きっかけ?七五三だ。こうなった原因?母親だよ!!

 

 

 

 唐突だが俺、青木 導は歌う事が好きだった。

 プラスして楽器を弾くのも好きで自分で作詞作曲もしたりする。

 きっかけは、そう母親。

 母親は音楽放送関係の仕事でプロデューサー等を務めていた事だ。おかげで幼い頃から様々な音楽関係者と顔を合わせていた。

 その中で彼らから知識や技術を教えてもらっていたら、俺自身思いの他、才能があったらしく教えて貰えた事が上手く出来ると学校の勉強で先生に褒められるより、嬉しかったから更にのめり込んでいった。

 

 その為か若干12歳で俺は”歌手”としてデビューした。

 US TUBEやキラキラ動画という配信アプリを使って色々な歌手の曲をカバーしたり、オリジナル曲も流したところ、これがバズったのだ。

 

 それを知った母親は何やら敏腕プロデューサーとしての勘が働いたのか、関係各所に調整し、売り込みを行って当事者である俺を置いてけぼりにあれよあれよとデビューに至った。

 

 正直、困惑もしたが同時に嬉しくもあった。

 自分のやってきた事、作ったモノが認められたのだから嬉しいに決まっている。

 ただ……そう1つ残念なのは…

 

「”シラベ”ちゃーん!そろそろ出番!準備して〜」

 

「はぁーい!」

 

 俺のマネージャー兼所属事務所社長となった母の呼ぶ声に答える。

 今日は土曜日、時間帯は12時を少し回ったところ。

 MVの撮影をする為に俺はあるスタジオを訪れていた。

 所属する事務所でも撮れない事はないが、大規模なものとなると必要な機材や場所と衣装が要る。

 色鮮やかな普段では滅多に纏えない着物を綺麗な所作で整え、艶やかな長い黒髪をたなびかせ、俺…いや、”私”は控え室から出る。

 扉を開けた先には母親、青木 里奈が待ち構えていた。

 彼女の目に映るのは十人居たら十人が振り返り、その瞳を釘付けにするであろう絶世の美女。

 に、女装した男子…そう、俺です。

 その姿に母は毎度の如くあからさまに喜色を浮かべ、抱きついてくる。 

 

「うーん!今日のシーちゃんもサイッコーに可愛いわぁぁ!!」

 

「母さん、抱き着かないでくれ。あと、この着物高級品だから汚れたりシワついたりしたらヤバい。折角整えたのに」

 

 思わず素の声音で答えながら、やんわりと母を身から引き剥がす。乱れた衣服を整えて改めて向き合う。

 

「あはは、ごめんごめん。ついね?」

 

「別にいいけどさ。謝りながらスマホで写真撮るのも止めて」

 

「それは断る!!」

 

 俺のいさめる言葉もテンション上げ上げの母に届かないらしい。

 激写を止めない。

 いつもの事だが。

 

「だって、歌手モードはいつも可愛くて綺麗なシーちゃんだけど、今日の衣装との組み合わせは今日限りなのよ?レアなシーちゃんはみんなで共有しないと!」

 

「まさか、事務所のLINERに載せないよな?」

 

「載せるに決まってるじゃん。みんな、シーちゃんの姿を心待ちにしてるわよ、きっと」

 

「いや、みんな部活か個人作業中だろ。それか突発的に事務所で動画撮ってるか…石動Pとスタッフ巻き込んで」

 

 言葉にして、その情景を思い浮かべると休みの日なのに元気が有り余ってる女子高生アーティスト達に呼びつけられ、カメラを回しているかもしれないプロデューサーとスタッフ達に同情を禁じえなかった。

 今日、事務所で仕事の所属アーティストは俺だけ。

 もし、事務所でそんな作業していても、予定されている業務ではないので休日手当は付かない。

 撮ってる動画がバズって再生回数を稼げたら、母が金一封は贈呈してくれるかもしれないが…これは博打に近い。

 まぁ、真偽のほど定かじゃないから分からないが。

 

 それよりも、

 

「写真、事務所のLINERで止めろよ?この前みたいにSHOUTとか他のSNSに上げたりしてひと騒動起こられたら事務所の信用が落ちる」

 

「大丈夫よ。前回みたいな事なしないわよ。でも、あのイベント、流出写真のおかげで相当盛り上がったらしいじゃない?」

 

「怪我の功名…ラッキだっただけだろ?2度目はないよ」

 

 母の戯言をバッサリ切り捨てて、俺は踵を返した。

 いつまでも廊下で話してる場合じゃない。

 仕事の時間だ。

 歩き出そうとスタジオの方の廊下へ向いた。

 

 すると…

 

「ほらほら、シーちゃん。皆から反応返ってきたわよ?」

 

 歩き始めた最中。

 母は横から俺にスマホ画面を見せてきた。

 母も目を引く美人なので、並んで肩を寄せ合う形でスマホを見る仕草は仲良し母娘に視えるだろう。

 実際は母と息子だけれど。

 

 映される画面に視線を向けると、通知にはこう返事されていた。

 

『美麗〜!!間近で見たかった!(> <)』

 

『うわっ、似合い過ぎでしょ』

 

『せんぱい、うつくしいです』

 

『これはヤバいわね〜。昔の写真や夏の浴衣姿とか見て、知ってたけど別方向に破壊力が違う』

 

『お綺麗です!!』

 

『流石、"お姉ちゃん=!期待を裏切らない!

( ̄ー ̄)b』

 

 事務所に所属するアーティスト6人からの返信を確認した俺は思わず溜息を漏らす。

 類稀な愛らしさと美貌を持たれる彼女達の称賛の声はある意味、自信になるし誇らしいが、何か虚しさが込み上げてくる。

 取り敢えず思ったことは1つ。

 義妹は帰ったら締め上げる。

 

 俺は仕事前に何処か疲れた雰囲気を醸し出していると、その元凶の一因と云える母が俺を覗き込むように見ながらサムズアップしていった。

 

「さすが、我が子!幼い頃から積み上げてきたモノの賜物ね!」

 

「あぁ、そうだな!アンタが俺がこの姿をする原因で、一番の諸悪の根源だよ!」

 

 青木里奈。

 自分の息子を絶世の男の娘へと変貌させた母。

 七五三の時分、息子に女の子用の着物やメイクを施した際に、その余りにも似合い過ぎな容姿にすっかりメロメロ。

 それから息子を何かにつけて女装させ、完璧な絶世の美女に作りかえようと画策した、キャリアウーマンではあるが倫理という頭のネジを2、3本落としているで本当にヤバい女性である。

 

 

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