異世界に召喚されたけど城にいるメイドから懐かれた!
藤乃宮遊
第1話 異世界召喚
「おかえりなさい! ご主人さま!!」
にへぇっと顔がほころぶ。
生活に疲れると毎回のようにやって来るのが秋葉原。
そうして、俺は迷いなく【ニャン娘カフェ】に直行する。
実は最近は毎週のように同じ時間で店に入るので推しのメイドさんに名前を覚えてもらって興奮している。
「ただいまぁー。ルッタちゃぁーん!!」
「おっかえりー。待ち遠しかったよーー!!」
ポンポンと頭を優しく撫でてくれる。
髪をショートカットにして活発元気っ子のルッタちゃんはお店でも人気。
いつでも笑顔で俺に生きる気力を与えてくれる。
「さぁさぁ。こっちにおいでー!
座って座って!!」
案内されるがままに着いて行って。
「今日はどうする?? いつものヤツ?
なにか飲む?」
と、隣に座って。
お尻とお尻がくっついて
「ブハッ。
そ、そうだねぇ。ルッタちゃんが一緒に食べられるのがいいなぁ!」
「オッケーオッケー!
今日は新鮮だから食べたいのがあるんだー!」
と、タブレットをちょちょいと操作してから注文完了。
「何にしたの?」
「ん? お寿司!」
「いいねぇ! 幾らくらいだろう?」
と、タブレットのメニューから注文履歴を見て驚愕
「えっと。これは」
「すごいでしょう? でも何でもいいって」
「言ったっけ?? ま、まぁでも。
大丈夫大丈夫だよ。手持ちは………」
と、俺は財布の中身を見ながら
「ある。あるある。
あー。もうびっくりした! お寿司好きなの?」
「うんとっても! 今日は料理人イチオシのネタを譲ってもらったんだって!」
「うんうん」
ルッタちゃんの笑顔を見て俺は癒やされる。
万札が幾らかなくなっても、一緒に食べられるならそれで良かった。
と、実際にはこの店の値段は超良心的。
席料チャージといくつかの定額を払えば、料理は安価。
寿司に、「超!大トロ!」と大きく書いていなければ。
「あ、来たよ! はい。コーラ!」
「ありがとう! 「カンパーイ!!」」
ルッタちゃんとコップをチンと鳴らして、一気に仰ぐ。
「ぷはー。美味しいなぁ」
はぁ。可愛い。
両手でコップを持って本当に美味しそうに飲む。
「あ、ルッタ。また一緒に飲んでるの? やめてって言ってるじゃん!」
長髪黒髪のメイドのアテナが顔を覗かせてくる。
「えー、いいじゃん。ねー!!」
と満面の笑み。
「ねぇ、ご主人さま。
ここ、キャバクラじゃないんだけど?」
「ん? ルッタちゃん」
「えー、嫉妬??」
「ちがうわい!!」
ルッタちゃんとアテナがニャンニャンバトルしている。
「まぁいいや。
はい、ご主人さま。ルッタにはあげないでね」
と、ドンとテーブルに配膳してくるのが大トロの握り寿司3貫。
内心ビビりながら。これで万札かと。
「美味しそう!!」
「こら、ルッタ!」
アテナがルッタの手を叩いて、
「えー!!」
もう。とアテナは頬を膨らませて帰る。
「邪魔者は居なくなったね! 一緒に食べよ!」
ルッタちゃんが醤油を手にとって寿司に直接垂らす
一貫手で取ってから、
「はい。ご主人さまー!
あーん!!」
と、俺は口を大きく開けて
ブラックアウト。身動きが取れなくなり
一瞬の浮遊感。次の瞬間には腰に衝撃。
「いった!?」
ソファに座っていたはずだが?
回りを見回して、床は大理石のような硬い素材に打ち付けたのだと理解。
そうして、同じように人が戸惑っているのも見えた。
「なにが?」
「ここはどこだよ」
「異世界召喚ですかな? むふふ」
両手を見る。
何も持っていない。
お金もバッグもすべてルッタちゃんの所に置いてきたのだろう。
「おお、救世主よ!」
と、芝居がかった声が聞こえる。
俺たちより高い位置から、背の高い椅子に座った男。
「異世界の勇者。国のピンチに現れるという伝説は本当だったか!」
俺と同じように、戸惑っている人が多数の中
一人の小太りの眼鏡が立ち上がる。
「そうとも!
自分こそ真の勇者! 国を救ってお嫁さん、ハスハス!!」
「ははは。そうかそうか。
国を救ってくれるなら娘もくれてやろう。
それで? 勇者様。あなたはどのような能力を?」
小太りメガネ以外、俺を含め首をかしげる。
あのノリについていける人は居ない。
「ステータス!」
と、叫ぶ。
例のように彼の前には半透明なディスプレイが現れて
「むふ。聖魔術師ですな」
「ほぉ。それは伝説の聖女の。
女性しか獲得出来ないスキルですが。見たところ男s……」
「そうだよ!! この容姿で女なわけないだろ!!」
声を荒げて
「すまん。勇者はオレだ」
と、名乗り出るのは
「トシヤ!」
「ん? あら。
お前もか、カズキヨ」
清潔感がある長身の男。
爽やかイケメンルックスでスポーツ万能。
腐れ縁幼馴染の『阿賀道 俊哉』。
「も、って?」
俺は立ち上がってトシヤの方へ
そこに居たのは、メイド服コスプレをしたアテナとヒロ。
もとい、トシヤと同じく幼馴染の『長寺 杏美』と『細川 博士』。
「えっと?」
「良かった。知ってる人がいると安心だわ」
「さっきまで一緒に居たんだってねキヨくん」
【ニャン娘カフェ】に、俺がほぼ毎日のように行った時代。
いつの間にか長寺がアルバイトで働いていた。
そうして、まもなくルッタちゃん含めて人気メイド達を率いるリーダーになった。
しかし幼馴染がバイトをしていても俺はルッタちゃんに会いに通っていた。
「そう! 聞いて?
さっきね、2万の寿司をルッタに奢ってたのよ? 信じられない!!」
「メイド狂いは治ってなかったか」
「2,3日じゃあ治らんだろ」
俺たち4人は同じ大学に通うことになり、ルームシェアではないものの、同じ棟のアパートに住んでいる。
流石に取った講義のすべてが同じではないので顔を合わせない時間もあるが、基本的に生活時間は重なる。
幼馴染ということで幼稚園から同じで、趣味嗜好も把握されている。
「あー。ちょっといいか?
盛り上がるのはいいことだが」
と、高いところから。
「勇者が君で? 他の子たちのスキルを聞いてもいいかな?」
「え? 待って待って。
わたし、望んでここに来たわけじゃないんだけれど?
帰っていいかしら?」
「申し訳ない。しかし、我もどう言う仕組みで召喚? されるのか知らんのだ。
ただ、伝説に、国のピンチに現れるとしか。
実際、何もしてないし。国が滅びそうなだけだし……」
自分で言って悲しそうな表情をする。
「え??」
茶色いブレザーの、高校生だろうか。赤斑のメガネを掛けた優等生女の子が衝撃を受ける。
「帰れないの? 明日、模試なのよ??」
委員長かよ。
と、胸に抱えていたぶっとい参考書が腕からするりと抜け、つま先に落ちて
「ぎゃっ」と、可愛らしい叫び声。
「そうか。
救世主も望んでいるわけでは無いのか」
「自分は勇者です。できることは何でもしましょう」
と小太りメガネ。
他の5人は沈黙のまま。
「ありがとう。
望まない者を無理やり戦わせるわけにはいかん。
戦争をしているからね。
でも、スキルの確認はさせてもらえるかな?」
優しい口調で
俺も、ステータスの確認をして
「転移……か」
「使えそうね。私は、剣聖……なにかしら。これ」
ヒロシが少し興奮しながら
「すごいね。それは強いやつだ!
僕は、えっと。クルセイダー」
「なんだよ。お前もジョブの名前みたいだな。
俺は何なんだ? 魔法か?」
RPGのゲームみたいなイメージをして
ほかもそれぞれ、ジョブのような~士やカタカナの名前のスキルで。
俺だけが、「転移」のようなスキルだった。
「離宮に部屋を用意した。
それぞれ使用人をつけるので、使ってくれ」
と、男が言い終わると俺たちの背後の巨大な扉が開かれて、そこから中世的な鎧兜をした騎士たちが規則正しく入ってくる。
「王よ。どうでしたか?」
と、最後にゆっくりと歩いて入ってくるのが白いひげを蓄えたローブの老人。
「帰りたい者も居るようだ。
やはり、もう少し伝説を詳しく調べさせる方が良かったのだ」
「そうは言ってもですね。
戦況があまり芳しくなく」
「時間は、あまりないのか」
と、聞こえてくるが、俺たちは騎士と、執事服の男たちに連れて行かれて部屋を出た。
長い廊下。
天井は高く、高そうなシャンデリアが一定間隔を空けて並んでいる。
外に出ると、それは圧倒的だった。
城だった。
それも、日本式の左右対称の綺麗な美。というより、乱雑に建設された巨大な山といったほうが適切なほどの城。しかし、それは神秘的で、別の美を感じる。
言葉もなく圧倒。
それは俺以外もそうだった。メガネ委員長もポッカリと口を開けて見上げている。
「さぁさ、こちらです」
と、案内される離宮。
それも、一般的な日本的感性だとかなり巨大な城だったが、今の山のようなそれを見たら小さく思える。
「これから、どうなるんだろうね」
ヒロシが俺に
「どうなるも何も。戦場で酷使されるんじゃないか? 特にトシヤあたりが」
「そうだよね。戦争だって。怖いよ」
「狩りはしたことあるし。戦争しているのが人間じゃなかったら私も参加しようかしら?」
と、アテナ。
暴力的に何もかもを解決しようとするので、トシヤと俺でかなりよく仲裁をしていたのを思い出す。
別に、相手が人間でも問題なさそうだ。
「どうするの? キヨ。あなたは戦力になりそうじゃないけど」
今考えていたことをストレートに聞いてくるのがアテナだ。
「戦争には色々あるのさ。
転移だぜ? 一度に前線に戦力を運ぶことができるかもしれない」
「それは無理そうだね」
と、根暗な印象のあった残り5人の内の1人が初めて口を開いて
「君は誰?」
「ぼくは将臣(まさおみ)。
スキルを2つ持っていて、一つは知ってるよね。
水魔道士。それで、もう一つが鑑定。
君は、行った所に転移できるそうだけれど、一緒に転移できる人数は限りがあって、3人までみたいだ。本当に役に立たないね」
ふふっと、馬鹿にするように笑うので、気に食わない。
と、ゴン! と、アテナの拳が将臣の頭を殴りつけて、倒れる。
ピクピクと痙攣して、動かなくなった。
「おい! 何してんだ!!」
トシヤが今気がついてこっちに来て
「だって」
「だってもないだろ。
あまり知らない人間を殴るなって言ってるだろ?」
「バカにしてくるからよ」
「ありがとうな。
トシヤ。これは俺のためだ。あんまり怒るなよ」
見れば、執事のおじさんやメイドさんたちが将臣を起こそうとするが
「こいつの知り合い、居る?」
と、他の召喚者の顔を見て。
あ、居ないなとわかると、こいつはただの中二病か。と結論づける。
1人でイキるなよ。
「よし。行こうか」
俺が言うと、停まっていた集団が動き始める。
「じゃあな。オレはこっちみたいだ」
「僕はこっちだね」
「私だけ少し遠いんだけど」
と、みんなと別れてから案内された部屋に入る。
そこに、先に入っていたのか人影があった。
黒を基調とした長いスカート。そこから覗く足首がチラリ。
金色の髪は腰まであり、綺麗に手入れされているようでサラサラだ。
俺を見据える碧の双眼は吸い込まれそうなほど大きく、透き通っていて。
顔立ちが整いすぎている。人間の欲を集めて固めたような美しさ。
彼女は、両手を揃えて綺麗な動作でお辞儀をする。
「おかえりなさいませ。旦那さま」
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