画面の向こうじゃない所に

月之影心

画面の向こうじゃない所に

 最近のパソコンは起動も早いしネットに繋がるのも早いよね。

 ほんの10年程前だと、割とハイスペックなパソコンでも起動に2~3分、ネットに繋がるのはその1分後とかだったのに、今じゃ電源入れてネットに繋がるまで30秒とかザラにある。


 俺が組み立てたパソコンも当時としてはかなりスペック高めのマシンに組み上げていたんだけど、それでもネット接続出来るまで3分近くは掛かったかな。

 まぁ、さらに昔のパソコンだともっと時間掛かってたからそれに比べたら随分マシだよね。


 と言いつつ、そんなに高速起動させて何するんだって言われれば、ただのネットゲームなんだけど。








「さぁて、今日も頑張りましょうかねぇ。」


 俺、神楽かぐら優弥ゆうやは社会人3年生の25歳サラリーマン。

 特に目標も持たずに大学を出て、地元の小さな会社に就職した。

 給料は安いけど仕事はそれほどキツくもなく、残業も友人周りから聞くよりも随分少なくて休みも適度に取れる、今で言えば割とホワイトな会社だと思う。


 今日も仕事から帰ってきてすぐにまずパソコンの電源を入れる。

 本体から『カリカリカリ』というハードディスクの動く音と『ヒュィーン』という冷却ファンの回る音がして、バイオスの『ピッ』というチェック音を聞いてから鞄を置いて着替える。

 毎日のルーティーンだ。


 椅子に座っていつもやっているゲームの画面を開くと、暫くして自分の分身であるキャラクターが画面の中に舞い降りる。


 と、そこには既に1人の女性キャラが座って待っていて、チャットウィンドウには『お疲れ様』と文字が打たれていた。


「『お疲れさん』っと。」


 この女性キャラはゲームを始めた初期の頃に出会って以来、ずっと行動を共にしている子で、キャラクターの名前は『ヒナ』。

 俺が1ヶ月くらい遊んだ後に始めたらしく、うろちょろしていた所に声を掛けて色々手伝った事から親しくなり、今では毎日のように一緒に遊んでいる。


 と言っても、俺もヒナもレベルは上限まできていて、今では新たに実装されたクエストや定期的に開催されるイベント以外は街の一角にある建物の中でチャットおしゃべりに興じているだけになっていた。


 いや、寧ろ俺にとってはヒナとこうして他愛の無い会話をする事の方が楽しくなってきている節があり、ヒナに会う為にゲームにログインしていると言っても良い程だった。


「いつも早いね。」

『えへへ。うち残業ないからね~。』

「いい会社じゃん。」

『そうでもないよ~。残業無い分休み少ないし。』

「でもその分こうして毎日のように会えるのは嬉しい。」

『あはは。そう思ってくれると私も嬉しい。』


 画面にいるキャラクター同士がしている会話のように見えて、その中身はもう付き合い始めの恋人の様なやり取りだな、と何だか気恥ずかしくなってしまう。


 実際、俺はヒナに……いや、ヒナの向こう側にいる子が好きになっていた。

 勿論、キャラクターへの感情移入もあったかもしれない。

 だがこうして毎日のように色々な話をし、『ヒナ』がどんな事を考えているのか、何を思っているのかを考えている内に、キャラクターではなく画面の向こうに居てヒナを操作している『人』に好意を持つようになっていた。


 何度か直接やり取りがしたいと、電話番号やメールアドレスの交換を言ってみたが、毎回答えは『NO』だった。

 やはり所詮はゲームの中のキャラクター同士の交流……キャラクターと操作している人は別人格なのかと落ち込んだ時もあった。


『巧くんとはここで毎日でも会えるんだから。』


 ヒナはそう言っていた。

 確かにその通りだ。

 それでも、ゲーム以上の繋がりを求めてしまうのはネットゲームをやった事のある人なら分かって貰えるのではないだろうか。

 因みに『巧くん』とはゲーム内の俺のキャラクターの名前だ。


 そんな沸々とした思いを抱えたまま毎日ヒナとお喋りを楽しみ、そして日が変わって暫くしてログアウトする日が続いていた。








「おはよぉ!」

「んぁ?」

「何まだ寝てたの?もう朝の9時だよぉ!」

「休みの日くらいゆっくりさせろ。」

「どうせまた遅くまでゲームでもやってたんでしょ?」

「休みの前の日に夜更かししたっていいだろ。」

「はいはい。いいから起きて着替える。」


 貴重な休日の朝、無遠慮に部屋に入ってきて俺を起こすのは隣の家に住む幼馴染のひいらぎ瑠奈るな

 赤毛混じりのショートボブに大きな二重の目と長い睫毛、小振りな鼻と口角の上がった口、モデルばり……とまでは言わないがなかなかのスタイルの持ち主で、まぁ一言で言ってしまえば美人だ。

 身近にこんな美人が居れば何の不満も無いだろうと言われるが、その想いを伝える為には付き合いが長く身近過ぎた。

 正直言うと幾度か告白しようと思った事もあったが、その関係故に言葉にする機会を全て逸していて、今では兄妹のような付き合いになってしまっていた。


「ドタバタうるせぇな。何だってんだよ?」

「何言ってんのよ。今日買い物行く約束だったでしょぉ?」


 そうだった。

 数日前に次の休みの予定を訊かれて『何もない』と答えたら『買い物行こう』と誘われていたんだった。


「すまん……忘れてた……すぐ着替えるわ。」

「うんうん。じゃあ下で待ってるね。」


 瑠奈はパタパタと階段を降りて行った。

 俺は重たい体を起こして寝間着にしているスウェットを脱ぐと外出着に着替えて階下へ降りて行った。




「何がいいかなぁ……時期的にいつも冬物になっちゃうよねぇ……」


 一人ぶつぶつと呟きながらあちこちの店を回る瑠奈の後ろを、起きて1時間程しか経っていない俺が必死について行く。


「で、何を買うんだ?」

「それを考えながら見てるんじゃない。」


 それもそうか。


「でもこう……ブルゾン買う、とかスカート買う、とかあるだろ?」

「そういうのも含めて考え中なの。……って優弥、スカート履くの?」

「はぁ?何だそれ?」

「あ……やっぱり分からずについて来てるな?」

「何がだよ?」


 瑠奈は可愛らしく肩を竦めていた。


「今日は何月何日でしょうか?」

「今日?1月の……えっと……○日だろ?あ……」

「分かった?」

「俺の……誕生日……?」

「ぴんぽーん!正解!」

「え?買い物って俺のプレゼント買いに来てんのこれ?」

「そうだよぉ。って毎年来てるでしょぉ?」


 俺と瑠奈は中学生か高校生くらいの頃からお互いの誕生日プレゼントを一緒に買いに行くようにしていた。

 これは瑠奈から『サプライズも嬉しいけどそれより本当に欲しい物を貰った方が嬉しいでしょ?』と提案があり、『それもそうだ』と同意した事から始まった。

 但し、『お互いどちらかに恋人が出来たら終了』という条件もあったのだが、今のところ10年近く毎年一緒に買い物に来ている。


「すまん……完全に頭から消えてたわ。」

「まぁ今回は許そう。で、何が欲しい?」

「ん~……」

「何でもいいんだよ?あんまり高いものは勘弁だけど。」


 正直、欲しい物はあった。

 長時間座っていても疲れないという話題のゲーミングチェアだ。

 しかし俺が欲しいと思ったその椅子は数万円という値段で、瑠奈に買ってくれと言えるような代物ではない。


 結局、瑠奈とショッピングモールを小一時間歩き回って無難に財布を買って貰った。


「はい。誕生日おめでとう!」

「ありがとう。」


 少し早い昼食をとショッピングモールの上にあるレストランに座ってすぐ、瑠奈はさっき買って綺麗に包装された財布を俺に渡してくれた。

 その後は普通に何でもない話をして普通に帰宅した。








 夕食を終えて部屋に戻った俺は、いつもの流れでパソコンを起動してゲーム画面を立ち上げた。


 ログインするといつものようにヒナが一人座って佇んでいた。


「こんばんは。」

『こんばんは!いい誕生日だった?』


 昨晩ログインした時、ヒナは俺の誕生日を覚えていてくれて、日が変わると同時に『誕生日おめでとう!』とログを送ってくれていた。


「うん。買い物行って家でのんびり出来たよ。」

『それは良かったね。何買ったの?』

「あ~……財布だよ。」


 言うものの、実際俺は自分の昼食分を出したくらいで何も買ってはいない。

 瑠奈との誕生日ショッピングの時は、誕生日を迎える側が買い物をする事は無かったから。

 ただ何となく『買ってもらった』と言いたくない自分が居て、それはヒナには俺がリアルで他の女と仲良くしている事を知られたくなかったからかもしれない。


『財布かぁ。財布ってなかなか買い換えないよね?』

「そうだね。大体気に入ったの買ったら長く使うね。」

『その財布も長く使えそう?』

「うん。使いやすそうだし壊れなければずっと使うと思う。」


 画面の中の『ヒナ』が喜びのアクションで応えていた。


『私も5年くらい前に貰ったお財布をずっと使ってるよ。』


 その時俺は、ヒナの『貰った』という言葉が引っ掛かった。

 誰にとも何とも言っていないのに、ヒナが誰かから貰ったというリアルが覗いた事で、多分、嫉妬に近い感情だったように思う。


「へぇ~。貰ったって……もしかして彼氏からとか?」

『彼氏じゃないよ。彼氏じゃないけどずっと仲良くしてる大切な人なんだ。』

「そうなんだ……男の人?」

『そうだよ。ってあぁ?巧くんひょっとしてヤキモチ?』

「そ、そんなのじゃないよ。ちょっと気になっただけ。」


 図星を指されて動揺しつつも『彼氏じゃない』と聞いてホッとすると同時に、彼氏ではなくても大切な人がいると知り、何とも言えないモヤモヤしたものが渦巻くのを感じていた。


『あはっ。でも随分傷んできたけどこのお財布はずっと使うだろうなぁ。』

「大事に使うんだよ。」

『勿論よ。私の宝物なんだから。』


 俺にリアルがあるように、ヒナにもリアルがあって当然なのは分かっているが、そのリアルが垣間見えるたび胸が苦しくなってきていた。


 ヒナに財布を贈ったのはどんな奴なんだろう?

 ヒナはそいつにどういう感情を持っているのだろう?


 (醜い感情だ……)


 そう思いながらも、その日は最後までモヤモヤを解消出来ず、何となく居心地の悪さを感じていつもより早めにおやすみの挨拶をしてログアウトしていた。








 平日はいつものように仕事に行き、帰って来てネットゲームでヒナと話をする、という毎日だった。

 そんな日々を送った次の休日、俺は朝から部屋でパソコン関係の雑誌を眺めていた。


「お邪魔してますよぉ~。」

「うぉっ!?……って瑠奈か……びっくりしたぁ。」

「何度か声掛けたんだけどね。そんなに雑誌面白いの?」

「あ~面白いっていうより最近のパソコンすげぇなぁと思ってスペック見てた。」


 瑠奈は『どれどれ』と俺の方に寄って来て横から雑誌を覗き込んできた。

 いつもは全然気にしていなかったが、その時は妙に瑠奈から漂って来る甘い香りが心地良かった。


「ふぅん。ねぇ、どうせなら街に出てパソコンショップ見て回ろうよ。」

「あ?何でまた?」

「何でって……雑誌で見るより実物を見て触っての方が楽しいじゃん。」

「見て触ったら欲しくなるだろ?即決出来るほど余裕ないわ。」

「別に買う目的じゃなくてもいいでしょ?単に出掛けたついでに立ち寄るみたいなのでもいいと思うよ。」

「何?暇なの?」

「暇だよ?」


 まぁ、瑠奈がそう言って来る時は大体暇潰しの相手をさせられる時だ。


「分かった。じゃあ行くか。」

「うん!」


 瑠奈は嬉しそうな笑顔を見せると、『10分後に家の前で』と言い残して部屋を出て行った。

 俺は出掛ける準備をし、先週瑠奈に貰った新しい財布をセカンドバッグに入れて家を出た。




 瑠奈の家の前へ着くと同時に玄関のドアが開いて瑠奈が出て来るところだった。


「お待たせ。」

「いや、俺も今出てきたとこ。」

「あははっ!何かデートみたいだね!」

「何だそれ?」

「ほら、何処かで待ち合わせとかしてさ。待ち合わせ時間のだいぶ前から待ってたのに後からやってきた方に『今来たとこ』とか言うやつ。」


 瑠奈はそんな事を楽しそうに喋りながら『行こう』と言って歩き出した。


(瑠奈とデート……ねぇ……)


 今一ピンと来ないまま、俺は瑠奈の後ろをついて歩いた。




 パソコンショップに着き、俺が雑誌で見ていた現物を手に取って眺めるたびに、瑠奈は『これは何の部品?』とか『これがいいとどうなるの?』とか、興味津々といった顔で俺に問い掛けてきた。

 その都度、俺は『これは○○のパーツ』『この性能で画面の映りが変わる』とか答えているのだが、瑠奈の興味は尽きる気配もなく、終始楽しそうな表情で俺の説明を聞いていた。


「しっかし瑠奈がこんなものに興味あるとは知らなかった。」

「ん~全然分からないけど優弥が色々教えてくれると分かったような気になって面白いよ。」

「分かったような気だけかよ。」

「でも本当に楽しい。」

「それは良かった。」


 その後も店内をぶらぶらとしながら、瑠奈が質問して俺が答える……というのを続けていたが、お腹が空いて来たので何処かで昼食を摂ってから帰る事にした。




 パソコンショップから少し駅に戻るところにあるファストフード店に入った俺と瑠奈は、一緒に並んでそれぞれメニューから選んでいた。


「あ、優弥。今日は私が払うよ。」

「え?何で?」

「無理矢理引っ張り出した感もあったし、色々教えて貰えたから。」

「いいよそんなの。」

「いいからいいから。」


 そう言って瑠奈は店員の言う金額を聞いてバッグから財布を取り出した。


「随分使い込んでるな。」

「そうでしょぉ。もう5年になるのかなぁ。でもどこも壊れてないしまだまだ使えるよ。」


 俺はふと、以前ネットゲームでヒナが言っていた事を思い出した。




 『5年くらい前に貰った財布をずっと使っている』

 『ずっと仲良くしてる大切な人から貰った』

 『随分傷んできたけどずっと使う』




 (瑠奈と……ヒナ……?)




 財布一つで結び付けるのは尚早だとは思ったが、ヒナと財布の話をした時の印象が強烈に残っていたのもあって、そんな考えが頭に染み付いていた。


「どうしたの?」

「え?あ……いや、何でも……」


 そう言ってトレーに乗せられた2人分の料理を持って空いている席へと向かった。


「それであの時ね……」

「あれは確か……」

「今度行くとしたら……」


 楽しそうに何かを話す瑠奈の顔をじっと見て聞いている振りをしつつ、『瑠奈とヒナ』の事が頭から離れなかった俺には瑠奈の話は全く入って来なかった。


「ねぇ、大丈夫?何かぼーっとしちゃって。」

「あ……ごめん……」

「疲れちゃった?」

「いや、そうじゃないんだ……食べたらちょっと散歩しないか?」

「うん?勿論いいけど……ホント大丈夫なの?」


 俺は味の分からないハンバーガーを口の中に放り込み、強引に咀嚼してコーラで流し込む。

 瑠奈はとっくに食べ終わっていたので、そのまま席を立って2つのトレーを戻して店を出た。




「ちょっとちょっと!どうしたの?何慌ててるのよ?」


 俺は瑠奈の手を握って足早に駅前の公園までやってきた。

 公園の片隅に行くと瑠奈の手を離し、瑠奈の方を向いて顔をじっと見た。


「聞いていい?」

「な、何を?」

「財布。」

「お財布?」


 瑠奈はきょとんとしながらもバッグから使い込んだ財布を取り出した。


「これ?」

「うん。それってアレだよね?」

「うん……これは私の二十歳の誕生日に優弥が買ってくれたお財布だよ。」

「あの時瑠奈は、その財布じゃなくて横にあったもっと安い財布が欲しいって言ってた。」

「うん。」

「でも瑠奈が本当に欲しいって思ったのはその財布の方だって、あの時の瑠奈の目線で分かったからそれを買ったんだ。」

「うん。バレちゃってたなぁって思ったもん。」


 俺は瑠奈の財布を手に取り、傷だらけになっている表面を指で撫でた。


「こんなにボロボロになるまで使わなくてもいいじゃん。」


 瑠奈は俺の手から財布を取り、掌で撫でた。


「このお財布は……ずっと使うって決めてるの……」

「何で?」

「これは……私の宝物だから……」


 ネットゲームで流れて来るログは文字だけだ。

 何の感情も表示されていないただの文字列。

 当然、ログから聞こえてくると感じる声は、俺が勝手に脳内変換していただけ。


 なのに……ヒナが言っていたログが、瑠奈の声で再生されている事に気付いた時、俺は確信していた。




「瑠奈だったのか……」


「え?何が?」


「ヒナ……」


「えっ!?」




 瑠奈は目を真ん丸にして俺の目をじっと見ていた。








 が……








「あはぁ……バレちゃったかぁ。」


「え?」


「やっぱお財布の話をしたのはリスク高かった……ねぇ『巧くん』。」


「うぇっ!?」


「もう!何て顔してるのよっ!」


 瑠奈は狼狽える俺を指差して涙を浮かべながら笑っていた。

 涙を拭ったりお腹を抱えたりしながら一頻り笑った瑠奈は俺に体を寄せて口を開いた。


「最初は本当に知らなかったんだよ。でも色んな話をしてるうちに『ひょっとして』って思い始めて……割と早い段階だったかなぁ……『巧くん』が優弥だって気付いたのは。」

「な、何で?」

「私が始めた頃かな……色々教えてくれる時の口調とか雰囲気とか……優弥そのものだったもの。」

「そ、それだけで?」

「あとは誕生日の話とか。『巧くん』と優弥の誕生日一緒だし、買ったもの……まぁ実際は私のプレゼントだけど……それが一緒だったから。それにしても酷くない?私から貰ったって一言も言わないで自分で買ったみたいな言い方してぇ。」

「そ、それは……悪かった……」

「どうせ『ヒナ』ちゃんとあわよくば……なんて考えてたんでしょ?」

「い、いや……そんな……ことは……」

「何回も電話番号とかメールアドレスとか交換しようって言ってたもんねぇ。」

「うぐっ……」


 瑠奈は俺の胸に額をコツンと当て、腰に腕を回して抱き付いてきた。


「る、瑠奈……?」

「画面の向こうじゃない所に……電話番号もメールアドレスも知ってる子が居るのに……もっと見てよ……」


 少し震えながらそういう瑠奈を、たまらなく愛おしく感じていた。


「『ヒナ』じゃないと……ダメかな?」


 俺は瑠奈の背中に腕を回してぐっと抱き締めた。


「『ヒナ』じゃないとダメなのは『巧』ってヤツで……」

「うん。」

「多分俺は……瑠奈じゃないとダメって言うかな……」

「そっか……」


 駅前なのに誰も居ない公園で、俺と瑠奈は暫く抱き合っていた。




 その晩、瑠奈は俺の部屋に来て、並んで座って色んな話をした。


 パソコンの画面の中では、『巧』と『ヒナ』が同じように並んで座っていた。

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