第5話

 放課後にガールフレンドと話すのは新鮮だった。


 羽が生えたみたいに心がフワフワする。

 質問されていないことまで教えたくなる。


 まさに1分1秒が輝いていた。

 現在進行形の恋って、終わらないテーマパークみたい。


「次は俺の番か……」


 互いに1個ずつ質問していった。

 まずはミチルが答えて、その次にヒメコが答えて。


 ヒメコが知りたがったのは、

『いつから私の配信を観ていたの?』

『他に好きなVTuberさんっているの?』

『印象に残っている私の企画とかある?』

 という内容だった。


 会話のキャッチボールが心地いい。

 ヒメコについて1つ知るたび、幸せな気持ちが育っていく。


「うそ⁉︎ 私がリスナーさんとMMORPGで遊んでいた時期⁉︎ それってデビュー直後……ていうか、当時は未熟だったし、恥ずかしすぎて死にそう……」


 ヒメコは真っ赤になった顔を手で隠している。

 でも、イルミナ=イザナの古参ファンであることは、ミチルの数少ない自慢なのだ。


「他に好きなVTuberさんか……そうだな」


 いくつか有名な名前を挙げておく。

 その半数は大手プロダクションに所属している超有名人だ。


「私もその人の配信、毎週観ている! 大好きなの!」

「神木場さんって、自分がVTuberなのに、VTuberのファンでもあるの?」


 こくこく、と2回うなずくヒメコ。


「あの人は尊敬している。ファンの1人、というか、ガチ恋勢かも。しゃべり方とか参考にしている部分もあって……」


 いったんスイッチが入ると、ヒメコの熱弁は5分も続いた。


 あの神回は感動して泣いたとか。

 その人が病気になった時は号泣したとか。

 復帰してくれて涙腺るいせんが崩壊しまくったとか。


 身振り手振りを交えて話すヒメコは、教室とは別人みたいに楽しそう。


「うっ……なんか泣いてばっかり……私って弱虫だ」

「ううん、神木場さんは優しいんだね。自分じゃない誰かのために泣けるなんて」

「やさっ⁉︎」


 ヒメコの頬に赤みがさした。

 恋人というよりは、かわいい妹ができたみたいで、頭をナデナデしたくなる。


「でも、俺がVTuberを好きって、よく知っていたね」

「時々クラスの人と話していたから……それを盗み聞きしていて……」


 ああ……。

 ミチルの周りにはVTuber好きが4人くらいいて、定期的に情報交換をやったりする。


 今週の歌ってみた動画は素晴らしかったとか。

 誰それと誰それの絡みには爆笑したとか。


「イルミナ=イザナのこと、1番詳しいの坂木くんだったから。私にはそれが……とても、とても……嬉しかった……のです」

「神木場さん、話し方がおかしくなっている」

「はぅ……」


 配信中はスラスラと話すイメージなのだが……。

 対面だと目を見ながら話すのは苦手らしい。


「あと、坂木くん、イルミナ様と付き合いたいといってて……私にとってはプロポーズに等しくて……その日から坂木くんを目で追うようになって……今日のお昼休み、守ってくれたのがトドメです……」

「あれを聞かれたのか⁉︎ 痛々しすぎて吐血しそう!」


 あったな。

 付き合いたい発言。


 頭がヤバいやつ。

 まさに黒歴史確定のやつ。


 今度はミチルが黙り込む番だった。


「実は私、VTuberをやめようか迷ったことがあって……」

「そうなの⁉︎」

「う……うん」


 いきなりの告白に、ミチルはギョッとした。

 大成功している部類だし、配信だってコンスタントに続けているのに。

 そうか、ヒメコにも辛いことはあるんだ。


「その人のことを責めるわけじゃないけれども……」


 ある日、ミチルの友達が、

『イルミナの占いはインチキ、やらせ、すべて自作自演』

 というのを小耳に挟んだらしい。


 ひどい……。

 が、非科学的なので、証拠を示すことはできない。


「でも、坂木くんは私の肩を持ってくれて……イルミナ様の占いは本物だって……それを聞いて……嬉しくて泣いたのです」

「マジで⁉︎」


 当時を思い出したのか、ヒメコの目に光るものが浮いてくる。


 ミチルはハンカチを取り出した。

 赤面しつつ、震える手に握らせる。


「これ、清潔なやつだから。まだ1回も使ってないやつ」

「ありがとう」


 ヤバい……。

 ヒメコの弱い一面を見てしまった。

 こんなの、絶対好きになる。

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