃ宝の持ち腐れもいいところだ。

 あれはこの先また現れるであろう、新しい神託の勇者に受け継いでもらおう。


「えっ、この世界では勇者様が聖剣を持っていても捕まるんですか?」


 そして俺が気にも留めなかったところに反応するリエナ。


「ああうん、残念ながら俺はこの世界じゃ勇者じゃなくてただの平凡な高校生なんだよ。リエナもそのつもりでいてくれな」


「分かりました」


「ついでに日本――えっと今いる国じゃ、武器を正当な理由なく所持するのは禁止なんだ。料理に使う包丁ですら、特に理由持ち歩くと逮捕されるくらいで」


「そう言えば転移する前はとても治安がいい国に住んでいたと言っておられたような……本当に平和な国なんですね。ビックリです」


「ま、異世界で5年も勇者として戦ったんだ。こっちの世界ではちょっとくらい楽させてもらっても罰は当たらないよな」


「ですね♪」


 ――と、


「修平、いつまで寝てるの。今日から2学期でしょ。そろそろ起きないと始業式から遅刻するわよ」


 とても懐かしい声がしたかと思うと。


 ガチャリ。

 ノックもなしに母さんが部屋のドアを開けて入ってこようとした――!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る