最終話 さあ、これからだ!!

 弦人がはじめてスライムを倒した日から、およそ100日が経過した。

 レベル1に上がったあと、弦人も普通の打撃だけでスライムが倒せるようになり、その後ひたすらスライム退治にいそしんだ。

 その日も弦人は森中を駆け回りながらスライムを倒した。


「よっ、はっ、てやっ」


 剣の腹を使って、まるでもぐら叩きのように次々にスライムを倒していく。

 だいたい1時間に100匹、昼間ずっと森にこもって1日1000匹は倒している。

 毎日そんなに倒していたら、森のスライムが絶滅しそうなものだが、スライムの繁殖力が強いのか、はたまた自然現象として無から発生しているのか、スライムは全く減る気配がなかった。

 もっとも、スライムを倒してレベルを上げている弦人にとっては好都合だった。

 1日1000匹を100日。

 弦人が倒したスライムの数は単純計算で10万をゆうに超えていた。


 そして、本日何百匹目かのスライムを倒したあと、あの音が響いた。


 トゥルルルットゥットゥットゥー!!


 ソーマ•ゲント

 レベルアップ

 レベル:9

 クラス:剣術士

 HP:99

 MP:48

 SP:54

 攻撃力:98

 守備力:81

 命中力:82

 回避力:89

 ・

 ・

 ・


 弦人はレベルアップの表示を見ながら浮かない顔をした。

 1ヶ月ぶりか......

 そろそろ潮時だな......



 その夜、夕食を食べ終えたあと、弦人はジェームズとメアリに話を切り出した。


「長い間、お世話になりましタ!!」


 弦人はそう言って深々と頭を下げた。


 スライムを倒せるようになってから最初はするするとレベルが上がったが、徐々にレベルが上がらなくなった。

 毎日だいたい同じ数を倒しているのに、レベルが上がるまでの間隔が、1日、2日、3日、......と徐々に長くなり、レベル8からレベル9に上がるのにはまる1ヶ月もかかっていた。

 大分粘ったが、スライムでレベルを上げるのは流石に限界であった。


「そうですか......いよいよ旅立つのですね......」


 ジェームズは感慨深そうにそう言った。

 その横で、メアリは無言でむすっとしている。


「どうしたんですか、メアリ?ゲントさんがいなくなるのが寂しいんですか?」


 ジェームズがメアリに優しく問いかける。


「ゲントきらい。スライムたおせるようになってからぜんぜんあそんでくれなくなった」


 メアリは弦人を恨めしそうに睨んだ。


 弦人は苦笑する。

 全く歯がたたなかったスライムをするする倒せるようになってしまったので、ついつい一人で森じゅうを駆け回るようになってしまったのだ。


「メアリ。ゲントさんを困らせてはいけませんよ。ゲントさんには大切な役目があるのですから」


 ジェームズはメアリを諭そうとするが、メアリは頬を膨らませてぷいっと明後日の方に顔を背けたのだった。




 翌朝、弦人は荷物をまとめ、荷物を載せた馬を引いて馬小屋を出た。

 外にはジェームズとメアリが見送りのために出てきてくれていた。


「ご武運を......」


 ジェームズは右手を弦人に差し出した。


「長い間、本当にありがとうございましタ!!」


 弦人はジェームズの手を握り返した。


 そして、弦人は恐る恐るメアリのほうを見た。


 完全に嫌われちまったかな......


 見るとメアリは、腕組みをして、仁王立ちしていた。


「ゲント!!」


 メアリは力の限り大きな声で弦人の名を呼んだ。


「ハイ!!」


 弦人は思わずたじろぐ。


 なんだ?

 やっぱり怒ってるのか?


「こんかいのところはみのがしてやる!!だから、かならずさいきょうのゆうしゃとなり、このまおうメアリをたおしにくるのだ!!」


 メアリはそう言ってニヤリと笑った。


 弦人は苦笑した。


 敵わねーな......

 このちびっ子には......


「ああ!!必ず最強の勇者になって、お前を倒しに戻ってくるゾ!!魔王メアリ!!」


 弦人はそう言って馬に跨り、旅立っていった。


 ジェームズとメアリは手を振って、弦人が小さくなるまで見送った。


 そして......


「宜しかったのですか?」


 ジェームズはメアリに話しかけた。


「雑魚とはいえ、召喚者に手を貸すようなことを......」


 ジェームズの表情はそれまでの優しげな青年の雰囲気は消えており、氷のように冷たい目をしていた。


「お前のほうこそ、その雑魚の心を折るためにクサい芝居をしおって。横で笑いを堪えるのに必死だったぞ」


 メアリはそう言ってクククッと笑った。


「ああいうタイプは恐ろしいですよ。最初の街のまわりでスライムだけ倒してレベル99までいくタイプです」


 ジェームズはその冷たい目で弦人が去っていった方角を見つめた。


「そうか。それは先々楽しみだ。さて、そろそろスローライフにも飽きてきたところだし、休暇は終わりにして公務に戻るか......」


 そう言って、メアリは踵を返した。


「行こうか。スチュアート卿」


「は、仰せのままに」


 ジェームズは恭しく頭を下げ、その少女の本当の名を呼んだ。


「魔王イン・ディビュア猊下......」




 弦人はしばらく馬を走らせたあと、何かが近づいてくる気配を感じ馬を止めた。


 まわりを見回すと、4時の方向から黒い触手の塊のようなモンスターがまっすぐ弦人の方に向かってきていた。


 ああ、“森喰い”かー......

 ま、腕試しには丁度いいかもなー......


 弦人は馬を降りて、森喰いが向かってきている方角に向いた。

 そして、体をやや前屈みに構え、右手を剣の柄に添える。


 森喰いは凄まじいスピードで弦人に近付き、尖った歯がびっしりと並んだ口を大きく開けた。

 その口に弦人の頭が呑まれる直前、弦人は一瞬で剣を抜き、一気に右斜め上に斬り上げ薙ぎ払った。

 次の瞬間には、剣の圧がかまいたちのように森喰いの体を真っ二つにしたのだった。

 森喰いの体は光の粒子に変わり、空中に消えていった。


 弦人は、うん、まあこんなものかと、満足そうな顔をした。


 そして、遥か遠くの空を見つめた。


「さあ!!これからダ!!」




 第一部 完




ここまでお読み頂き誠にありがとうございました!!

もし、お楽しみ頂けましたら、ブックマーク、★、レビューコメントなど頂けると本当に本当にありがたいですm(_ _)m

宜しくお願い致します!!


https://kakuyomu.jp/works/16816927859644967220

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