第4話 単語の意味がわかんねーよっ!!

 少女は弦人の気迫に、少し気圧されている様子だ。


 まずは言語だ!!

 この世界の言葉を覚えないと、どうにもならねー!!


 考えろ!!

 どうすれば、言葉を覚えられる!?


 弦人は必死に思考を巡らせる。


 語学の構成要素は、スピーキング、リスニング、ライティング、リーディングだが、これらはあくまで実践のときの形態でしかない......


 語学の基本要素......

 単語、文法、発音......

 そして、この中で最初に最も重要なのは......

 単語だ!!


 単語の意味がわからなければ、コミュニケーションのとりようがない......

 単語の意味を一つでも多く知らなければならない......


 だが、ここが最大の問題だ......

 元の世界で外国語を学ぶのと違って、教科書も、辞書も、単語帳もない......


 どうやって単語の意味を知ればいい?

 何か言葉の意味を知る方法は......


〈あの言葉〉が......

〈あの言葉〉さえ分かれば、一気に数百語でも、数千語でも、意味がわかる!!


 弦人はさらに考えた。

 目の前にいる少女に〈あの言葉〉を言わせる方法はないか。


〈あの言葉〉を言わせるためには、この世界の人間が見たこともないものを見せればいい......


 何か......

 この世界に絶対ないもの......


 弦人は体中のポケットをまさぐる。

 飛ばされる前に持っていたカバンは、こちらにきたときにはなくなっていたので、身に着けていたものしかない。


〈アレ〉があれば......

 あった!!


 幸い、スボンの右ポケットに入っていた。

 弦人はそれを取り出し、少女の前に突き出した。

 それは、『スマートフォン』だった。


 少女はスマートフォンを不思議そうな目でひとしきり眺めたあと、こう言った。


「クイッド、ホック、エスト?」


 きた!!

 これだ!!


 弦人はその言葉を一言一句逃さず覚えた。

 言葉を正確に暗記したあと、弦人はこう言った。


「スマートフォン」


「スマートフォン?」


 少女は弦人の言葉を繰り返した。


 間違いない......

 彼女は、今、この物体の名前を尋ねていた。


 弦人は近くにあった木に駆け寄り、木を指差してこう言った。


「クイッド、ホック、エスト?」


 少女は、弦人が突然こちらの言葉を喋ったので驚いたが、すぐに答えた。


「リーヌーマ」


 当たりだ!!


 弦人は次に家に駆け寄り、家を指した。


「クイッド、ホック、エスト?」


「ドム、オア、カーサ」


 少女も弦人の意図がわかってきた様子ですぐに答えた。


 弦人は次に畑を指した。


「クイッド、ホック、エスト?」


「アージェル」


 これで、決まりだ......


『クイッド、ホック、エスト?』は『これはなんですか?』だ!!


 この言葉さえわかれば、だいたいの単語は、特に目に見えているものはわかる!!


 そして、弦人は少し乱暴だが、ある使い方を思いついた。


 弦人は自分を指差して、「クイッド、ホック、エスト?」と言ったあと、「ゲント」と言った。


 弦人の意図は少女に伝わったらしく、弦人の名を呟いた。


「ゲント......」


「そう、俺の名前はゲントだ!!」


 弦人は、次に少女を指して「クイッド、ホック、エスト?」と言った。


 少女はそう来ると予測していた様子で、すかさず答えた。


「フレア」


「フレアか。キレイな名前だ」


 フレアは次に、自分のことを指して「エーゴ」、弦人のことを指して「ヴォス」と言った。


 弦人はその意味をしばらく考えたあと、ひっくり返して、自分ことを「エーゴ」、フレアのことを指して「ヴォス」と言った。


 フレアはその通りという表情で、うなずいた。


 つまり、『エーゴ』は自分指す言葉、すなわち『私』、『ヴォス』は相手を指す言葉、すなわち『あなた』だ。


 なんだ、やってみれば、結構わかるじゃないか......

 チートも自動翻訳もいらない......

 知恵と行動力があれば、この世界でも生きていける!!


「エーゴ、ヴォス......」


 弦人は、そう言って自分の手と手で握手をする動作をした。


「アミーカ」


 そう言ってフレアは笑顔で右手を差し出した。


『アミーカ』はたぶん『友達』かな......


「ゲント、フレア、アミーカ」


 ゲントはそう言って、笑顔でフレアの手を握り返した。



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