第3話後編〜内に秘めている魅力と歪と
「おぉ!興味を持ってくれたのは嬉しいなぁ。そうだねぇ…」
彼女は大学生、そして夜の蝶と二足の草鞋。そりゃ思い悩むよね。まだまだ青くて、苦しむ時期だもの。
「私が思うに言葉のままだけど、今日の自分と明日の自分は違うから将来に悩みを持ちすぎる必要もないんだよね。今を生きる、それだけでも精一杯なのは今も昔も変わらない。現代は特に物事が複雑で何をするもやめるも時間がかかる。」
「永久恋愛さんは大学に通いながらも夜の街で働いている。何かお金が必要な理由があるんだと思う。」
「お金って無くても良いとか言うけど絶対必要なんだよね。あればあるだけ困らないもの。働くことって誰しも楽ではない。それでも働くのは、皆お金の大切さや必要さを身に染みて分かってるからだと思うのね。」
「あ、お金があり過ぎて困ってる人は除外ね」
彼女はゆっくりと聞いてくれた。何かを思ったのか、数分後に口を開いた
「私は整形依存症で、浪費癖も凄いんです。腕や脚に巻いてるサポーターとか、顔のあざも腫れも全部整形のダウンタイム中だからなんです。」
「住んでるとこだって家賃凄いし、新作のカバンでるとすぐカード切っちゃうし。写真上での映えやキラキラに目がいき過ぎて何のために働き、何のためにお金を使っているのかわからなくなって…」
彼女はカミングアウトしてくれた。サポーターや顔のあざ、腫れは整形によるもの。美容整形のことだよね。確かに医療行為はお金と身体への影響がすごいよね。美容整形は浪費に入るのか、入らないのか。入らないのならする意味はあるのかな?別に言うからやはりこだわりがあるのかなぁ
私は彼女に問う
「美容整形はどこの部分をしたの?」
「ほぼ全部。してないところはない。まるでサイボーグみたいでしょ?」
「私はもともと家が複雑で、本当の父親は誰か知らないし血が繋がってない兄弟もたくさんいたの。こんな家から早く抜け出したくて15で家を出た。男の家を転々としながら夜に働いて、頑張って勉強して18からは大学に行って心理学を勉強してる。」
「心理学は面白いですよね。それで、なぜ整形依存に?」
「自分の力でここまで来て、やっぱりそれにはたくさんの代償があった。」
「稼ぐには風俗しかなかった。私を雇ってくれたのは今のキャバクラだけ。ここまで育ててくれて、良い病院も紹介してくれて。」
「さらにインスタでインフルエンサーみたいなこともして。たくさん案件もらって。絵画とかもPRして。でもインスタで目に留まるようにするにはより美しくなり、より憧れる存在になるしかなかった。」
「しかも整形したり、高いカバン買うとみんな褒めてくれてさぁ。羨ましがってくれて妬み嫉みも快感だった。」
「でも私みたいな女、この世にたーくさんいるのよね。別に特別じゃない。まだまだ埋もれてる。この身体じゃ子供産めないし、どこに行っても私である必要もないし、まさに人生終了役満って感じ」
画面の中で得る賞賛は時に力になり、時に自分を痛めつけることもある。
ロープウェイが来るまであと10分。
「そんな
「心の貧しい人々は、幸いである。天の国はその人たちのものである。悲しむ人々は、幸いである。その人たちは慰められる。柔和な人々は、幸いである。その人たちは地を受け継ぐ」
「マタイの福音書5章3から5節の言葉です。」
「心の貧しい人は自分の出来ないことを認めて、それを直そうと努力する人のこと。悲しむ人は酷く辛い悲しみに遭った人のこと。柔和な人は病気や老いなど重荷を背負っている人のこと」
彼女は頷きながら聞いてくれた。
「お姉さんの解釈は?」
「信仰を関係なしに解釈すると、前2行は心の貧しい人は自分の欠点を認めて直す努力ができる。その人は偉いから天国に行けるよということ。」
「中2行は悲しむ人は自分の辛さを知っているから、人に優しく思いやりを持って接することが出来る。人の悲しみを理解できるから共感して慰めることができるということ。」
「後2行は支え合う人がいる前提だけど、重荷を分け合い、助け合うことで人間関係・人生という名の地が続いていくということ。」
彼女は教えてくれた。
「私、ルームメイト居るんだ。同業者で彼女も何か悩んでるみたいなの。是非お姉さんと話して欲しいなぁ。」
「縁起でも無いこと言わない!私と話をしても、闇に吸い込まれていく人はたくさんいるんだから。」
「分かった。まずは私と重荷を分け合ってみるね。」
「そうだね。
「私は最強だよって聖書を通じて伝えてくれているんだって思った。」
「頑張って生きながらも、様々な苦しみに耐えている貴方は最高に強いってこと。」
ありきたりだが、中身の美しさはお金では買えない。その人自身が得た経験や周りの環境に負けずに育ち、備わるものだから。
「私、インスタやめようかな。整形の傷だって落ち着いてないから、しばらく休むことにするよ。大学にも最近行けてなかったし。」
「学生の本分は、とかは言わないけど学ぶ意思があるうちが華だから。」
彼女は学ぶ楽しさを知っている人だ。これからどこまでも知識を身につけて更に美しくなる彼女は輝いていた。
「お姉さん、チケット返金するよ。」
笑顔で言う彼女にこちらまでも笑顔になる。彼女は不思議な魅力を持っているらしい。
ロープウェイに中止の連絡を伝える。
「
代金を受け取ると、彼女は言った。
「私ね、お姉さんがたくさん私の名前呼んでくれて凄く嬉しかった。みんなはさ、あいちゃんとかあだ名で呼ぶ人しかいなかったから。この名前は呪いであるとともに安心するんだよね。なんでだろうな…」
寂しそうな顔をする彼女を入り口まで送る。
「お姉さん、インスタ消す前に絶対見てよ!それと結局名前分かんなかったけど本当にありがとう!!」
「私が重荷を一緒に背負ってるから、忘れないでね!」
「うん!バイバイ!」
彼女はこの暗い寒空を、明るく照らしながら帰ってった。
***
「えっと…
登録だけでかなりの時間を費やした。
「わぁ…フォロワーかなりいる」
たくさんの写真に、案件と共に様々な商品をPRする彼女。化粧品、食品、ダイエット用品、文房具、脱毛…
「あ!
まさか…ここにも龍斗さんが、
やはり、彼の絵は彼女は表している。黒背景にひと粒の大きなダイアモンドが輝いてる。しかし、その奥には歪んだ数字の6描いてある。
暗闇の中でも一段と輝く彼女のダイアモンドのような美しさと、心の中には苦しみもがいている本当の彼女。
数字の6はタロットカードで恋人を表すことから愛の象徴にもなっている。
写真を見ているの絵画の裏側を写しているものがあった。
「投稿文には『このメッセージは色んな受け取り方があるね♪私にはすっごく響いたよ˚✧₊⁎❝᷀ົཽ≀ˍ̮ ❝᷀ົཽ⁎⁺˳✧༚』」
どれどれ…
「No one can touch the beautifully shining diamonds. So we don't even notice the signs of breakage.」
なるほど…鋭いなぁ
やはり龍斗さんは見抜いていた。
今の彼女を見て、もう1枚絵を描いて欲しいと淡い願いを流れ星に乗せる。
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