第3話 挨拶代わりで殺しにかかるってどこの世紀末ですか!?

 本多は斧槍を振り下ろした。

 斧槍の刃は弦人の首元を狙って、一直線に突き進む。

 が、その刃が到達する直前、斧槍を凄まじい雷撃が襲った。

 弦人と本多はともに衝撃で後方に吹き飛ばされる。


「くっ!!」


 斧槍を持っていた本多の手は痺れて動かない。

 斧槍は弦人と本多の間の地に落ち、パリパリと雷を帯電している。


「なーに、ガチで殺しにかかってんだ、本多?」


 少し離れたところから、若い女の声がした。


 弦人と本多は声のした方を見る。


 声の主は屋根の上にいた。

 棟に腰掛け、足を組んで座っていた。

 20代前半の細身の女で、本多と同種の軽装鎧を身に着けており、体全体にパリパリと小さな雷を帯びている。

 髪は栗色のショートボブで、キリッとした大きな目で、猫のような顔立ちだ。


「いーとこで邪魔すんじゃねーよ、霧島」


 本多は、女を恨めしそうに睨んだ。


「ちょっと遊ばせてくれっ言うから好きにさせたらこれだよ。獲物追い始めたら食い殺すまで止まらない野犬か、お前は?」


 女は飽きれ切った顔で本多を睨み返した。


 弦人は状況が読めず、二人のやり取りを見ていた。


 今度はなんだ!?

 コイツの仲間か!?


「アンタは誰ダ?」


 弦人は女に問いかけた。


「はじめまして、“レベル0”。いや元“レベル0”と言うべきか?たった4ヶ月でそこまで動けるようになるとは大したもんだ」


 女はそう言って、屋根から飛び下り、まるで猫のように音もなく地面に着地した。


「私の名前は霧島静きりしま しずか。第4期だ」


 弦人はげっと驚愕する。


 さらに上かよ!?

 二人がかりで来られたらもう秒殺だぞ!!


「安心しろ。元々お前と敵対するつもりはない。この本多という男は人を見たら噛みつかずにはいられない野犬みたいな男でね。今のは挨拶代わりと思って許してやってくれ」


 霧島はそう言って微笑み、斜めがけに背負っていた鞄から包帯や軟膏を取り出し、弦人の傷の応急処置を始めた。


 いやいやいやいやいや!!

 その挨拶代わりで俺今殺されかけましたけど!?

 挨拶代わりで殺しにかかるってどこの世紀末ですか!?


「俺は相馬弦人。ヨロシクお願いしまス」


 弦人は心の中で全力でツッコミながらも、丁重に挨拶した。


「で、アンタ方はいったいなんダ?敵対するつもりはないって言われても、家の中はあんなだし、フレアも姿が見えないシ」


 弦人はそう言って警戒を顕にする。


「“白銀の魔女”は無事だよ」


 霧島はそう言って懐から一通の手紙を取り出した。


「私達は3日前にお前に会うためにここへ来た。そして白銀の魔女に会った。だが、白銀の魔女はちょうど商用で西のフレンツェ共和国に旅立つところだった。しばらく留守にする旨をお前に伝えたい白銀の魔女は、お前に会おうとしている私たちに手紙を託した」


 弦人は手紙を受け取り中身を確認する。

 間違いなくフレアの字であった。


 ゲントへ

 そろそろ戻ってくる頃なのではないかと思っていますが、魔法用具の大口の受注があってフレンツェ共和国に行かなければならなくなりました。

 あなたの先輩にあたるキリシマさんとホンダさんが、折よくあなたに会いにいらっしゃったので、このように手紙を託させてもらいました。

 1ヶ月ほどで戻る予定です。

 もし、ゲントが帰ってきてこの手紙を読んでいたら、すみませんが留守の間よろしくお願いします。

 フレア・アイリスフィール


 弦人は手紙を読み終わり、どうやらフレアが無事であることがわかり、安堵した。


「でも、あの家の中の惨状ハ?」


 弦人はもう一つの疑問を二人にぶつけた。


「それについては、すまないが私たちにもわからない。3日前に白銀の魔女が旅立ったあと、私たちは近くの街で宿をとり、日に何回かお前が帰ってきていないか様子を見に来ていた。昨日の夕方はなんともなかったが、今朝来てみたらこの有様だった。おそらく賊は昨夜のうちに入ったんだろう」


 弦人は霧島の話を聞いて考えこんだ。


 一応筋は通ってる......

 それに、この二人には俺を騙す理由がない......

 この二人が俺から物か情報かを奪うのが目的なら、圧倒的な力の差があるのだから、力づくで奪うか吐かせればいい......

 とすれば、家を荒らした犯人はやはり別にいるのか......


「賊の目的はいったいなんなんダ?」


「さあな。白銀の魔女はこの国ではかなり名の通った魔法研究者らしいから、彼女の研究を奪うのが目的か、あるいは真島のとばっちりか......」


 霧島の言葉で予想していない名前が出てきたので、弦人はピクリと反応した。


「真島のとばっちりって、俺を狙ってる6期の誰かが、俺の居場所の手がかりを探すために侵入したってことカ?」


 弦人の言葉に二人は顔を見合わせて怪訝な顔をする。


「お前、真島について何も知らないのか?」


 そこまでずっと黙っていた本多が口を開いた。


「元の世界で闇カジノやってたとか、イカれたギャンブルジャンキーだとかってことくらいしか知らなイ」


「そうか。今年召喚されてきた6期のお前たちの中には知らない者がいても無理はないか」


 霧島はそう言って弦人の傷の応急処置を終え立ち上がった。


「1年前、真島はあるとんでもない物を手に入れた。それ以来、召喚者のほとんどがヤツを血眼になって追いかけている」


「とんでもない物?」


「陳腐な話になるが、こういう世界につきものお決まりのヤツさ。この世界には勇者がいて、魔王がいる。そして、勇者が魔王を倒すのに必要な物があるだろ」


 弦人はその話を聞いてなんとなく察しがついた。


「それって、まさカ?」


 霧島は忌々しげに頷いた。


「真島は、“伝説の勇者の剣”を持っている」



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