第1話 ラブレター



「ん、なんだこれ?」



 いつものように重い足取りで渋々学校に向かい、下駄箱を開けると、そこには一枚の薄いピンク色の紙が入っていた。









『放課後、中庭に来てください。月ノ瀬君に伝えたいことがあります。』









 ピンクの紙には綺麗な字でそんなことが書かれていた。


「こ、これは....!」


 もしや、ラブレターというやつか。今どき手紙で思いを伝えようとする人がいることに驚いたが、それよりも一体誰からのものなのか、気になって仕方がなかった。


 全くもって心当たりがない...イタズラか?


 いくら考えても俺のような人間にラブレターを送ってくる人物は思い当たらず、とりあえず鞄にしまい、教室に向かった。







 


 



 教室に入ると、クラスの奴らがそれぞれ思い思いに過ごしていた。わいわいとグループでおしゃべりする連中。1人で読書や勉強をしている奴。


 入学してから早1ヶ月。高校生活にも慣れてきて、皆クラスでの自分の立場というものを理解してきたようだ。


 一方俺はと言うと、ラブレターの件が頭から離れなかったが、いくら考えても仕方ないので今日も今日とてスマホゲームのデイリーミッションをこなしていた。PCゲーム、コンシューマーゲーム(家庭用ゲーム)、スマホゲームなど様々なゲームをプレイする俺にとって、朝のホームルームまでの時間も無駄にはできないのだ。




「おっはよー、ハルー!」


 そんな時、教室の扉が開くと共に、騒がしい声が聞こえてきた。


「おはよう、陽葵」


 こいつは幼馴染でクラスメイトの七海陽葵ななみひまり。俺とは小学生の時からの仲で、いつも元気で明るく、クラスのムードメーカー的存在だ。くりっとした目に綺麗な茶髪のショートボブという愛らしいルックスもあり、男子からの人気も高い。


「相変わらず、お前は元気だなぁ」


「えへへ、元気は私の取り柄だからね!」


 無邪気な笑顔で俺の右腕にくっついてくる。


 陽葵はいつも俺との距離が近すぎて困る。長い付き合いということもあり、気を許してくれるのは嬉しいが、その豊かな胸を押し当てられたら、いくらゲームにしか興味のない俺でも勘違いしそうになる。


「ゲームに集中したいから少し離れてくれないかー、陽葵」


「え〜、嫌だよー、ハルもゲームばっかりやってないで、たまには私とおしゃべりしようよ!」


 陽葵は俺がゲームをしていると、いつもこうやって甘えるような声で絡んでくる。





「おうおう、今日もお熱いね〜」


 すると、どこからともなく1人の男子生徒が俺たちに話しかけてきた。


「おはよう、風道」


「おっす、晴」


 ニヤニヤしながら話しかけてきたこいつの名前は渡来風道わたらいかぜみち。中学時代からの友人で、俺と同じく帰宅部。イケメンではあるが、女癖が悪く、他校の女子を取っ替え引っ替えしているようなやつだ。その噂が学校中に広まっていることもあり、校内ではあまりモテていない。だが、根はいい奴だ。



「聞いてよ、渡来君、ハルが全然私とおしゃべりしてくれないんだよ〜!」


「まぁまぁ、落ち着けって、七海ちゃん」


 顔をプクッと膨らませながら怒る陽葵を風道は『どうどう』と動物のようになだめる。

 

「なぁ、晴、たまには七海ちゃんに構ってやったらどうだー?」


「今はゲームがイベント中で忙しいんだよ。あとでいくらでも構ってやるさ」


 そう言いながら陽葵の頭をポンポンと撫でると、陽葵は照れた表情を見せる。前からなんとなく思っていたが、陽葵はどこか小動物のような可愛さがある。




 こんな感じでゲームばかりの俺だが、こいつらのことは何だかんだで大切に思っている。陽葵を見てるとこっちも元気になるし、風道もいざという時は頼りになる良い奴だ。

 



 そんなことを考えていると、ガラガラと教室の扉が開いた。その音に反応して教室内の全員が同じ方向を向く。


「おい、来たぞ、涼姫愛莉だ」


 風道にツンツンと肘で突かれ、俺もスマホから目を離し、顔を上げる。


 すると、そこにいたのは、


 綺麗に整えられた黒髪、真っ白できめ細かい肌、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる、誰もが見惚れる完璧美少女だった。


 彼女の名前は涼姫愛莉すずひめあいり。その優れた容姿から学校一の美少女として有名だが、いつもクールな様子で、近づき難いオーラを放っているためか、学校ではいつも1人でいることがほとんどだ。


「涼姫さんってほんと綺麗だよね、お人形さんみたい」


「俺たちとは住む世界が違うよ」


「ま、まぁ、そうだよな」


 ゲームをする指を止め、つい見惚れてしまっていた俺だったが、陽葵と風道の声でふと我に帰り、またゲームをやりだす。


 一方の涼姫さんは、案の定いつものように1人で読書を始めた。



 


 この時俺は気づかなかった。


 涼姫さんが俺のことをジッと見つめていたことに。









 放課後


 俺は陽葵と風道と別れ、ラブレターの件で中庭に向かっていた。ゲームばかりの俺だが、初めての事にさっきから胸の鼓動が止まらない。一体誰が来るのか、なんて返事をしようか、色んな事が頭の中を駆け巡っていた。



 そんなこんなで考えているうちに中庭に着いてしまった。来てみたは良いもののまだ誰も居らず、風で草木が揺れる音だけが響いていた。仕方なく、俺はベンチに座って待つ事にした。



 


 

 中庭。

 俺たちの学校は1年から3年までの教室がある『教室棟』と理科室や美術室などその他の教室や部室がある『特別棟』に分かれていて、その2つの間に中庭は存在する。昼休みはイチャイチャしているカップルで溢れかえっているが、放課後の中庭はひっそりとしていた。


 普段は絶対来ない場所であるため、俺はずっとソワソワしていたが、しばらくすると、教室棟の方から1人の女子生徒がこちらに向かって歩いてきた。


「ごめんなさい、待たせちゃった?」


 

 やって来た人物に俺は驚きを隠せなかった。


「な、な、なんで涼姫さんが!?」


 そう、現れたのはクールな学校一の美少女、涼姫愛莉だった。


「そんなに驚くことかな」


 涼姫さんはきょとんとしている。


「私ね、月ノ瀬君にお願いがあるの」


 俺はその『お願い=』が涼姫さんの口から放たれるのを待ちながら、どんな返事をしようか再び考えを巡らせていた。




 しかし、涼姫さんの口から放たれた言葉は

全く予想もしていないものだった。




















「私とゲ、ゲーム...やらない?」








_____________________



まきしむです!

本日(1月9日)もう1話更新できればと思っています!

もし間に合わなかったらごめんなさいm(_ _)m


いよいよ開幕しました。これからどんどん面白くなってきます。(たぶん)

拙い文章ですが、読んで頂けたら嬉しいです!


フォロー、応援コメント等も頂けたら励みになります!


では!




 

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