第2話 ゲーム部?



「私とゲ、ゲーム...やらない?」






 涼姫さんの口から告げられたのは、全く予想もしていなかった言葉だった。


 ゲ、ゲーム…?



「あっ、ごめん。正確にはゲーム部…なんだけど」



「ゲ、ゲーム部…?」


 だめだ、全く頭が回らない。突然の事すぎて脳の処理が追いついていない。



「うん。私と月ノ瀬君で部活をするの。

 私とじゃ…ダメ、かな?」


 そんな可愛い顔で見つめないでくれ。全く状況を理解できていないのに、そんな顔でお願いされたらとりあえずOKしたくなっちゃうだろ。


「な、なんで、俺なの?」


 なんとか平静を保ち、俺は気になっていたことを聞く。


「えっとね、月ノ瀬君がゲーム好きって聞いたから」




「…………」





「え、それだけ?」


 俺を選ぶだけの大層な理由があると思ったら、意外に単純な理由だった。


「他にいないの。お願い…」




「…う〜ん」




「ま、まぁ、まだよく理解できてないけど、俺にできることなら力になるよ」


 結局、涼姫さんの可愛い顔に負けてしまい、なんとなく流れで了承してしまった。


「ほんとに…?ありがとう!」


 涼姫さんはパァーっと笑顔になる。


 勢いでゲーム部を作ることが決まってしまったが大丈夫だろうか…。というか、涼姫さんの笑顔なんて初めて見た気がする。涼姫さんも笑うんだな。




「ところでさ、なんでゲーム部なの?」


 俺は最大の疑問を聞くことにした。実際、「クールなお嬢様」といった感じの涼姫さんとはかなりかけ離れている印象だ。


 

 すると、涼姫さんは近くのベンチに座り、軽く俯きながら話し始めた。



「実はね、私小さい頃からゲームが大好きで、ずっと一緒に遊ぶ友達が欲しかったの。



 昔はよく一緒に遊んでた子がいたんだけど、小学生の時、ゲームで喧嘩してその子を泣かせてしまって…。そのあとその子は転校しちゃったから、それ以来人とゲームをするのが怖くて、人と話すことすら躊躇うようになっちゃった・・・



 それから、高校に入学して、たまたま聞こえた月ノ瀬君と渡来君の会話から月ノ瀬君がゲーム好きってことを知ったの。気になっちゃって、毎日盗み聞きしているうちに、『この人となら楽しくゲームできるかも』って思えたの。


 でも、恥ずかしくてなかなか言えなくて、部活ってことにすれば誘いやすいかなって思って…」


「そうなんだ…」


 涼姫さんの重い過去と隠していた思いを聞いて、俺は言葉がでなかった。


「これでも最初は怖かったんだよ。拒絶されるんじゃないかって」


「確かに最初は驚いたけど、俺と同じゲーム好きがいて素直に嬉しいよ」


「ほんとに?よかったぁ…」


 涼姫さんは安堵するが、その細く綺麗な手は微かに震えていた。相当勇気を振り絞って伝えてくれたのだろう。




 

 こうして、俺にとって初めての異性からの告白は思いもよらない形で幕を閉じた。そして、学校一の美少女とのゲームを通した奇妙な関係が始まった。











 人生初の告白?を受け、俺は今涼姫さんに連れられ、特別棟1階の片隅にあるとある部屋に来ていた。


「何、この部屋?」


 見たところ物置きのような部屋だ。通常の教室くらいの広さはあるが、積み重なった机や椅子、その他授業で使われるであろう様々な物があちこちに置いてある。


「ここが私たちがゲームをする部室だよ」


「え、ここが部室!?」


 涼姫さんの言葉を俺は正直信じられなかった。埃臭く、物が散乱しており、決してゲームができるような環境ではなかった。



「創部届け出したら、この部屋使ってって先生

に言われたの」


 まじかよ。こんな汚い部屋どう使えって言うんだよ。


「そういや、うちの学校って確かに部員2人から創部できるけど、確か顧問が必要だったよな?」


「うん。桐谷先生にお願いしたら、快く了承してくれたよ」


「桐谷先生!?」


 桐谷深鈴きりやみすず、29歳独身。俺たち1年2組の担任である。『適当に』が彼女のモットーであり、少々ちゃらけた先生だ。正直頼りない。


 あのふざけた女教師、適当に決めやがったな。


「まぁ、部室貰えただけでもありがたく思おうよ」


「涼姫さんがそう言うなら、まぁいいけど」


 かぁ〜、涼姫さんは聖人か何かなのか。桐谷先生にはその寛大な心に感謝してほしいものだ。




「ちょっと散らかってるし、まずは掃除しようか」


「そうだな」


 そうして、俺たち2人は部室となるこの物置き教室の掃除を始めた。









 掃除を始めてから30分くらい経っただろうか、だいぶ足の踏み場が増えて綺麗になった気がする。それでも、まだまだ部室にするには汚く、俺たちは掃除を続けていた。



「やっほー!君たちやってるー?」


 すると、勢いよく扉が開き誰かが入ってきた。


「桐谷先生…」


 そう、桐谷深鈴本人である。こんな感じで生徒と話す時も軽い調子だ。


「桐谷先生!なんでこんな部屋なんですか!

もっと良い部室あったでしょ!」


 俺は部室の件で先生に詰め寄った。


「んもう〜、そんなに怒んないの!せっかく涼姫ちゃんと月ノ瀬君が部活始めるって言うから、担任として顧問になってあげたのに〜〜

月ノ瀬君こわ〜〜い」


 そう言って泣いたふりをする桐谷先生。

 (くっそ、こいついつか泣かす!)


 俺が桐谷先生とこんな感じで言い合ってる間、涼姫さんは黙々と掃除を進めていた。


「ん、これなんだろう?」


 何か見つけたのか俺に見せてくる。




「ゲーム?と、なんだこれ?ゆ・う・ぎ・ぶ?」


 涼姫さんが見つけたのは、古い家庭用ゲーム機と『遊戯部』と書かれた看板だった。俺たち2人は何が何だか分かっていなかったが、隣で見ていた先生は何か知っているような顔で、俺たちに話してきた。


「そうそう、それよそれ。それがあると思ってこの部屋にしたのよ」


「どういうことですか、先生?」


「実はね私もよく知らないんだけど、昔この学校には遊戯部ゆうぎぶっていう部活があったらしいのよ。そして、ここがその部室だったみたいで、ゲーム部って聞いてたからその備品が使えないかなーって思ってね」


 遊戯部。聞いたところによると、ボードゲームやカードゲーム、その他色んな『ゲーム』で遊ぶ部活だったらしい。ゲーム部が許されるようなゆるい学校ではあるが、昔からそんな部活があったとは知らなかった。


「そういうことだから、この部屋のものは自由に使っていいわよ〜」


「え!本当ですか?ありがとうございます!」




 そうして、説明を終えた桐谷先生は「お先に〜」と言って

そそくさと帰っていった。 

 

 軽い人ではあるが、意外に生徒のことを考えてくれる良い先生なのかもな。俺は少しだけ桐谷先生のことを見直した。




 一方の涼姫さんはというと、さっきからどこかソワソワしていた。


「月ノ瀬君…これ、やってもいいんだよね?」


 そう言って、目を輝かせた涼姫さんが指を指したのは、見つけたばかりの古い家庭用ゲーム機だった。相当やりたそうな顔をしている。


「ほんとにゲームが好きなんだね」


「うん!」


 プレゼントをもらった子どものように喜ぶ姿に俺は苦笑いする。


 俺も少し気になっていたので、「ちょっとやろうか」と言おうとしたその時、


 キンコンカーンコーン

と下校時間を告げるチャイムがなった。



「おっと、もうこんな時間か。今日はもう遅いしまた明日やろうか」



「……う、うん。そうだね」


 少し残念そうな涼姫さんだったが、先生たちに怒られるのも嫌なので、俺たちは渋々帰ることにした。






「じゃあね…。また…明日」


「お、おう。また、明日」


 こんな感じで校門前でぎこちない挨拶を交わし俺は涼姫さんと別れた。







 明日から、俺と涼姫さん2人のゲーム部が始まるのだ。



_____________________


まきしむです!

読んで頂きありがとうございます!


なんとか更新できました。


拙い文章ですが、これからも読んで頂けると嬉しいです!

また、フォローやいいね、応援コメントも頂けると励みになります!


では。また明日!






















 









 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る