第4話 母さんとの想定外な5年ぶりの再会→JKリエナ爆誕

 ちょっと待ってくれ母さん!

 今リエナが一緒にいるんだけど?


「修平、まだ寝てるの? 今日から学校なんだから早く起きなさい」


(リエナ隠れろ! 緊急事態だ! 今すぐに!)

 俺は小声でリエナに火急の指示を飛ばした!


(ですが急に隠れろと言われましても、この狭い部屋でいったいどこに……)

(くっ、それは……!)


 とかなんとかやっている内に、リエナがなぜか足を滑らせて俺の腰当たりにすってんころりんとタックルを敢行。

 俺とリエナは2人して、もつれ合うようにベッドに倒れ込んでしまった。


(おいリエナ何してんだ? なんで何もないところでなんでこける?)

(すみません! なぜだか足が滑ってしまいまして……)


 そしてちょうどリエナとくんずほぐれつ抱き合うようにベッドに倒れ込んだところで、部屋のドアが開き終わって母さんが顔を出した。


 5年前と変わらない優しい母さんの姿を見て、普通なら込み上げてくるものがあったんだろうけど――。


「えっとあの、母さん、この子はその……な?」


 俺は必死にこの状況を言い訳しようと脳をフル回転させていたので、とてもそれどころじゃなかった。


 なにせ今の俺を客観的に評するならば。


 神官服のコスプレをした見知らぬ外国人女性を、夜の間に自分の部屋に連れ込んだあげく。

 今なおベッドで濃厚に絡み合っているという、のっぴきならない状況だったのだから。


 な、なにか言い訳を――って言っても、この状況にどんな言い訳があるって言うんだよ?


 くっ!

 母さんと再会したらまず何よりも最初に『ただいま』を言おうと、この5年ずっと思ってたってのに。

 もはやそれどころじゃない。


 ――なんてことをピンチの中でも冷静に考えられるくらい、メンタルの成長を実感しつつ。


「修平、あんた……」

「いやだからその……これには理由があってだな……」


 俺は日本に帰還して早々、絶体絶命のピンチを迎えてしまったんだけど――、


「リエナちゃんは可愛い上に修平のことを好きだからって、朝っぱらから何をやっているのよ。両想いでもまだ高校生なんだからちゃんと節度を持ちなさいって、昨日言ったわよね?」


 母さんの言葉に、俺は驚きの余りついポカーンと口を開けてしまった。


「……は? ……え? いや、え? 母さんはリエナのことを知ってるのか?」


「なに言ってるの。知ってるも何も、リエナちゃんが留学生としてうちにホームステイすることになったんでしょ」


「留学生……? ホームステイ……?」


 リエナが?

 うちに?


「しかもリエナちゃんは偶然にもあんたの5年前からの知り合いだって言うじゃない。子供の頃に修平が助けてあげて、それ以来『勇者様』って呼ばれているでしょう?」


「え、いや……」


「ホームステイ先がずっとやり取りを続けていた相手の家だったなんて、こんな偶然もあるのねって、昨日の晩ご飯の時に話したばっかりじゃない。やだもう、あんたってばまだ寝ぼけてるの?」


「あ、えっと……」


 なんだ?

 一体全体どういうことだ?


「ほらほら、いいから早く顔を洗ってきなさいな。朝ご飯はできてるから早く食べてリエナちゃんを学校に連れて行きなさい。念のため言っておくけど、自分の教室じゃなくてちゃんと職員室に連れて行くのよ?」


「あ、ああ……」


「リエナちゃんも朝っぱらから年頃の娘をベッドに連れ込もうとするようなバカ息子の相手なんかしてないで、早く自分の部屋に戻って制服に着替えて、高校に通う準備をしてね」


「ありがとうございますお義母かあさま。すぐに用意しますので」


 察しのいいリエナはこの状況を一発で理解したのか、笑顔で話に乗っかった。


 さすがリエナ、伊達に天才とは言われてないな。

 さらっと「お母さま」とか言ってるし。


「リエナちゃんはほんと丁寧ねぇ。日本語も上手だし。それに引き換え――っていうかあんた、昨日より一回り大きくなってない? やけに筋肉質っていうか……」


「あー、えっと。実は夏休みの間はずっと毎日筋トレをしていたんだ。だからその成果が出たんじゃないかな? 結構いい感じだろ?」


 不審な目を向けてくる母さんに、俺はとっさに思い付いた苦しい言い訳をした。


「ええっ? 昨日の夜まではそんなじゃなかった気がするんだけど。あとえらくハキハキとしゃべるようになったわね?」


 ああそうか。

 そういや異世界に行く前の俺は、家族に対しても陰キャ気味だったんだっけか。


「ああもうほら母さん、学校に遅れるからその話は今はいいだろ? リエナは俺より準備に時間がかかるだろうしさ」


「うーん、男の子ってこんなにすぐ変わるのねぇ……」


 俺に言われて不思議そうに首を傾げながらも、部屋を出ていく母さんの後ろ姿を見て、とりあえず俺はほっと一安心、胸をなでおろした。


 なんかもう、この場を誤魔化すのと状況理解をするのに必死で、元の世界に帰ってきたことや母さんとの再会を実感する間すらなかったな……。

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