20 その3 ~マウンテリバー、魔族の侵攻を受ける!…その3~

魔族(仮定)の侵攻を受け、蹂躙されるマウンテリバー。侵攻してきた群れは北のゲートからダンジョンを経由してきたものと推測される…いや、事実。ダンジョンを封鎖していた封鎖口…堅牢な筈の門扉をぶち破って噴出して来たのだ。

マウンテリバーの被害は甚大だ。無事な家屋を探す方が難しいという状況の中、あちらこちらで冒険者や衛兵たちが魔物と相対していた…否、殆どの者はせいぜい1度くらいはぶち当たりに堪えていたが2度目は吹っ飛ばされて蹂躙されていた。怪我人が増えるにつれ、治療院(教会)やギルドの医務室に入りきれない人員が溢れ、さながら負け戦の自陣みたいになっていた。

…そんな中、強者マロンは別格であった。出会う敵を千切っては投げ、投げては千切って…いや投げたら千切れないし細切れに斬り刻んでるだけだし…だが、敵の数が多過ぎて処理し切れなく、焼け石に水…とまではいかないが、面で制圧してくるのにか細い線で切り込みを入れているようなものだ。何れ体力が尽きてしまえば囲まれてボコボコにされる未来しか見えないのだ…

そして侵攻軍(仮名)の新たな敵が現れる。封鎖口の崩れ落ちている門扉を完全に吹き飛ばし、洞窟の穴然としたダンジョンの出入り口から…真紅のドラゴンが現れる…レッドドラゴンだ。その数は15体。ダンジョンの出入り口から溢れる魔物たちを不完全ながら防いでいた大砲部隊はブレス1発で吹き飛ばされ、町の蹂躙を開始する。魔物界最強の存在に生き残った衛兵たちは絶望で逃走する気力を失ってしまう…

その頃、ザックたちはというとようやく準備を終えてマウンテリバーサイドとノースリバーサイドを繋ぐ石橋の近くまで来ていた。最近創造したダークエルフ伝令兵に仕立てた2人も一緒だ。総勢5名(ザック、レム、シャーリー、ザンガ、サフラン)だけで何ができるか…と問われれば、「普通なら無理だ」と返すしかないだろう。だが、ザックを始め…外見は「普通っぽい」が、中身は全員「普通」ではなかった…

ザック  「僕たちの反撃はこれからだっ!」

レム   「それ、打ち切りっぽい台詞」

シャーリー「あははははは!」

ザン&サフ「大丈夫なのかね?…このマスターたち」

━━━━━━━━━━━━━━━


- 反撃 -


「えっと…手持ちの装備ってどんなのがある?」


「装備ですか…?」


ザックがザンガに問うと、指を折りつつ思い出すように説明をするザンガとサフラン。聞き終えた時点で…


「死にに行くようなもんだな」


と即答。がびぃ~ん!?…とショックを受ける2人のダークエルフゴーレムだが、


「大丈夫だ。問題ない」


と、ぱっと見にはぼ~っとしだすザックに胡乱な目で見つめる2人だったw



凡そ15~20分が経過。その間にぽいぽいとザックはストレージから錬金魔方陣で生成した2人用の装備類を地面に放り出す。それをレムが拾い上げ、その都度説明をして2人のダークエルフに手渡していた。


「…よし、これでラストっと」


その手には2つの簡素な指輪が握られおり、小さな宝石然とした魔石が埋め込まれている。ぱっと見には結婚指輪に見えなくもない同一デザインだが若干大きさの違う指輪を…ザンガに2つとも手渡すザック。


「じゃ、大きい奴をザンガが付けて。小さめの方はサフランに付けてあげてね?」


「え…と、これは…」


「けけけけ…」


「こけこっこ?」


「こなんていってません!」


茶化すとサフランが顔を真っ赤にして突っ込んで来たw


「結婚指輪じゃないよ。高性能版のアイテムボックスね、これ」


「あぁ、そういう…」


ザンガが納得し、自身の右腕の…大きさが合う指を探してたら人差し指にぴったりだったようでそこに差し込んだ。


「サフラン」


「え…」


ちなみに左手の薬指…には合わないように調整してある。両者の人差し指なら入る程度の大きさだ。まぁ左右どちらでも構わないんだけど…


「…はいっ、どうぞ!」


サフランは意を決して左手を差し出す。矢張り顔は真っ赤だ…そして左手を見てみると…薬指に入れろといわんばかりにそこだけ開いてたんだけど(苦笑)


「薬指には入らんぞ。人差し指を出せ、人差し指を…」


と、ザンガが急かすと、ぶすっとした顔で人差し指を差し出すサフラン。今度は問題無くするっと指輪が差し込まれ、収まる所に収まった。


「じゃ、後はそこに装備やら消耗品やら入れるように。それ、2人の専用だから…もう外せないよ?」


ニヤソとニヤケながらザックがストレージから消耗品やら雑貨やらをどんどん取り出していく。暫くポカァ~ンとしていた2人だが、はっと我に返ると取り敢えず目前で山になりかけのブツを自分のアイテムボックス指輪に収めていった。内訳としては行軍中に使うであろうキャンプセットとか食糧品(ダミー。2人はゴーレムなので魔力補充用の魔力カプセルを飲用するだけで済むのだが、もし仲間のダークエルフたちに遭遇した場合を考えての処置)と飲料水がある。


装備品としては移動時には邪魔になるが強弓と矢筒。矢の先端に取り付けるメタルジャケット弾(鉄で包んだ爆裂弾。使用者の思念魔力に応じて爆発。或いは着弾の衝撃で爆発する)と2人の膂力で振り回せるやや大きめのなたなどだ(普通の刀剣だと折れそうなので丈夫そうな鉈にしておいた)


他、緊急時用の閃光弾(一瞬にしてトーチ明かりの1時間分の魔力を開放して敵の目を潰す。副次効果として熱と音も開放されるが防御されてれば大したダメージにはならない(未対策であれば皮膚に火傷を負い、一時的に聴力を奪う程度))や、取って置きの携行大型魔力弾発射筒(所謂、個人用携行型ロケットランチャー。1発きりだが小型のドラゴンなら瞬殺。大型でもそれなりのダメージを与えるので逃走するくらいの時間は稼げる…予定。※爆発するが無属性)などもあるが、秘匿技術満載の為、どうにもならない時に使えと念を押す。尤も、敵国の人間は居らず、バレた時に見られたらヤバそうな上層部の人間などはこんな場所じゃなくてもっと安全な場所に退避しているとは思うが…



一通りの装備品を渡し終え、ダークエルフ2人は先行する。基本、遭遇した小型魔物の殲滅と襲われてる者の救助がメインとなっている。一応、ダークエルフなので魔法も使えないと不自然だよな…ということで、簡単な攻撃魔法が扱えるようにと魔力貯蔵の魔石と魔方陣を仕込んだ魔石も追加で埋め込んでおいた。ザンガには風の攻撃魔法と炎の攻撃魔法(中級までと初級まで…に見せかけた生活魔法の各種属性魔法)を。サフランには回復魔法(中級まで…に見せかけた生活魔法のヒールハンド癒しの手当て)を使えるようにしておいた。いや、それ以上となると躯体の許容量を超えるし、僕自身は本当の属性魔法は使えないからねぇ…しょうがないっちゃしょうがない。兎も角、結果的にそれらしく見えればいい訳だしね!


「じゃ、僕らも行こうか?」


「「了解!!」」


チャリオットをストレージに仕舞い、先ずはこの火事を片付けようと僕は念じる。


「…雨よ、来たれ!」


生活魔法には「雨乞い」という派生魔法がある。「天候操作」に似てるものだけど局地的に降雨現象を引き起こす魔法だ。流石に膨大な魔力と広大な魔方陣を用い、10人以上の魔法使いを同調させながら行う儀式魔法である「天候操作」なんて無理だけど、「神さまにお願い」するだけなら僕1人でも可能という訳だ。


ぽつ…ぽつ…ぽつ…


念じてから鼻先に水滴を感じ、目を開けて見上げると…火災で煙っていた空は余り変わり映えしないけど…煙ではなく雨雲に変じていた空から雨が降り始めていた。小降りだった雨は、やがて本降りになって大雨と化し…町の火災は徐々に鎮火していってるみたいだ。熱かった空気も徐々に冷えていき…未だに燃えてる所には恐らく敵がいるんだろう。


ざーーーーーーっ!!


遂に土砂降りとなったマウンテリバーサイド。だが、ザックたちはその影響は受けない。頭上に浮遊タイプの水滴を弾く結界を展開しているからだが…


「…まぁ、視界はしょうがないよね」


ビーム攻撃の如く雨雲から降って来る水滴は途切れることなく地面へと着弾し、瞬く間に雨水は地面を濡らし、溜まっていき…やがて、あちらこちらで流れだして小川を成した。このまま放置すれば濁流になるかも知れないが、そこまでは望んでないので火災が鎮火すれば徐々に雨は止むと思われる…


「マスター!」


シャーリーの警告に指をさした方角から単発の炎ブレス弾が飛来してくる…が、超高熱の筈のそれはより勢いを増した雨により徐々に勢いを失い…目の前で解体されたかのように鎮火して四散する。


「おお…」


シャーリーがびっくりして感嘆の声を出す。うん、まぁ…此処まで凄いとは思わなかったので僕もびっくりだよ!…何て驚いていると、何となく天の上の方から暖かい眼差まなざし?…微笑ほほえみ?…を受けたような、心が暖かくなったような。あれかな…生活魔法の神さまが護ってくれたのかな?


「ん~…見えるか?」


「えっと…前方このまま。大体50mくらいの位置に…あ、こちらに移動中の模様!」


シャーリーの案内に頷き、僕も真似て指先をそちらに向けて念じる。すると…


ざああああああっ!!!


いきなり真っ直ぐ地面に向かって振っていた雨が、くにゃん…と曲がって指先を向けた方へと殺到する。それぞれの雨は1本の線を描いていたんだけど、徐々に纏まっていき…見えるギリギリの距離では線が柱みたいな太さになっていて…


〈GYAAAAAA!?〉


ずどんっ!…と加速した水柱が水飛沫みずしぶきで見えない先でぶつかる音がして、そして魔物の悲鳴?…多分断末魔までいってないので死んではないと思うけど…がした。それも1度や2度ではなく、


ずどんっ!…ずどんっ!…ずどんっ!…


と、やや間隔を開けて水柱攻撃が魔物へと殺到しているようだ。まだまだ雨は降っているし、大雨が豪雨にパワーアップしてるから攻撃は更にレベルアップしてることだろう!


ずどんっ!…ずどんっ!…ずどんっ!…


水柱がすっ飛んで行ってる方へと歩いてると、弱弱しい悲鳴が聞こえてきた。最早もはや


〈GYAAAAAA!?〉


ではなく、


〈KYUUUUN…〉


に変じてる所から死に掛けなのかも知れない(苦笑)…そして、


ずどおおおおん…


と、倒れた音が聞こえた。既に発射していた数本の水柱がその上を通過するがすぐに分解して背後の瓦礫と化した壁に「ぱしゃっ…」と力を失った水が当たって砕けていた。


「これは…」


「レッドドラゴンだね。この前襲って来たのと同種のドラゴンだよ!」


ザックが呟くと、シャーリーが解説してくれた。大量の水柱攻撃を食らい、体表の熱を奪われ弱って来た所に口からも水柱を食らって急速に体温を奪われたせいだろう。水を吐きながら横たわる姿は…


「まるで地上で溺れ死んだみたいだな…」


「ですねぇ」


レムが静かに肯定する。シャーリーはぶるるっ…と自らの体を両腕で抱えて震えていた。


「溺死って苦しそうだよな…」


と呟き、取り敢えず見た目は綺麗な死体なので…後で素材を剥ぐか、はく製にすれば高く売れるかなぁ?…と思いつつ、ストレージに仕舞いこむのであった!w



- 反撃の衛兵・冒険者連合軍 -


「うおおおっ!?」


「何故雨があっ!?」


突然降って来た雨に撤退中の衛兵・冒険者連合軍が戸惑いつつ走っていた。だが、


「走り辛くなったが、こいつぁ恵みの雨だ。奴らはレッドドラゴンだ。熱を奪う雨や川なんかは苦手だって聞いたことがある!」


それに敵を視覚だけで判別するだけに、視界を奪う程のこの雨のベールは都合がいい。例え鼻が効いたとしてもこの雨なら匂いも流れてしまうだろう。


「ブレスだっ!」


ごおっ!


…と単発のブレス弾が幾つか飛んで来るが…


「適当に放ってるだけだな」


「あぁ…」


てんでバラバラに飛んで来たブレス弾は雨に威力を減衰され、空中で固形したり壊れかけの壁や地面に着弾して最初に目撃した時程の威力は失われ、力なく火花を散らして…まるで少し強力な花火をぶつけたかのような結果となっていた。


「こいつぁ…」


「雨が降ってる間ならひょっとすれば…」


衛兵と冒険者の両者は互いの顔を見ると、頷くのだった。つまり、


「「今ならあの火トカゲどもを撃退できるかもっ!?」」


…という訳だ。


レッドドラゴンから逃亡していた両陣営はできるだけ崩れてない大き目の家屋に避難し、急ぎ話し合うのだった…題して、


「雨降ってる間に火トカゲを撃退しよう!」


会議だった(安直感バリバリw)



「お…あちこちでレッドドラゴン、撃退してる?」


シャーリーがそんな呟きを漏らした。


「え、マジ?」


水流斬ジェットストリームカッターで1体のレッドドラゴンを真っ二つにしていたザックが驚いて聞き返す。この生活魔法は水辺など水が豊富でないと使えない為、今みたいに大雨が降ってあちこちに水溜まりでも無いと町中では扱えない欠点を持つ。水流を限りなく細くして超高速で射出して対象をぶった切るので、大量の水が無いと使い物にならないけど、自然の物・・・・ならどんなに固い物質でも切り刻めるという実力をもつ。逆に魔法で精製された金属の場合、ミスリル程度なら兎も角、オリハルコンやアダマンタイトなどは流石に「傷は付く」が真っ二つにはできない。水流に魔法を練り込んでいれば別だけどね…(幾ら僕でもそこまで器用にできる程は慣熟してないし…)


「マスター、流石です」


レムが褒めてるけど全部が全部、僕の実力じゃない。「雨乞い」で降って来た「雨」で弱体化していたからこそ倒せた…という訳だ。どうやら熱を奪われたレッドドラゴンは体表の防御力が下がり、物理防御が低下すると共に魔法防御も下がるようで…先程シャーリーがいってた「あちこちで撃退」というのも同様に低下した防御力で反撃が効いている…ということだろう。詰まる所、「反撃するなら今の内だ!」…ってことだ。



「…これでラスト、かな?」


最初の個体から数えて5体のレッドドラゴンを倒し、ストレージに仕舞い込んでから呟く。


「…まだです。一際でっかいのが…ああっ!?」


シャーリーが叫ぶ。すると目の前にそのでかいのが


ずずずぅぅぅぅ………んっ!!


と地響きを起こしながら着地して来た。


〈ANGYAAAAAAAAっ!!!〉


まるでゴ●ラの如く吠える巨大なレッドドラゴン…とはいえ、今まで倒して来た個体より一回り大きいかな?…という程度だが、大きいものは大きい。そして、


ごおおおおおおっ!!!


と、即座に連続ブレスを放って来た。その速攻の判断は正しいが…甘い。今はまだ大雨が降り続いているのだ。


「土壁、あ~んど、結界」


水を混ぜ込んだ泥の土壁を結界で包み、湾曲させて炎のブレスを防ぐ。単なる土壁だとすぐに溶け落ちるし水壁ではすぐに蒸発してしまう。依って、両方の性質を持たせた泥属性とし、温度を低下させてすぐに蒸発しないようにして結界で包んで更に強化した複合属性の壁を生成したのだ。


ごおおおおおおっ!!!


長い長いブレスがやがて弱くなり、泥壁の外側の結界が薄くなって赤熱を始めた頃にようやく止まったのだった…


〈GURURURURU…〉


ぜいぜいと苦しそうな息継ぎをしながら途切れ途切れに唸るドラゴン。今の内にと泥壁を強化しようとした途端、


しゃききききぃん…


という音が聞こえ、何だろう?…と思って左右から顔を出すと、


〈GURU…〉『馬鹿な…』


という最期の台詞と共に首が墜ちて行くドラゴンヘッドを前にしたマロンが居た!


「お…美味しい所を持ってきやがってぇ~っ!?」


と毒付くシャーリーにニヤソとドヤ顔を向けたマロンが討伐した大型のレッドドラゴンをアイテムボックスに仕舞い込む。


あるじ、体を任せた」


どうやら収納の上限を迎えたらしいアイテムボックスには頭だけを収納し、残りの胴体以下はザックのストレージに入れといてくれと…そういうことらしい。


「あ、あぁ…わかった。お疲れさま」


こくりと頷くマロン。マウンテリバーがこの状況なので、一旦ザック邸に戻って備え付けのアイテムボックスに放り込んでくるのだろう。一目散にノースリバーサイドへと走るマロン。だが…


〈ふはは…前座を倒していい気になるなよ?〉


何処からともなく、人間でも理解できる声が響いたのだった…


━━━━━━━━━━━━━━━

「誰だ!?」

「人知れず忍び寄る白い影…」

「Gマン!?」(違いますw



備考:避難が間に合わず家の瓦礫に潰された人も結構居たかも知れませんが瓦礫を撤去しないとわからないので正確な死者などは後日…となるかも?(直接攻撃されて死んだ人は殆ど衛兵とか冒険者なので)え?…避難先の死亡者?…瓦礫を(ry

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