第2話後編〜技術決定論に沿う伝説の龍となる
「僕は権利を主張する資格すらない人間です。なにもできていない。無力な人間が権利を主張して良いとは思えません、」
龍斗さんは、自己肯定できなくて、すごく苦しんでいるのが目に見える。もっとあなたには素晴らしい才能があるんだと伝えたい。でも良い方がわかんない。もどかしい
それでもわたしは話す
「日本人の義務は勤労、納税そして教育です。絵を本業として働いていて、ちゃんと納税していれば日本人は権利を主張して良いんです。これは基準がはっきりしているので、もうこれ以上自分を責めないでください。お願いです。」
龍斗さんは黙っている。やっぱり私にできることは少ないのかな
「僕には何かが人間として欠落している気がするんです。だから、自分に自信を持てなくて辛いんです」
「完璧な人間なんていません。悩んで、欠落していてそれでいて人間です。エロースとアガペーについてわたしも良く知りませんが、本を読んでみて少し考えてみるとよいと思います。」
龍斗さんは少し上を向いていた
ロープウェイが来るまであと5分
最後に話してみる
「技術決定論という理論を知ってますか?私は学校の授業でしたんですけど。技術の革新が社会のあり方に影響を与え、変化もたらす、とする考え方のことなんです。技術は言えば龍斗さんの絵、社会はそれを受け取った人の人生や価値観のこと。龍斗さんの絵が人に影響を及ぼすんです。1人目に私です。まだあなたの絵を見たいです。」
「技術は社会の影響を受けず、その発展は自律的であるとするのが技術決定論の考え方です。龍斗さんは自分の信じる、描きたいと思う絵を誰になんと言われても描くのが勤労の中には含まれると思うんです。そして成長する。大丈夫です。私があなたの絵を必ず見届けます。」
「僕が描く絵がまだ意味をもたらす…かもしれない」
「あなたのように同じく葛藤している人、人生を辛く感じている人のために絵を描ける。あなたなら。やっぱり辛さを感じている人にしかわからない思いとかがあるんです。いくら綺麗事言われても、励まされても、その考えもわかっていて、死にたいんですよね。でもまだあなたにはできることがある。それをわかって欲しいです。エゴですけど…」
私も知らずに涙していた。
龍斗さんは
「もしかしてあなたもロープウェイ乗り場に同じ立場できたことあるんですか?…」
そんな時に師匠が裏から出てきた。そしてこう言う
「ロープウェイがもう到着していますけど乗りますか?龍斗さん」
わたしは驚いて
「師匠…いつから聞いていたんですか?」
龍斗さんは
「一度アトリエに帰ろうと思います。まだ完成途中の絵があるんです。それを仕上げてからまたゆっくり考えます。」
師匠は微笑んで、私の頭を優しく撫でたそしてこう続けた
「話を書く時に自分の話を話し過ぎるのはダメだと教えただろ…でも初めてにしては良くできたな。でもこれが最初で最後だぞ」
わたしは鼻声で
「いつから聞いてたんですか?寝てたんじゃ」
「甘酒を探すために棚をカチャカチャいじってたらそりゃ起きてしまうわな」
「もう…恥ずかしい…もっと早く来てくださいよ!すごい疲れましたよ…甘酒3杯で許します」
「それで済むなら軽い方だよ」
師匠はまた優しく微笑む
気づいたら龍斗さんはいなかった。
しかし猫の絵を描いた紙ナフキンにはメッセージが書いてあった
『I wanna be myself and express myself as I am. See you somewhere in the world. 』
これは願望なのか、私に向けての意思表示なのか。それにしても、この英語の意味があんまりわかんないなぁ
「師匠〜この英語なんて言うの?」
「自分で理解した方が良いよ。人それぞれの解釈を自分の考えだと思うと必ずいつか違和感を感じるようになるよ」
はぁ〜い…めんどっっ
***
そんなこともあった私の初めてのおしごとは今や私の業になっている。
それからRyuto.Kは現代の人に響く画家として活躍している。明るいタッチの絵の裏には切ない望みを描いたメッセージを残していて新作が出れば即完売となる。
しかし姿を一切見せないことから本当は存在するのか?架空の人物なんじゃないのかと色々な都市伝説が世には流れている。本物の龍のように、伝説が流れている
私が発掘した存在だと思うと少し誇らしい。
わたしも英語を理解したくてその後留学したり、英語の一般企業に勤めたり、龍斗さんは今でも私の中に強く、深く残るお客様だった。
それから会うことはないけれど絵を送ってくれる。龍と馬が戯れてる絵だったり、
羊が割れたハートを温めてる絵だったり。
その絵の裏側には
『I wanna meet her again who became a sheep in the rainy season.』
わたしのこと?梅雨になると羊になる?髪の毛天然パーマだったからかな…
相変わらずユーモア溢れて、たまに絵を送ってくれる。そんな龍斗さんとまた会えるといいな
てか兄弟揃ってそっくりだなぁ、近くに住んでるのかな
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