気のせい

「何ていうか、大変だったね」


「うん。伊織くんと話したかったのに……」


 星奈ちゃんが少し頬を膨らませる。

 ……かわいい。


「あはは……」


 面と向かって話したかったと言われてどんな反応をしていいのか分からなかった。


「お昼は一緒に過ごそうね」


「え?あ、うん」


 マジすか?俺、とうとうぼっち飯卒業ですわ。


 なんてこと思ったりしていました。


「伊織さんご飯食べま――」


「星奈さん。よかったら僕と一緒にご飯を食べないかい?

 まだ一緒に食べる人できてないんじゃないかな?一人じゃ寂しいだろうからね」


「あ、上石さん。ごめ――」


(ふたりでたべていいよ!)


 断らないで星奈ちゃん。目付けられちゃうから。

 上石くんに目付けられたくないよ。


 今度一緒に食べよう。


「……ありがとうございます」


 星奈ちゃんは渋々といった感じに弁当を広げた。

 そして、俺の席に座る上石くん。上石くんも俺の机に弁当を広げる。


 んじゃ、俺はどっかのベンチで。


「……ふっ」


 ん?今、上石くん笑った?いや、気のせいか……。



「伊織くん、さっきはごめんね」


 昼休みが終わろうとする頃教室に戻るともう上石くんはいなかった。


「いや、全然いいよ。星奈ちゃんも上石くんも悪くないよ」


「……あの、放課後校舎の案内お願いしていい?」


「あ、いいよ」


「やった!ありがとう!」


 小さくガッツポーズをする星奈ちゃん。

 かわいいな。



◆◇◆◇◆◇



「伊織くん、行こう?」


「そうだね」


 放課後になったので俺と星奈ちゃんは教室を出る。


 どこから案内しようかな。


「星奈ちゃんは何か部活入る?」


 まずは図書室からにした。


 本を物色する星奈ちゃんに聞いてみる。


「あ、みんなに誘われたんだけど……。伊織くんは部活入ってる?」


「いや、入ってないよ」


「じゃあ私も入らない。これからは一緒に帰ろう?」


 ……星奈ちゃんと一緒に帰ったら目立つよな?


「いいよ」


 気にしないからいいけど。


「やった!じゃあ、帰ろ!」


 星奈ちゃんが俺の手を取り靴箱へ歩き出す。


「え?学校案内はいいの?」


 まだ一箇所しか行ってないんだけど……。


「……学校案内誘ったの、伊織くんと一緒にいたかったからだよ。気づいてよ……」


 顔を赤くして言う星奈ちゃん。

 たぶん俺まで赤くなってる。


「か、帰ろっか」


「……うん」


 靴箱に辿り着くまで、俺と星奈ちゃんの間には沈黙が続いた。


「……クソ。陰キャの癖に俺の邪魔すんなよ」


 え?


 俺は後ろを振り向く。


 しかし、そこには誰もいなかった。


「気のせいか……?」

 

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