第64話 ピクニック
「あーあ、何で千里っちが居るのよ!」
自宅の最寄り駅から三駅郊外に移動し、着いた駅から比較的近くにある大きな公園。レジャーシートに座って花蓮はサンドイッチを小さくかじり、迷惑気に千里に視線を送る。
「聞こえてますけど、花蓮さん」
三人は大きなレジャーシートに座り、千里の手作り弁当を囲んで芝生のど真ん中で遅めの昼食を摂る。
千里は俺と花蓮に近くのコンビニで買ったお茶のペットボトルを手渡した。
「聞こえるように言ってるのっ!」
「だいたい作が私と出掛けるって先に約束したのに……」
「誰も二人でとは言って無いだろ?」
俺が言い終わる前から花蓮は俺をキッと睨んだ。
可愛い少女に睨まれただけで凍り付く俺の体、確かに花蓮の強引さに負けて出掛ける約束はしたけど……。強引? いや、違う……色仕掛けに負けたんだ、俺は。
ハッキリ言って可愛かった、俺を誘って来た花蓮は。
幼馴染みのくせに腕を上げやがって、完全に誘惑に負けた俺は奴隷の如く従順に従ってしまっただけだ。
「千里っちも少しは遠慮しなさいよね! いつも作を独占してるんだから」
「独占なんてして無いですよ? 作クンは色んな女の子と遊びまくってますから……」
おおきなタッパーから千里は自分が作ったエッグサンドを取り出して指についた卵をペロっと舐める。
「何それ?」
「そのままの意味ですけど」
千里は花蓮と視線を合わせるとチラリと俺を見た。
「いや、千里……さん? その言い方には語弊があるかと……」
俺は口を半開きにして冷ややかに笑う。
「ホントじゃないですか! 私に花蓮さん、レオナさんに一ノ瀬さん、あと……いいんちょさんも」
千里は空を見上げて指折り数えた。
「何だよそれ? 遊びまくってるって女子と話しただけでそういう扱いになるのかよ?」
「確かに……作は加奈子っちにも可愛いって連呼してたし……仁科坂さんにもいやらしい視線送ってたっけ……」
いや、花蓮……俺の話聞いてた?
「何ですか? 連呼って、初耳ですけど」
「千里? このサンドイッチの赤いやつ、何挟んだんだ?」
「作クン、可愛いって連呼したってホントですか?」
だめだ、話を脱線させられない。
俺は赤いものが挟まったサンドイッチを取り出して話を無視してかぶり付く。
「何だこれ? 何の味だろう?」
「唐辛子です。丁度良かった! いっぱい入れた甲斐がありました! 作クンはロシアンサンドで反省してくださいね?」
「辛っ‼ お茶! お茶!」
俺は立ち上がって一気にお茶のペットボトルを飲み干した。辛さで耳の中まで痛くなる、何考えてんだよ千里は!
「怖っわ! アンタ何考えてんのよ?」
花蓮は若干引いた顔つきで千里を見ている。
「面白そうだから作ってみたんです、花蓮さんも食べたかったですか?」
「そんなの食べる訳無いじゃない! 千里っちって前から思ってたけどドSでしょ?」
「そんな……普通ですよ、普通」
花蓮はいきなり大笑いした。そんな花蓮を千里は意味が分からないと言った感じで怪訝な顔で見つめている。
「なんか安心した! 作が千里っちにいつもちょっかい出してるのかと心配してたけど、こんな関係なら絶対に無いよね?」
解ってくれるのか、花蓮! 俺はいつも千里とレオナに攻められ続けているだけなんだから!
「だから最初に言ったじゃないですか! 私たちは健全な関係で過ごしてるって」
「そういえば言ってたっけ? その後私にビンタしたけど!」
「それはっ……! ご、ごめんなさい、今更ですけど本当に……。花蓮さん、今私をビンタしてください!」
千里は頭を下げて目をギュッと瞑った。
「あのね……千里っち、今更そんな……」
花蓮は千里の額を人差し指で軽く弾いた。
「……っ! 痛く……無い……?」
片目を開けた千里は自分の額を撫でた。
「それでおあいこ、これからは作のこと譲らないから!」
花蓮はニヤリと笑って千里を牽制する。
「私だって譲りませんよ!」
千里も微笑みを返す、目は笑っていないが。
二人は同時に俺を眺めて片手を差し出した。
俺は何となく差し出された手を掴むと二人は立ち上がって俺を引っ張り回す。
キャーキャー言いながら二人は左右から俺の腕を引っ張り、腕が脱臼しそうになる。
「いっそのこと半分こにしちゃう?」
「しちゃいましょうか?」
二人は笑いながら、また俺の腕を引っ張り合った。
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