27 その10 ~マウンテリバー、魔族の侵攻を受ける!…その10~

多分知らないかも…と思いつつも小型馬車チャリオットの横にある家紋を見て貰ったが、案の定というか…その「貴族の家の者」と自称している人物おっさんは知らないという。とぼけてる雰囲気は無く、未だお披露目をしてない影響がこんな所に出ている訳だ。

その後も若干トラブったが何とかマウンテリバーの最外壁に辿り着いたザックたちは修繕作業に入る…とはいえ、ザックは「耐久値再生デュラビリティ・リペアー」で、レムは土属性の「再生魔法リペアー」で壁の修繕を進めていた。そして作業中に追いかけて来た貴族たちが声を掛ける…(そんな暇は無いんだけどなぁ…)と思っているザックたち。だが、僅かなやり取りの間に修繕していない横の壁が爆音と共に吹き飛ぶのだった…(ザック「あ~あ、間に合わなかったかぁ~…」)

━━━━━━━━━━━━━━━


- 吹き飛ぶ最外壁の穴から現れたのは… -


〈GURURURURU…〉


「ひぇえっ!?」


「どっ…ドラゴンっ!?」


腰を抜かすおっさんたち。地面を香ばしい臭いのする液体を垂れ流すおっさんも居たが…(きたないなぁ…)


「あ~あ…こうなる前に何とかしたかったんですけどね?」


と、さぞ自称貴族のおっさんたち(未だに口だけで紋章の1つも見せて貰ってない為)に溜息混じりにわざと聞こえるように呟く。


「ひっ…ひぃぃっ!?」


「なっ…何とかしたまえ!…君は冒険者なんだろうっ!?」


「いーえ?…僕は探索者ですが?」


(最初にランクBの探索者と自己紹介したのに覚えてないのかよ…)


と思わずにはいられないザックだが、まぁ一般人と然して変わりのない下級貴族なんかはこんなものかと思い直す(冒険者からの叩き上げの人なら肝が据わってるだろうが、大した実績もない1代限りの貴族なんかはこんなものだろう…)


〈GURU?〉


ギヌロ…と突入して来たドラゴン(レッドではなく地竜と呼ばれる四足歩行する焦げ茶色の鱗が固くブレスは吐かないが突進力と防御力に優れる飛べないドラゴンで地属性に属する)が、目だけを動かしてこちらを睨む。


「あ、やべ…」


地竜が首から前足まで中に入れていたが、更に中に侵入しようとガラガラと壁の構造材を崩し、撒き散らしながら入って来ようとする!…幸い、この手のドラゴンはブレスは吐かないが…


〈GURURURURU…〉


ごぉぉっ!


息を吸い込み、一気に吐き出す!…唯の吐息だがモノが巨大なドラゴンの吐く吐息だ。大して離れていない人間に吹き飛ばした小石がぶち当たるだけでも最悪死に至る怪我を負うかもしれない…


土操作アースクラフト土壁アースウォール!!」


早口で土属性魔法ブーストと土属性防御魔法を連打する。但し、あくまで生活魔法の範疇であるこの魔法はドラゴンの攻撃は防ぎきれるものでもない。


『急げ!』


『『はい!』』


唯一言命令し、応じる2体の従者ゴーレムレムとナル。シャーリーは上空で周辺監視のお仕事を続けているが…異常があれば報せるだろう!(先程の地竜ドラゴンの突撃を報せなかったのはワザと・・・だがw)


ぼごぉっ!


レムが土魔法の穴を掘るディガホールで自称貴族たちの地面を凹ます。そしていつの間にか現れたナルの部下復興ゴーレム部隊たちが数体現れ、凹んだ地面の外に転がっている人間を抱えて凹んだ地面の底へと集合した。そこへ遅れたレムとナル、そして周囲を確認したザックも滑り降りて来た。


ざざざーーーっ!


「結界!!!」


大慌てでまず1つ結界を張る。内側にも張るつもりなので大雑把に大き目に…凹んだ穴の外側に張り、次に集中して2つ目の結界を張る…と同時に外側に構築した土壁が吹き飛び、続いて1つ目の結界が飛んで来た土壁の破片で


ぱりーん!


と割れて吹き飛ぶ!


「うわぁ、やべぇ…」


だが、2つ目の結界の内側にはレムが強化した土壁を創り出していた(前面だけだが)そして3つ目である結界を内側に張るザック。


ぱりーん!

どごーん!


2つ目の結界も割れ、更に強化された土壁も砕け散る…だが、最後の3つ目の結界で吐息が終わり、破片やら土砂が収まっていた…


「…た、助かったのか?」


中に籠った臭気が気になると清浄化クリーンを行使していたザックに問う声がか細い声で響いてくる。


「さぁ?」


未だドラゴン…地竜は健在だ。ブレスモドキを放っただけで体力を使い果たしたなら助かる道もあるかも知れないがそんなことは微レ存も存在しないだろう!…ましてや魔物の動向なぞ知らないザックはぞんざいに返事をした。


「さぁって…いい加減なっ!」


「そ、そうだ!…責任を取れ!…このような状況を作り出した責任をっ!!」


無責任に喚く恐らくは各貴族の家の者と思われるおっさんたち。貴族の当主と思われるおっさんたちは黙ってこちらを凝視している。あの時に見せた短剣が本物かどうか不明な為、下手な言葉を口に出せないのだろう…本物であれば上位貴族に盾突いた罪で最悪死罪に。偽物であればどうとでも取れる上に貴族として何かした…という訳ではないが貴族と偽って公言することも死罪に値するのだ。お上に訴え引っ立てれば裁かれるのは間違いない上に、悪さを事前に防いだという意味で国に貢献したことになる…など、そんな狸の皮算用を頭に浮かべていた自称貴族のおっさんたちはややニヤケていた。


(…何を考えてるかわからないけど、この場を切り抜けなければ意味は無いのに)


と、おっさんたちの顔を睥睨していたナルはそんな感想を思い浮かべていた。そして、マスターであるザックに危害を加えられては堪らないと、部下たちに目配せをして…静かにおっさんたちを気絶させて回らせていた(怖っ!w)



微妙に静かになった結界内。凹んでいた潜んでいた穴は、今やクレーターとなっていた。徐々にその穴を深くしていき…横穴を掘ってナルの部下たち(最初は数人だったのが、途中から増えてっておっさんたちを全員で担いで移動している状態だ)と一緒に横穴を進んでいる。


「ブレスを吐くタイプじゃなくて助かったなぁ…」


「ですね~」


シャーリーが殿しんがりを務め、先頭を土魔法を扱えるレムが横穴を掘りながら進んでいる。シャーリーは結界を張る直前に急降下して、ギリギリ飛び込んだのだった。


「別に上で待機して貰ってても良かったんだけど…」


ザックがそういうと、


「あ~、ひっどぉ~い!…マスター、私だけ仲間外れするのぉ~?…泣いちゃうよ?」


と、嘘泣きをしたりw


尚、クレーターは土壁を創り出す要領で元の高さまで戻して蓋をしておいた。後を追いかけられても面倒なだけだからだが…


『マスター、どの辺りで地上に戻りましょうか?』


『そうだなぁ…』


レムから問い合わせの念話が届き、現在位置を訊く。


『今はどの辺りだろう?』


『部下からの話しでは…丁度領主の館が見える辺りですわ』


見えるといってもゴーレムの目では人よりは遠いだろう。だが、


『わかった。この人たちは領主の館に収容して貰おう』


『イエス、マイマスター』


先頭にナルも加えて誘導して貰いながら穴を掘り進むことにした。魔力の枯渇を心配したが、渡していた魔力カプセルは足りたようでやや安堵するザック。



ぼこっ…


ざざーっ…


うっかり地面に開けた穴から砂やら土やら生えていた草やらが穴の中に流れ込む。


「うわ…やっちゃった」


「ドジですわね」


足元を土埃で汚しながら穴から這い出てくる2人の女性レムとナル。そしてぞろぞろと大の大人を担いだ10人近い少女たちが担いだを感じさせない動きで這い出て来る。


「ふぅ~…2時間ぶりの外だな」


「そうだね…ちょっと見て来るね?」


「あぁ、気を付けてな」


「らじゃっ!」


ぴっと敬礼してから上空へと踊りだす妖精少女シャーリー。雲が重く垂れ込んでいる空はまだ降ってないが雨が降りそうな感じがする。今日は朝から曇っていたが雨が降る前に修繕を済ませておきたいと思っていたのだが…


(それも誰かのせいで無駄に終わったな…)


ナルの部下たちの肩に担がれているおっさんたちを見て、「はぁ」と溜息を吐く。


『取り敢えず周辺には魔物は見えないよ』


『わかった。ありがとう』


そして、動き出すザックたち。


「領主の館に向かうぞ」


「「「イエス、マイマスター!」」」


声が綺麗に揃い、ナルとその部下たちが動き出す。


『うう…出遅れました』


『いや、何競ってんだよ…』


仲間内で何を競っているのかは知らないが、仲良くなって欲しいと思うザックだった…


━━━━━━━━━━━━━━━

女の闘いは始まったばかり。だが、誰が1番かなんて…とまともに話すとマスターなのに殺されそうな表情になるので口に出せないザックであったwww


備考:外壁が何が原因でぶっ壊されたか…を証明したエピソードでしたw

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